新車試乗レポート
更新日:2025.01.16 / 掲載日:2025.01.16
新型アウトランダーPHEVを工藤貴宏が徹底解説!

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
もっとEVらしくなった!
2024年秋におこなわれた三菱アウトランダーPHEVの進化をひとことでいうならば、そう表現するのがいちばんわかりやすいでしょう。見える部分はあまり変わっていない(ように見える)のですが、中身はけっこう変わったのです。
大きく進化した駆動用バッテリーでEV航続距離は100kmオーバー!

メカニズムとして大きく進化したのは駆動用バッテリー。従来モデルのデビューからわずか3年で、バッテリーを刷新したのです。凄くないですか?
新しいバッテリーの容量は22.7kWhと従来タイプ(20.0kWh)に対して容量を1割以上アップ。その結果としてEV航続距離(エンジンを掛けずにバッテリーの電力だけで走れる距離)が100キロオーバー(WLTC計測によるカタログ値で102~106km)まで拡大。つまり使い勝手におけるEVらしさが増したのです。
さらにバッテリーは出力アップ(単位時間あたり約6割アップ)もおこなったことで、高負荷時(加速や上り坂など強い駆動力が必要な状況)におけるエンジン始動頻度も低下。モーターやエンジンは制御を除き大きく変わっていませんが、バッテリーの容量や出力拡大によってモーターやエンジンを“使う能力”が高まり、走行性能はトータルで高まっているのです。パワートレインのトータルシステム出力は約2割上がり、停止状態から時速100キロまでの加速タイムは2秒も速くなっているのだとか。2秒短縮ってかなり違いますね。
ちなみに新しいバッテリーは冷却性能向上(約5割アップ)などもあり、充電時間は短縮。使い勝手を考えると、容量が増しているにも関わらず充電時間が短くなるというのはとても大きな意味があります。
ところでPHEVってどんなクルマ? メリット・デメリットを解説

ところで、PHEV(プラグイン・ハイブリッド)とはどんなクルマでしょうか。もう一度おさらいしておきましょう。
それはいうなればハイブリッドの上位ともいえる仕組みで、普通のハイブリッドとの違いはバッテリーのサイズが大きくて外部からも充電できること。充電を活用すれば、ある程度の距離(新型アウトランダーPHEVでは100キロ程度)は、EV(電気自動車)と同じようにバッテリーの電気だけでモーターを駆動し、エンジンを止めたまま走ることができます。
いっぽうでEVと違うのは、燃料(アウトランダーPHEVではガソリン)さえ給油すれば、エンジン車やハイブリッドカーと同じように長距離を走り続けられること。つまり、近場を走るならEVと同様に燃料を使わず電気だけで走れるいっぽう、遠くへ出かける際はエンジン車やハイブリッドカーと同じように充電やバッテリー切れを気にせず走り続けられるクルマなのです。これはEVとハイブリッドの“いいとこ取り”と言っていいですよね。
ネガティブな部分も伝えておくとバッテリー(価格が高い)の大型化に伴って「通常のハイブリッドカーよりも車両価格が高額」ということ。それは事実ですが、購入時には国からの補助金(2024年度は55万円)、さらに住んでいる場所によっては自治体からの補助金(東京都だと45万円)も受けられるので、車両本体価格526万3500円~668万5800円)に比べると実質的な価格は50万程(東京では100万円ほど)安いと思っておけばいいでしょう。
走りのフィーリングはEVらしさ全開。たとえば同じSUVのPHEVでも、マツダの「CX-60」や「CX-80」などはEV走行時を除くとエンジン感が強くて逆にEV感はとても薄い乗り味(それはそれでエンジン好きにはうれしい)。いっぽうアウトランダーPHEVの走行感覚は対照的にきわめてモーター感の強いもの。
アウトランダーPHEVの走行はモーター駆動が主体となる(エンジン直結モードも持つが入るのは高速域のみ)ので当然といえば当然といえるかもしれません。ですが、エンジンをとめてバッテリーで走っているときはもちろん、エンジンを動かして発電機として使っている(エンジンで起こした電気も使ってモーターで走る)状態でも、なんなら高速領域でエンジン直結モードとしている際もエンジンの存在感がないのが凄いこと。そして個性です。
何を隠そうアウトランダーPHEVは先代モデルから走行感覚特徴として「モーターらしさ」を追求し、改良のたびに音や振動と言ったエンジンの存在感をもたらす要素を徹底的に排除してきました。新型ではバッテリー大型化によりエンジンが掛りにくくなったうえに、エンジンに付随するジェネレーターにカバーを追加するなどエンジン作動中の“雑音”をさらにシャットアウト。もしかすると、予備知識のない人が乗ると「もしかしてエンジンのついていないEV?」と錯覚するかもしれません。そのくらいエンジン感がないのです。
そのうえで、ドライバビリティは「より滑らかに、より強い加速」を実現。より強い加速は、中高速域の車速の伸びがわかりやすいポイントです。
また開発者によると「走行制御はサスペンションの味付けとすべてセッティングをやり直した」とのこと。バッテリーの出力アップによりさらに多くのトルクをリヤタイヤへかけられるようになったので、それを前提とした制御としたのだそうです。
三菱らしいこだわりが詰まったマイナーチェンジ

