新車試乗レポート
更新日:2020.09.08 / 掲載日:2020.09.08
NISSAN 新型キックス実力CHECK
ノートやセレナで高評価を得ているe-POWERをより熟成させ、プロパイロットを始めとした数々の先進安全装備も搭載した新型キックス。実力派ライバルがひしめくコンパクトSUVクラスにおいて、その実力はいかほどのものなのだろうか? 実走インプレッションを交えてみていこう。
電動ならではの爽快な走り! 実用性も含めすべてがトップクラス

これぞスモール&コンパクトの次世代標準だ

NISSAN キックス Xツートーン インテリアエディション ●車両本体価格:286万9900円 ●ボディカラー:プレミアムホライズンオレンジ/ピュアブラック (特別塗装色:8万2500円高)
「際どい」とか「くどい」部分がない、キックス初運転後の印象である。例えばeパワーは、電動を意識させる多少の味付けはあるにしてもノートよりもマイルドな特性。eパワードライブ(S/エコ)選択時の強化されたエンブレ回生も反応のよさを維持したまま繋がりのいい減速特性だ。空走相当の減速も含めた穏やかな加減速で操作感覚が洗練された。もちろん、強いエンブレに抵抗がある、あるいはフットブレーキ主体の減速制御を求めるなら、エネルギー回生効率はかなり低下してしまうがノーマルモードを選択すればいい。今回ライバル車として挙げた5車との比較ではロッキー(ライズ)が最も活発な印象を受けるが言い方を換えるなら荒っぽくもある。即応性や低中速での加速の切れなどキックスの電動駆動感はライバルよりも明確だ。C-HRやヤリスクロス、ヴェゼルの大人味の部分と小気味よさの両立がキックスのパワーフィールの魅力といえる。ただ、悠々と言える程の余力はない。エンジン停止稼働時間を拡大したとはいえ、稼働頻度は高く、稼働中のエンジン回転数も高め。気温が高かったせいもあるが停車中のエンジン稼働も多々。高速域ではほぼエンジン稼働走行となりエンジン騒音は目立たないものの余力感も加速性能でも高速が得意とは言い難い。余力感ではC-HR/ヤリスクロスとヴェゼル/ロッキーの中間くらいだ。もちろん、この状況ではディーゼルのCX-3が最もゆとりが感じられる。ただ、それをして高速ツーリングに不向きというのは早計に過ぎる。高速直進は落ち着いているし、プロパイロットの運転支援も利いている。細かな揺れや振動の抑制など乗り味の質感に関わる部分ではヴェゼル同様に世代的に古いプラットフォームの改良型の感が拭えないが、スポーティや超高速に偏ることなく、市街地や郊外路での乗り心地から高速安定性まで一般的なユーザーが必要とする状況での快適性と安心感のバランスがいい。ファントゥドライブとかスポーティを求めれば魅力薄かもしれないが、良識とか見識を感じさせるサスチューンであり、その点ではヤリスクロスやヴェゼルと好ライバル。クルマ好きのための嗜好性よりも生活とレジャー用途に最適化したフットワークである。なお、ACCとLKAの基本機能は停止保持を含む全車速型ACCはここに挙げた全モデルが採用するが、車線維持支援はCX-3のみ逸脱警報、他は半自動操舵補正の持つ走行ライン制御型。同条件での比較ではないが、ACCの前車追従時の加減速制御やLKAの進行方向と車体軸線の一致感のある補正など、実性能としてプロパイロット採用車の中でもキックスは優等生であり、トップクラスの運転支援能力なのは間違いない。最新モデルらしい長所を備えながら多くのユーザーに受け入れられやすいウェルバランスを保つのは走りだけではない。居住性や積載性も同様だ。というか、キャビンを中心とした実用性がキックスのコンセプトの中心にあり、走りもその一環と考えるべきだろう。後席のレッグスペースもヘッドルームも余裕があり、後席使用時の荷室容量もワゴンに近い。後席機能と積載の多様性はヴェゼルに劣るが、後席の見晴らし等々も含めるなら実用性は比較車でもトップレベル。今回採り上げたモデルで唯一4WDが選択できないのが玉に瑕だが、セミハイト系の実用モデルと考えれば納得。実用性と車格でコスパを量ると少々高めの価格設定が気になるが、ちょっとラフロードにも足を伸ばせるタウン&ツーリングカーとしてとてもよくまとまっている。SUVとして云々よりもスモール&コンパクトの次世代標準と捉えてこそキックスの本当の価値が分かる。
NISSAN キックス

●発表日:6月24日 ●発売日:6月30日 ●価格:275万9900~286万9900円
海外では2016年から販売されているグローバルモデルのキックス。マイナーチェンジに伴い、このほど日本に導入された仕様はe-POWER搭載車のみ。プロパイロットをはじめとする先進装備も満載だ。FFのみという設定からもわかる通り、悪路ではなく都会が似合うプレミアムコンパクトSUVという位置づけだ。グレード展開はXとXツートーンインテリアエディションの2つとシンプル。NISSAN キックス X ツートーンインテリアエディション■主要諸元 ●全長×全幅×全高(mm):4290×1760×1610●ホイールベース(mm):2620 ●車両重量(kg):1350 ●パワーユニット:交流同期モーター(95kW/260N・m ) ●発電用エンジン:1198cc直3DOHC(82PS/10.5kg・m) ●トランスミッション:●使用燃料・タンク容量(L):レギュラーガソリン・41 ●WLTCモード総合燃費:21.6km/L

