新車試乗レポート
更新日:2026.08.31 / 掲載日:2026.08.31
【ボルボ ES90】その美しさは本質から生まれる

文と写真●ユニット・コンパス
ボルボの新しいフラッグシップであるES90が、ボルボが想定していた以上に売れているそうです。大型セダン、しかも電気自動車であることを考えると、少々失礼ながら意外な結果でした。ですが、ES90に乗って、触れて、開発に込められた意図や思想を知ると、ユーザーがなぜES90を選んだのかがわかってきました。
セダンの弱点を克服した新たなパッケージング

ES90は全長5000mm(+30mm)、全幅1940mm(+50mm)、全高1545mm(+100mm)の大型セダンで、従来モデルにあたるS90から比べると、カッコ内の数値のとおりひとまわり大きくなりました。とりわけ注目したいのが全高の数値で、これはワゴンのV90よりもさらに70mmほど高くなっています。実はこれがES90のチャームポイントのひとつになっているのです。

ミニバンやSUVに乗り慣れたひとたちにとって、セダンには「高級感はあるけど室内が狭い」というイメージがあります。しかしES90は全高を大幅に引き上げ、同時にホイールベースも3100mmと広げることで、セダンのイメージを大きく上回る超快適な後席空間を生み出しました。

最低地上高も180mm(RWD仕様は175mm)とSUV並み。これは後述しますが、乗り降りのしやすさにも繋がっています。後席は驚くほど足元が広く、大型の固定式パノラミックガラスルーフのおかげで頭上の開放感もかなりのもの。しかもガラスは紫外線は99.9%、太陽熱放射は約80%カットし冷気の侵入も抑制してくれる優れモノ。ES90のリヤシート空間はファーストクラス級と評価できます。

一方で、背が高く、最低地上高までSUV並みとなるとスタイリングへの悪影響が心配になりますが、真横から見てもプロポーションは美しく仕上げられています。

ボルボは従来から根源的な造形美にこだわっていて、このES90でもAピラーからのラインは前輪の中心へとつながっていますし、ウインドウの後端から真下に後輪の中心が位置するように調整されています。流麗でクリーンな印象からも想像できるとおり、空気抵抗係数も0.25とボルボ市販車でもっとも優れています。

もうひとつES90のスタイリングで注目したいのが、セダン的なデザインでありながらもハッチ型テールゲートを採用していること。つまり、ステーションワゴンの要素もクロスオーバーしているのです。その狙いはラゲッジルームの使い勝手をあげることにあります。新しい90シリーズにワゴンが存在しないのは、こうしたことも背景にあります。セダンでありながらもステーションワゴン的な使い勝手の良さを備えているES90は、新しいセダンのあり方を示しています。

唯一想定を下回っていたのがトランクルーム。床の位置が高く容量も通常時409L(トノカバー使用時)とステーションワゴンの代わりとなるほどではありません。だからこそボルボはES90をセダンだと位置付けているのかもしれません。
ボルボが考える「高級車」が形になった

ES90のグレードは3モデルで構成されています。RWD(後輪駆動)が2タイプで、「ES90 プラス シングルモーター エクステンデッドレンジ(979万円)」と装備を充実させた「ES90 ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ(1129万円)」、一充電航続距離はいずれも665km(WLTCモード)。「ウルトラ」はエアサスペンションやBowers&Wilkinsハイフィディリティ・オーディオシステム、2万画素を誇るLEDヘッドライト、ソフトクローズドア、静粛性に優れる窓ガラスが標準装備となっています。

最上級モデルの「ES90 ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(1229万円)」はAWD(全輪駆動)で、一充電航続距離も最も長く720km。装備面はRWDの「Ultra」をベースにしながら、ホイールサイズが22インチになり、ボディ下側にクロームトリムが装飾されます。これが今回の取材車両でもあります。
取材の会場として設定されていたのは、箱根の強羅にあるラグジュアリーホテル。山間に自然と調和するように作られた建物は上質でありながらも楚々としており、まさにボルボの世界観と調和しています。