ところで面白いのは、新型は従来モデルに比べて全高の数値が5mm上がっていて、その理由が実に三菱らしいこと。新しいバッテリーは従来タイプに比べて厚みがあり、それをそのまま装着すると最低地上高が低くなってしまう。でもそれは悪路走破性を大事にする三菱としては許容できないので、車体をリフトアップして最低地上高を確保したのだそうです。普通は最低地上高が減るのをそのまま受け入れると思うのですが、そこにこだわるのはさすがオフロードが似合う会社のクルマですね。
変更したといえば、残念ながら筆者には新旧が見分けられないフロントデザインも、実は変わっています。それも「グリルを少しいじった」なんてレベルではなく、フロントバンパー、フロントフェンダー、そしてボンネットフードに至るまで「実は新設計」という広範囲。それだけ変更するということは事実上大きくデザイン変更することもできたわけですが、そうしなかった理由は「これまでのデザインが好評だったのであえてイメージを変える必要はないと判断した」とのこと。筆者はホイールのデザインがもっともわかりやすい新旧識別ポイントだと思っています。
余談ですが、大きく設計変更したのは、海外における安全基準対策という意味もあるのだとか。また、従来はアルミ製だったボンネットがスチール製になったのは「コストダウン」と思われがちですが、実はそうではなく欧州での超高速走行におけるボンネットの“揺れ”を抑えるためなのだそうです。
さらに充実した装備。オススメのグレードは?

そうそう、インテリアでも変更点はあります。まずは、従来だと9インチだったセンターディスプレイ(全車標準装備)が、12.3インチへと大型化されたこと。またルームランプがすべてLED化されています。
そのうえで、「P」系のグレードの運転席と助手席にはシートヒーターに加えてシートベンチレーションも新規採用し、足元にはアルミペダルを装備。「P」系グレードと「G」にはデジタルルームミラーも標準装備としました。
グレード構成はベーシックな「M」に対して運転席電動調整式シート、デジタルルームミラー、20インチタイヤ、そして電動テールゲートなどを追加する「G」。ヘッドアップディスプレイ、3ゾーン式エアコン、助手席電動調整式シート、前後席シートヒーター、前席シートベンチレーションなどを追加する「P」。さらに最高峰のオーディオを追加する「Pエグゼクティブパッケージ」と合計4タイプを設定。




オススメは装備が充実する「G」以上、できれば「P」が理想。「Pエグゼクティブパッケージ」は“好みに応じてどうぞ”といったとことです。
そうそう、以前はプレミアムオーディオとして「BOSE」を設定していましたが、新型では全車に「ヤマハ」を搭載。最上級グレード「Pエグゼクティブパッケージ」のみ「Ultimate」と呼ばれる最高峰を標準搭載し、ほかは「Premium」を採用しています。そして驚いたのは「Premium」の実力。透明感あふれる音場感がハンパなく、普及タイプとは思えない満足度です(個人的には約20万円を追加して「Ultimate」へアップグレードしなくてもいいと思ったほど)。
EVの先進性と運転する楽しみを同時に楽しめる魅力的な1台

PHEVってちょっと高いし、それほどメリットがないと思っている人も多いかもしれません。でも、アウトランダーPHEVのモーター走行感は、運転していて気持ちがいいし、なにより滑らかかつ音が静かで快適。先進感がある。そのうえ峠道でも身のこなしが良くて運転していて楽しい。
そのうえ充電環境があって賢く使えば、ガソリンを減らさずEVのような感覚で走ることだってできる。実は、けっこう魅力的な乗り物じゃないでしょうか?
そしてますますEVっぽくなったアウトランダーPHEVは、魅力度がさらにアップしたといっていいでしょう。