新車試乗レポート
更新日:2024.02.25 / 掲載日:2024.02.09

スイフト また良くなりました【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ユニット・コンパス

 クルマを見た時「何がしたいのかよくわからないデザインだ」と思った。それが正直な第一印象。まあデザインは好き好きなので、好きな人もいるかも知れない。筆者も特に嫌いというわけではない。ということで初見ではそんなにピンとはこなかった。ところがコイツ、乗るととても良い。手始めに内装はセンスもデザインも明確にアップデートされ、安っぽいところがなくなった。

スイフトは2023年12月に7年ぶりにフルモデルチェンジを行った

 さて、次に書くべきはシートの進化である。先代もそれ以前に比べれば格段の進化が見られたのだが、シートの外周部分の張りが足りなかった。体をサポートするという意味では、尻を乗せる座面を囲むヘリとなる外周は、一定の形状を保ってもらいたい。そこがヘナチョコだと、尻が落ち着かない。と言うことを、筆者は2017年の旧型の試乗会の時に滔々と述べたのだが、チーフエンジニアはそれをしっかり覚えていた。で、これでどうだとばかりにシートを直してきたのである。

新型ではシートを改良。座面とシートバックにシートヒーターを内臓し、後席足元へ温風を送るダクトを設置した

 その結果、シートの出来は大躍進。しかも面で支える形状のシートにも関わらず、その面圧分布も見事なものになっていた。どのくらいの人に伝わるかはわからないけれど、古き良き欧州コンパクトカーのシートを彷彿とさせた。内装とシートが良くなると、てき面にクルマに上質感が出る。

 さて、走りの方は果たして上質かどうか。元々、先代スイフトもいいクルマだった。ただし、良くも悪くもスズキっぽい。そこをスズキっぽいと言うのは嫌がられるかも知れないけれど、サスペンションストロークにフリクション感があった。

 けれど、不思議とそれが嫌な感じではなかった。そういう許せる感じがスズキっぽいのだ。実直にBセグのコストを追求したら、そこはある程度仕方ないと、そう思わせる統一感があったからだと思う。新型スイフトで走り出してすぐ感じたのは、そのフリクション感がかなり薄らいだことだ。

 突き上げがなくなったわけではないし、アシも柔らかいか硬いかで言えば硬い方。もっと当たりがソフトなBセグは昔からあるが、そっちはどうしても腰砕け感が伴う。腰砕けは看過できないので、多少のフリクション感を許容しても仕方ないと割り切れたのがこれまでのスズキのアシだった。それに対して新型が上質な感じがするのは要するにアシが動くようになっているからだ。

9インチディスプレイを採用。搭載する装備も大幅にレベルアップしている

 そうなるとチェックすべきはボディ剛性である。なるほど剛性が上がっている。あとでエンジニアに聞いたところによると、旧型より高張力鋼板の採用箇所を増やした。高張力鋼板を使うということは、強度(≒衝突安全)を高めつつ、軽量化も図りたいという意図である。重くなっても構わないなら板厚を上げれば良い。というか、むしろボディ剛性を上げたければ板厚を上げるしかない。高張力鋼板は強度には効くが剛性には効かないからだ。

 ということで、新型スイフトは高張力鋼板をより多く投入して強度を上げつつ軽量化を達成した。その減量分をボディ剛性に効く箇所の板厚アップに使った。だから剛性が上がったのだ。そしてボディがガッチリして歪みが減った分、アシが正確に動く様になった。だからフリクションが減ったという順番だ。

新色の「フロンティアブルーパールメタリック」は、スズキの地元、浜松の自然をイメージしたという

 ボディ周りで言えば、構造用接着剤も旧型比でより多く使ったという。こっちは剛性にも効くが、静粛性にも効く。明確に環状構造を採用したわけではないがボディ後半の鉄板の継ぎ方を滑らかにして、剛性の変節点を無くしたこともボディ剛性には効いている。ということで要するにボディが良くなって、その結果アシも良くなった。新型スイフトの最も大きな変化点はそれだ。

 シャーシーの基本はキャリーオーバーなので、ペダルのオフセットに関しては完全解決とは行かないが、それでもペダルアームの形状変更で可能な限り修正してきている。良心的である。

 もうひとつ褒められるポイントがある。それはステアリングフィールだ。先代では反力を盛りすぎていて、少々不自然なところがあったが、今回の反力設定はバッチリで、とても自然になった。ただし、先に触れたボディの改良で、全体にハーシュネスが減った分、残念ながらステアリングコラムに伝わる振動が気になる様になった。先代ではあっちもこっちもハーシュがあって目立たなかったところが、他が良くなった結果感じられる様になったというところ。ただBセグにそこまで要求するのはちょっと言い過ぎな気はする。

 パワートレインは、発進時に少し乱れるのが玉に瑕だが、そこさえ超えればビート感とトルクの塩梅が良い。1.2リッター3気筒のベーシックエンジンではあるが、トランスミッションとのすり合わせもかなり詰めてあり、上り坂でゆっくりアクセルを踏み込むと、回転を上げずにグッとトルクを増やして加速してくれるあたりはなかなかやるわいと思った。

 高速巡航も難なくこなして、このクラスとしては万能性が高い。ただし排気量1.2の3気筒の限界はあって、高速道路でワイドオープンにすると流石にうるさい。ただし、そんなやんちゃな扱いをしなければ静粛性も十分だ。ということで、スイフトは新型になって、Bセグリーグでのアドバンテージをさらに広げた。このクラスを検討している人は、少なくとも味見だけはした方が良い1台だ。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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