ダブルVモーショングリルやフローティングルーフなどが精悍で躍動的だ。後席やラゲッジに配慮しつつ若々しくまとめられている。
ルーフがブラックになる2トーンカラー(※4色あり)なら、シルバーのルーフレールが映えてよりオシャレな印象に。
2グレードともにタイヤサイズは205/55R17。シャープなイメージの切削タイプアルミホイールが足元をドレスアップする。
ボディ同色のアンダーカバーが特徴的なリヤビュー。デュフューザー風の処理が施されており、スポーティムードを盛り上げる。
灯火類は前後共に視認性に優れるLEDをフル採用。複雑な曲面を組み合わせた立体造形のリヤコンビがテールを引き締める。

オレンジタンの内装がカジュアルなツートーンインテリア。ソフトパッドを各所に配することで上質感も十分味わえる。
本革巻ステアリング。ツートーンインテリアエディションはステアリングヒーターも標準装備。
右側はアナログ式スピードメーター。左側には7インチカラーディスプレイを備える。
オーディオレス+6スピーカーが標準。ナビはディーラーオプションで用意される。
緊急時に専門オペレーターにつながるSOSコールも搭載。利用するには別契約が必要。
液晶モニター式のルームミラーも見やすく進化。メーカーオプションで選択可能だ。
座り心地とサポート性にこだわったゼログラビティシートを採用した前席。後席もたっぷりした座面に加え、膝回りや頭上空間に余裕十分。居住性に優れる。
荷室の広さはクラストップレベル。9インチのゴルフバッグなら3つ搭載可能だ。後席格納もレバーひとつでOK。6:4分割可倒式で使いやすい。
【キックス注目POINT1】e-POWERがさらに進化! 力強さと静粛性が大きく向上

リーフで培った電動技術をベースに開発。エンジンを発電機として用い、その電力で電動モーターの駆動または駆動用バッテリーの充電を行うシリーズ式を採用。ただし、リーフが採用している油圧回生協調型電子制御ブレーキは未採用だ。シリーズ式の駆動系は基本的には電気自動車と同じであり、即応性や低中速大トルクなどの電動の特徴を活かしたもの。反動を抑えた緻密な制御等により瞬発力等のキレのいいドライブフィールを実現している。
搭載エンジンは発電用。バッテリー効率を追求し、ノートe-POWER比でモーター出力が20%高められた。シフトレバー前方のスイッチを操作すればドライブモードのほか、エンジン始動を極力抑えるマナーモードやバッテリー充電優先のチャージモードへの切り替えも可能。
【キックス注目POINT2】プロパイロットを始めとした充実の先進安全技術
全車速型ACCと走行ライン制御型LKAを基本機能とするのは従来のプロパイロットと同様だが、初期の同システムが測距を単眼カメラで行っていたのに対してミリ波レーダー併用により検知精度や認識状況の拡大を図っている。いわば第二世代型というわけだ。他にもモニター式ルームミラーなどの安全&運転支援機能を標準装着しているが、中でも車載ITシステムと連動して事故時の緊急自動発信などを行うSOSコールの採用が見所だ。

<1>プロパイロット
<2>インテリジェントエマージェンシーブレーキ
<3>ハイビームアシスト
<4>踏み間違い衝突防止アシスト
<1>高速道路走行中にドライバーの運転操作を効果的に支援し負担を軽減。<2>車両だけでなく歩行者との衝突回避も支援する。<3>ヘッドランプのハイビームとロービームを自動切り替え。良好な前方視界の維持をサポート。<4>駐車場で障害物がある場合の急発進を抑制。
【値引きの神様・松本隆一指南】キックス購入必勝法
強気に出てくる! トヨタ勢で揺さぶれ!

ガードが固い。3~5万円引きで「これ以上は出せない。予想を大きく上回る売れ行きをみせているので早く決めないと納期が遅れる」などと契約を急かしてくるケースが目立つ。攻略の秘訣はC-HRもしくはRAV4との競合。「トヨタは大幅な値引きを出している。日産も頑張ってくれないと家族を説得できない」などとやると効果的。
<キックス購入一問一答>

【Q】人気爆発のキックスですが納期は? タイ生産なので時間がかかる?
【A】発売から2週間で予想を大きく上回る8000台を受注。その後も好調。タイで生産されているため“半年待ち”は覚悟したほうがいい。
【Q】少し予算を足せばエクストレイルにも手が届きそうなので迷います。
【A】値引きを差し引いた支払い総額を比べるとその差は思ったより小さくなる。迷っているなら見積もりを取ってしっかり比較したほうがいい。
【Q】ディーラーマンが一番反応するライバル車はズバリどれですか?
【A】セールスマンが強敵とみているのはトヨタ勢。最新のヤリスクロスは当然だが、C-HRやRAV4にも激しく反応するはずだ。
NISSAN キックス × 5大ライバル対決
【RIVAL1】TOYOTA ヤリスクロス ※写真はプロトタイプ

