新車試乗レポート
更新日:2025.05.20 / 掲載日:2025.05.19

新型ゴルフR 理解の鍵は制御技術にあり!【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●フォルクスワーゲン

 2025年1月に日本導入となったフォルクスワーゲン・ゴルフのマイナーチェンジ・モデル。8代目の後期ということで通称ゴルフ8.5と呼ばれる。なかでも最上級にしてハイパフォーマンスなゴルフRを千葉県木更津市のPEC(ポルシェ・エキスペリエンス・センター)で試乗。

 さらに、このイベントのためにドイツ本国から来日したエンジニアや開発ドライバーの話を聞く機会も得た。ゴルフGTIにも比較試乗できたのも興味深い体験だった。

 ゴルフRの歴史は2002年登場のゴルフ4のR32から始まった。次のゴルフ5 R32までは3.2L V6エンジンを搭載していたため車名にもその数字が使われていたが、ゴルフ6からは2.0Lターボとなったので単にゴルフRと呼ばれるようになり、現在まで続いている。

フォルクスワーゲン ゴルフR

 2010年にはゴルフRを始めとしたスポーティで個性的な車両を開発するフォルクスワーゲンR GmbHを設立したが、現在ではフォルクスワーゲンに統合され、Rビジネスユニットとなっている。

 マイナーチェンジによってエンジンは従来よりも13PSパワーアップして333PS/5600−6500rpmとなった。これは20周年記念限定モデルで先行投入されたものと同様で史上最強のゴルフでもある。

 0−100km/h加速はハッチバックで4.6秒、ヴァリアントで4.8秒となる。特徴的なのは低負荷状態でもターボチャージャーが一定の回転数を維持して待機するプリロードチャージャーを採用するとともに、スロットルをオフにしてもスロットルバルブを全閉にはせずインテーク内に予め空気を取り込んでおいて再開即時のトルクの立ち上がりを向上させることなど、レスポンスを大幅に向上させていることだ。

 新デザインのLEDヘッドライト、イルミネーション付きVWエンブレム、リアコンビネーションランプ、新形状のバンパーやベンチレーショングリルなどがエクステリアの変更点となっている他、1本あたり8kgと軽量な19インチアルミホイールのヴァルメナウをオプション設定している(ゴルフGTIの19インチに比べると2kg軽い)。

フォルクスワーゲン ゴルフR

 ゴルフRの大きな特徴は4WDの4MOTIONであることで、これは最初のR32から受け継がれている。

 現在はただの4WDではなく、後輪左右のトルク配分を0−100%で可変させることが可能なR-Performanceトルクベクタリングを備えている。構造は意外とシンプルで、フロントのエンジンからプロペラシャフトで後輪へ駆動を伝達し、左右それぞれのカップリングでトルク配分するというもの。センターデフはなく、後輪左右のカップリングがその機能も担っている。

エンジンの駆動力はプロペラシャフトとベベルギアを通じて後輪へと伝えられる。駆動力は、後輪それぞれに備わる電子制御油圧多板クラッチで制御され、トルクベクタリングの機能をはたす

 巡航時など低負荷状態のときには後輪のトルクが0%のFF状態にするモデルもあるが、ゴルフRのそれはフロント94%、リア6%となっていて、常に4WD状態。また、後輪への最大のトルク配分は50%で、もっとも曲がる力が必要なときにはフロント50%、リアの左右どちらかが50%、もう一方が0%にもなる。ちなみに、FFのゴルフGTIは前輪左右のトルク配分を0−100%の範囲で可変させられる電子制御油圧式フロントディファレンシャルロックを採用しているが、ゴルフRにはない。後輪左右のトルクベクタリングで十分でもあるのだが、スペース的にも難しいそうだ。また、両車ともブレーキ制御による電子制御ディファレンシャルロックのXDSは装備している。

 R-Performanceトルクベクタリングはパフォーマンスアップに大きく寄与していて、開発テストでニュルブルクリンクを走らせるとラップタイムは12秒も縮まったという(1周は8分前後)。電子制御可変ダンパーのDCCのありとなしを比べたときの差は2秒程度とのことなので、その効果の大きさがわかるだろう。

 PECのハンドリングトラックで試乗すると、コーナーの途中からアクセルを踏み込んでいくことで後輪の外側のトルクが大きくなり、旋回しながらグイグイと加速していくことが実感できる。メーターでトルク配分が確認できるのも興味深い。

 FFのゴルフGTIは同じタイミングでアクセルオンをするとアンダーステア気味になってしまうから、少し待つ時間が必要。ブレーキ制御だけではない、積極的なトルクベクタリングはアクセルを早いタイミングで踏むことが可能になるので、速さも気持ち良さも増すのだ。それでいてリアの安定感も抜群で絶妙なバランスをみせるのが凄いところ。あくまでドライバーフレンドリーで、いたずらに旋回しすぎるようなところがない。

デバイスにより絶対的な性能を高めたゴルフR。一方でゴルフGTIは軽さを活かしたコーナリングとスポーティな性格が特徴

 とはいえゴルフGTIもスポーティなFF特有の楽しさがある。ゴルフRに比べるとアクセルオンを少し待つ必要があるものの、電子制御油圧式フロントディファレンシャルロックによって一般的なFFに比べれば早めのタイミングになる上に、強力なトラクションで前輪が向いている方向に引っ張っていってくれる。綺麗に姿勢づくりをして上手にトラクションをかけられたときの気持ち良さは格別だ。

 開発ドライバーによると、車両重量が90kgほど軽いゴルフGTIのほうがコーナー進入も早いという。また、ゴルフRはハイパフォーマンスながら落ち着いたジェントルな乗り味なのに対して、ゴルフGTIは程よくやんちゃな雰囲気。駆動方式やパフォーマンスの違いだけではなく、キャラクターも造り分けているのだ。

 R-Performanceトルクベクタリングを備える4MOTIONがゴルフRの最大の武器と言えるが、もっとも重要なのはシャシー全般を電子制御する頭脳であるヴィークル・ダイナミクス・マネージャーだ。XDS、DCCなどを統合制御していて、これらをすべて自前で開発していいものが出来たのだと開発陣も胸をはる。自動車の開発ではソフトウエアの重要性が大いに高まっているが、ハイパフォーマンスカーにおいても同様なのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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