新車試乗レポート
更新日:2019.05.22 / 掲載日:2018.04.26
【試乗レポート】ジャガーの新型Eペイスは、まるでスポーツカーのようなコンパクトSUV

文と写真●ユニット・コンパス
高級なブランド品とはこういうものを言うのだ。ジャガーの新しいコンパクトSUVであるEペイスに試乗して、強くそう感じた。
高級ブランドとは、自称するだけではだめで、世間から認められて初めて価値を持つものだが、まさしくジャガーは自動車メーカーのなかで、自他共に認める高級ブランドのひとつだろう。
ジャガーは、その世界観をプロダクトの出来栄えとして体現する一方で、広告宣伝やスポンサード活動といったマーケティング面でも表現している。
例えば、よく知られているところでは、プロテニスプレイヤーの錦織圭さんやラグビーW杯といったスポーツ選手や大会へのサポートがそう。これらは、ただ人気のスポーツというだけではなく、ジャガーが発祥した英国で人気のあるスポーツというところで、ブランドらしさの表現につながっているわけだ。歴史とストーリーは、高級ブランドに欠かせないフレーバーで、そこにユーザーは共感し憧れるわけだ。
一方でジャガーは、確固たる高級ブランドとしてのイメージがユーザーに根付いているがゆえに敷居が高く、実際にはスポーツサルーンXEなどに500万円を切るモデルがあるにも関わらず、イメージだけで敬遠されている状況があった。
そこで、ブランニューモデルとして開発されたEペイスには、従来の顧客だけでなく、これまでジャガーを購入したことのないユーザーを引き入れるというタスクも課せられた。
新型Eペイスは、いま自動車業界でもっともトレンディであるコンパクトSUVで、それだけでも幅広いユーザーにアピールできるが、さらに451万円という非常にインパクトのあるスタートプライスをつけて登場した。
500万円クラスといえば、3シリーズやCクラスといった、プレミアムブランドのスタンダードモデルにあたる価格帯で、販売台数的にもボリュームの大きいセグメントだ。そこにEペイスは、ジャガーならではのブランドパワーで攻勢をかけることになる。
デザインモチーフはスポーツカーの「Fタイプ」

ルックスの面でも、Eペイスはジャガーらしさ全開だ。モチーフにされたのは、同社の現行ラインアップのなかでも象徴的なスポーツカーであるFタイプ。切れ長のヘッドライトとスクエアなグリルのバランス関係もそうだし、横に細長いテールランプなど、まさしくFタイプ譲りだ。ボディをサイド方向から見ると、ルーフラインもまるでクーペのような美しさでスポーティである。
全長×全幅×全高はそれぞれ4410×1900×1650mmで、兄貴分にあたるFペイスの4740×1935×1665mmに対してひとまわり小さく設定。といいつつも、横幅が1900mmあるだけあって、ルックスの存在感は十分以上で、SUVらしい迫力も備わっている。
SUVなのにスポーツカーのようなコックピット感覚

室内に目を向けると、こちらもジャガーらしさとSUVらしさが融合されていることに感心する。とくに中央吹き出し口からシフトセレクターまでをぐるりと囲むセンターコンソールの造形は、SUV的な力強さとドライバーを包み込むコックピット的なタイトさを表現したデザインだと言えるだろう。
装備やインフォテインメント機能についても、最新モデルらしく充実している。
代表的なところでは、タッチ操作可能な10.2インチスクリーンを採用した「Touch Pro」は、通信機能内蔵で、スマートフォンの専用アプリを介して、車両から離れたところからでもドアの解錠・施錠、エアコン操作、緊急時のSOSコールが可能。ヘッドアップディスプレイや多機能な液晶表示のドライバーディスプレイも用意されている。
ドライバーアシスト機能も充実で、「自動緊急ブレーキ」、「レーンキープアシスト」、「ドライバーコンディションモニター」、「クルーズコントロールとスピードリミッター」、「フロント/リヤパーキングエイド」、「サラウンドカメラシステム」とまさに盛りだくさん。ドイツ系高級ブランドと比肩しうる内容を備えている。