まず印象がよかったのが、シート座面がこれまでのセダンよりも少し高い位置にあって乗り込むのが楽だったこと。そのシートは生地に柔らかで手触りの良いナッパレザーを使い(ウルトラ ツインモーター パフォーマンスのみ)、フロントとリアにベンチレーション機能を内蔵しています。
ここまでは他のプレミアムブランドでもある特徴ですが、ボルボではこのレザーに動物福祉とトレーサビリティに関する認証を取得した素材を使用しているとのこと。他にもインテリアに使う素材の多くがバイオ由来であったり、リサイクル素材(新品より高コスト!)であったりと徹底されています。
こうした、「高級車としての価値を追求しながら、サステナビリティにも配慮している」という姿勢は、ES90ではクルマ全体に貫かれています。高級車にも色々なアプローチがあり、豪華さを全面に押し出す手法もありますが、ES90からは調和を大切にしながら社会的にフェアでありたいという意思を感じました。

ちなみに、インテリアに使われるスポットライト(LED)には、ちらつきとブルーライトを抑えて目の疲れを大幅に軽減するとともに素材や質感を自然に際立たせる効果もあるそうです。こういうディテールにボルボらしさを感じますね。
長距離ドライブにも不安のない航続距離

走らせた印象は非常に爽快でした。視界が良いため箱根の狭く入り組んだ道でも自信を持って操れましたし、操作に対する反応も素直なのですぐにリラックスできました。
電気自動車は総じて車内が静かなのですが、ES90は輪をかけて静かに感じます。他のグレードを試せていないので言い切ることはできませんが、最後の仕上げとしてラミネートガラスが良い仕事をしていると感じました。
せっかくなのでBowers&Wilkinsハイフィディリティ・オーディオシステムの実力を試しつつ試乗したのですが、ES90と高品質オーディオの相性は最高ですね。騒音で音の一部がかき消されることも少ないので、ボリュームを上げずとも心地よい音に包み込まれる気持ちよさを味わえました。
試乗コースには標高差約1000mの箱根ターンパイクが含まれていて、10km以上の急な坂を登り切りました。初期のEVではみるみるうちに航続可能距離が減っていったものですが、高効率な800Vアーキテクチャと106kWhのバッテリー容量のおかげもあって全く不安なし。

箱根ターンパイクの頂上にはFlash社の240kW級急速充電器が設置されていて、800Vシステムのメリットを体験することができました。計算上はわずか10分ほどで200km相当の充電ができることになります。
電気自動車の航続距離問題については、他の電気自動車をテストした経験を踏まえると、600km・700kmクラスであれば実用上の不満はかなり少ないという実感があります。衝撃の角をしっかりと落とした上質な乗り味も相まって、ES90の長距離ドライブ能力は、かなり優秀な部類に入るのではないでしょうか。
新しい高級車のあり方を示してくれる

ドライブしていて考えたのが、ES90はボルボが目指す理想のクルマ像にかなり近づいたのではないかということでした。
縦型の14.5インチセンタータッチスクリーンはレスポンスもよく画面構成もよく考えられていました。物理ボタンを最小限に抑える代わりに、ドライバー個人をGoogleアカウントで紐づけることで、シート角度やミラーなどの個別設定も自動で読み込まれます。操作は直感的で、特別なレクチャーを受けずともほとんどの機能にアクセスすることができました。
90シリーズでは新たにNVIDIAと車載コンピューターシステムを共同開発しているのですが、OS自体は自社開発にこだわったといいます。その理由は、安全性を追求するため。中央集権型の車載OSは自動車業界のトレンドでもありますが、ボルボには「人を守る」という明確な目標があり、今後もアップデートによる持続的な進化を予定しているそうです。
最新かつ最上級のボルボとして、そして新しい高級セダンとして、ES90は確実に存在感を示す仕上がりとなっていました。
新車価格帯:979万円〜1229万円(ES90 全グレード)