価格:179万8000~281万5000円
4WD設定がアドバンテージ走りの実力もハイレベル!ヤリスをベースに開発されているが、キャビン実用性を向上すべくパッケージングを一新している。スモール2BOX車では対応が難しいファミリー&レジャー用途向けに発展したSUVという点ではキックスとよく似ている。ただし、1.5L車/ハイブリッド車ともにFFと4WDを設定。1.5L車にはRAV4と同様機能を備えた電子制御4WDシステムを採用している。キックスではカバーできない悪路シーンにも対応可能だ。
ヤリスに似たインパネ回りだが、上下方向に余裕のあるデザインが大人っぽい雰囲気だ。
ヤリスに比べてキャビンが拡大されている。居住性はキックスと同等といっていいだろう。
4:2:4分割可倒後席でアレンジも豊富。シート格納時にはフラット床面にすることも可能だ。
【RIVAL2】TOYOTA C-HR

価格:238万2000~314万5000円
本質はスペシャリティ実用面勝負だと分が悪い価格的にはキックスとラップするが、ハードウェア面ではプリウスやカローラスポーツの姉妹車となり、パワートレーンも1ランク上の1.8Lハイブリッドと1.2Lターボを採用する。また、適応用途も異なる。先鋭的なスタイルを優先した設計で、後席の居心地や荷室の使い勝手への配慮が薄い。最低地上高も一般乗用車並みである。SUVモチーフのスペシャリティカーとしては魅力的だが、実用性をモノサシにするとキックスに及ばない。
ドライバーを中心に考えられたインパネデザイン。各部の設えも上級志向になっている。
フロントシートは座り心地も上々。一方後席は居住空間が狭め。前席優先のパッケージングだ。
車格が1クラス上のため、荷室自体は大きいが開口部が少し狭い。積み込み時には要注意。
【RIVAL3】HONDA ヴェゼル

価格:211万3426~ 298万186円
実用面と居住性が長所パワーの余裕が欲しいクーペ的なスタイルながら後席や荷室を配慮したスタイリング。フィット等で採用された多才な後席機能。日常用途とも相性のいい穏やかな乗り心地。ファミリー&レジャー用途ではキックスの好ライバルである。ただ、ハイブリッド車を選択してもパワーの余裕はない。DCTベースのパラレル式ハイブリッドは小気味よさや高速巡航での余力感に優れるが、動力性能全般では車格相応。とくに低中速域の力強さはキックスには及ばない。
ステッチ風加工を施したソフトパッドを各所に配するなど上質感に配慮したインテリアだ。
キャビンスペースは十分。後席は居住性も高く、座面チップアップなどのアレンジも可能。
開口部が広く、荷室内に出っ張りも少ない。ラゲッジの使いやすさは群を抜いている。
【RIVAL4】MAZDA CX-3

価格:189万2000~341万5800円
前席優先の高速ツアラーキャビンの実用性は低め後席荷室回りのデザインはワゴン的だが、大人4名の長時間乗車では後席は寸法的な余裕が少なく圧迫感も強い。キャビン実用性ではキックスより1クラス下程度に考えるべきだ。日常域の乗り心地が硬いのが難点だが、引き締まったフットワークは高速走行に適し、ディーゼル車は1クラス上のツーリング性能を持つ。価格面では1.5L車が魅力的だが、パワー面や機能装備などを含めて考慮する必要があるだろう。
質感の高いインテリアはマツダ車に共通する長所。シックな雰囲気にまとめられている。
写真はファブリック仕様だが、上級グレードではレザーシート仕様も選択可能となっている。
開口部が狭く、タイヤハウスの出っ張りも大きめだ。荷室の使い勝手は相対的に劣る。
DAIHATSU/TOYOTA ロッキー/ライズ

価格:170万5000~236万7200円/167万9000~228万2200円
スポーティな走りに加えてコスパも大きな武器だコンパクトサイズで大人4名に十分なスペースを実現。車体寸法の割には広いキャビンだが、キックスと比較するとひと回り狭い。また、1Lターボは活発なドライブフィールを持ち味とし、キレのいいハンドリングと相まって軽量車らしいスポーティな走りを示すが、半面落ち着きや洗練感を欠く。走りの特性でもキックスのほうが長距離用途への対応力が高い。ただし、価格にかなり差があるので、コスパを考えると結構悩ましい。
カジュアルな雰囲気のインパネ。9インチスマホ連携DAは全車メーカーオプション設定。
背もたれサイドサポートの工夫でホールド性を向上させた前席。後席は2段階リクライニング機構付き。
車格の割に荷室が広く開口部も大きい。4名乗車時でも369Lの荷室容量を確保している。
●文:川島茂夫 ●写真:澤田和久