試乗に入る前にラインアップについて紹介しよう。
グレード構成は、SUVらしい標準モデルとスポーティな「R-DYNAMIC」の2種類。装備レベルは、「S」、「SE」、「HSE」の3パターン。エンジンは3種類で、ガソリンエンジンが249馬力と300馬力、そしてディーゼル(180馬力)となっている。期間限定モデルを合わせると、その数なんと24種類という幅広いラインアップだ。
ユーザーは、自身の感性やライフスタイルに合わせて、もっともフィットする1台を探すことになる。販売にあたっては、完成車の輸入販売だけでなく、ユーザーによるカスタムオーダーについても積極的に受け付けるという。もちろん、納車までの時間は完成車を購入するよりもかかってしまうが、こうした選択肢を用意する姿勢こそまさに、ジャガーが高級ブランドたる所以だろう。
ちなみに、Eペイスには魅力的なオプションが多数用意されているが、あれもこれもと選択すると、あっという間に価格が跳ね上がるのも高級ブランド的である。
アスリートをイメージさせる引き締まった走り

テストドライブしたのは、「R-DYNAMIC SE 2.0L P250」(車両本体価格650万円)。シージアムブルーと呼ばれるボディカラーが、試乗コースとなった海辺の町並みによく似合っていた。
乗り込んでみて、目の前にあるステアリングに手を添えると、室内のデザインテイストがまさにFタイプそのものであることに改めて感心した。もちろんSUVであるため、乗用車よりも視線は高めで見晴らしはいいのだが、クルマとの一体感があるコックピットテイストなのだ。
そして走り出すと、スポーティな印象はますます強まる。試乗した車両がスポーティテイストなR-DYNAMICであることはもちろんだが、そもそものキャラクターとして、このクルマはほかのコンパクトSUVと違う。

近年では、高級ブランドを中心に、「スポーティ」というキーワードが頻発されているが、ジャガーに乗って感じるスポーティさは、単なる反応のよさやダイレクト感だけではない、奥行き、深み。
表面的な硬さではなく、芯の強さといったらいいだろうか。段差を乗り越えた際のサスペンションの反応を例にすると、ボディが上下する動きは抑えられているのに、乗員には強い衝撃や低級な振動は伝わらない。ショックの角は丸められ、ボリュームも小さいが、段差を乗り越えた感触はインフォメーションとして、しっかりドライバーへと伝えてくるのだ。
これは、ボディ骨格に軽量かつ高剛性なアルミを用いていることも関係しているだろう。ステアリングを素早く左右に切り返すようなシチュエーションでも、ボディがしっかりと足まわりに付いてくる。強靭な体幹、しなやかな筋肉のようなサスペンションである。こうした走りから想起するのは、まさにアスリートや野生の動物、まさにジャガーだ。
ジャガーらしさをこれでもかと凝縮させた1台

パワートレーンの印象もよかった。250馬力バージョンであっても、加速に不満なし。街中をしずしずと走るときには上手にその存在感を消してくれるし、ドライビングモードを「ダイナミック」に切り替えると、低めのシフトを優先的に選択し、アクセルの動きに機敏に反応するような走りも楽しめる。今回は試乗することができなかったが、300馬力バージョンはさらに胸のすくような走りを見せるのだろう。
じつはジャガーには、短時間の試乗で本質を見極めるのが難しいクルマが多い。鍛え上げた肉体を、あえてフォーマルなスーツで隠してしまうような奥ゆかしさがあるブランドなのだ。ところが新型Eペイスは、そういったジャガーの世界観を、これまでよりもあえて少しわかりやすく表現しているように思えた。きっとジャガーは、Eペイスをあえてそういうクルマに仕立て上げたに違いない。
ここのところ、各メーカーからコンパクトSUVが数多く登場していて、そのどれもが独自のキャラクターを備えている。そのなかでジャガーの新型Eペイスは、セレブリティ的な華やかさに、アスリートのような鍛え上げた肉体を隠し持つという意味で、まさしくジャガーそのものといったクルマであった。
ジャガー Eペイス R-DYNAMIC SE 2.0L P250(9速AT)
全長×全幅×全高 4410×1900×1650mm
ホイールベース 2680mm
トレッド前/後 1635/1640mm
車両重量 1890kg
エンジン 直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1995cc
最高出力 249ps/5500rpm
最大トルク 37kgm/1300-4500rpm
サスペンション前/後 ストラット/リンクストラット
ブレーキ前後 Vディスク
タイヤ前後 235/55R19
販売価格 451万円~764万円(全グレード)