新車試乗レポート
更新日:2019.05.23 / 掲載日:2017.07.26

【試乗レポート】スズキ スイフト ハイブリッド/注目のフルハイブリッドのポテンシャルを体感

スズキ スイフト HYBRID SL

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス

 最初に力強く伝えておきたいのは、コンパクトハイブリッドカーの購入を考えているのならぜひともスイフト ハイブリッドに試乗してみてほしいということ。

 なぜなら、とにかく運転が楽しいから。乗ると元気になってくるから。ハイブリッドカーといえば多くのひとは良好な燃費をイメージすると思うけれど、燃費だけでなく運転の楽しさは譲れないというひとにとってスイフト ハイブリッドはきわめて魅力的な選択肢となるに違いない。
 さて、そんなスイフトのハイブリッドがどんなハイブリッドカーなのかご説明しよう。スイフトはスズキの世界戦略車で、最新モデルは2017年の1月に発売。従来モデルから「欧州で鍛え抜かれた芯のある走り」がクルマ好きの間では話題で、それが個性のひとつにもなっている。スイフトには「RS」という欧州仕様のサスペンション(日本仕様よりも締め上げて走行性能を高めてある)やタイヤとパワーステアリングを組み込んだグレードを用意。先代モデルではその「RS」が販売の約1/3を占めていたのは、スイフトの走りのよさが多くのユーザーに評価されていたことの証しといっていいだろう。新型でも「RS」は主力グレードとなっている。

洗練されたハイブリッド システム

 今回登場したのは、そんなスイフトにハイブリッドシステムを搭載した仕様だ。メカニズムは「AGS」と呼ぶギヤボックスにモーターを組み込んだ他社にはないスズキ独自のもので、機構がシンプルなのが特徴。バッテリーはリチウムイオンで、インバーターも含めて荷室床下に搭載する。このハイブリッドシステムは物理的にコンパクトで、標準車に対してパッケージングが大きく変わらない(荷室容量がわずかに減っている)のもポイントといえる。気になる燃費だが、純エンジン車の「XL」(FF/CVT)が24.0km/Lに対して、今回登場したハイブリッド車の「HYBRID SL」は32.0km/Lと大きく向上しているのは言うまでもない。
 ハイブリッドシステムはすでに背の高いコンパクトカーの「ソリオ」に搭載されているのと基本的に同じ。しかし、変速機(AGS)はスイフト専用にチューニングされておりクラッチ切り離し時間(変速にかかる時間)をソリオよりも短くして加速性を高めているのだから嬉しい。ソリオにはなかったパドルシフトが備わるのもトピックだ。

マイルドハイブリッドとフルハイブリッド

 ただちょっとわかりにくいのは、従来からスイフトには「ハイブリッド」を名乗るモデルがあったこと。それが「マイルドハイブリッド」で、今回登場したのは通称「フルハイブリッド」である。……ハイブリッドが2タイプもあるなんて何ともややこしいから、ここでおさらいしておこう。
 マイルドハイブリッドとフルハイブリッドの最大の違いは、モーターの力強さだ。マイルドハイブリッドのモーターが3.1馬力なのに対してフルハイブリッドは13.6馬力。そのためモーターに任せられる仕事も増え、結果としてカタログに記載されているJC08モード燃費もマイルドハイブリッドが27.4km/L(FF車)に対してフルハイブリッドは32.0km/Lと優れている。
 こうやってスペックを見るといいことずくめのように見えるフルハイブリッドだが、じつはウイークポイントもあって、それが価格。マイルドハイブリッドを搭載するグレード「HYBRID ML」が172万1520円(自動ブレーキなど安全運転支援システムをまとめたセーフティパッケージを含む)に対して同等の装備内容となるストロングハイブリッドの「HYBRID SL」は194万9400円と価格設定は高い。ちなみにハイブリッドの類を搭載しない「XL」は燃費が24.0km/Lで価格は155万5200円(セーフティパッケージを含む)だ(ただしLEDヘッドランプが備わらないなど装備内容は「HYBRID SL」や「HYBRID ML」に対して約10万円相当控えめ)。他のハイブリッド車にも共通することだが、燃費や走行フィーリングを取るか?それとも価格を取るか?は購入にあたってしっかりと検討するのがいいだろう。
 参考までに、ガソリン代などランニングコストも含めコストパフォーマンス最優先だったら、純ガソリン車が有利だ。いっぽうで優れた燃費を達成する歓びや燃料コストの安さ、そしてモーターの助けを借りた加速感やモーター走行時のスムーズさや静粛性といったハイブリッド車ならではの力強い走行感覚を求めるなら、ハイブリッド車を選ぶのがいいだろう。もちろん先進性というイメージもハイブリッド車の魅力だ。

フルハイブリッドの恩恵は燃費以上に「走り」

 さて、そんなスイフト ハイブリッドは冒頭に書いた通りに「燃費のいいスイフト」だけでは片付けられないクルマだ。なにが素晴らしいか? 気持ちのいい「走り」である。
 世の中には「燃費は抜群にいいけれど走りに爽快感がない」というハイブリッドカーもある。燃費がいいのは正義だからそれ自体は素晴らしいことだが、走りに爽快感がないのは残念なこと。しかし、スイフト ハイブリッドは違う。加速もコーナリングも抜群に心地いいのだ。具体的に言うとドライバーの思い通りに加速して、ドライバーが期待する通りにスッと曲がるクルマといえる。
 加速の爽快感は、アクセル操作に対するリニア感と言い換えてもいい。加速フィーリングに爽快感のないハイブリッドカーはアクセルと動力源がゴム紐で繋がっているような感触なのだが、スイフト ハイブリッドはまるで針金でつながっているかのようなダイレクトな感覚なのだ。アクセルを踏んだ際の手応え(正確にいえば足応え?)がいいのである。ドライバーがアクセルを踏み込む量に応じて反応遅れがなく、踏んだ量に応じてリニアに加速していくのがとても心地よく好印象である。


 「AGS」というギヤボックスがMTをベースにしている、世間一般的に言われる「シングルクラッチ」であることを不安に思うかもしれないが、はっきりいってそこは気にしなくていい。スズキのシングルクラッチの制御は巧みで、アクセルを深く踏み込んだ際の1速から2速へのシフトアップに若干の息継ぎ感(MTでちょっと下手な人がシフトアップして同乗者がコクッとお辞儀をするようなギクシャク感)があるものの、日常的な加速や2速から3速以上のシフトアップは達人のMTシフトのようにスムーズ。スズキのシングルクラッチ制御技術は(あくまで現時点においてだが)世界一といっていい完成度であり、さらにエンジンの動力が切り離される変速時もモーターが駆動輪へトルクを伝えるので息継ぎ感が少ないのだ。この滑らかさにはちょっとした感動を覚える。
 さらにいえば、シングルクラッチのギヤボックスにモーターを組み合わせたスズキ独特のハイブリッドシステムが、ダイレクトな加速を実現している理由でもある。だから人間の感覚にとって違和感を覚える加速感となりがちな無段変速を採用する他社のハイブリッドに比べて加速が爽快なのだ。

 そして爽快感のもうひとつのポイントがハンドリング。そもそもスイフトはドライバーのハンドル操作に対して素直に車体が曲がっているハンドリングに定評のあるクルマ。ハイブリッドでもその感触はまったく悪化していないのだから素晴らしい。その理由としては、ハイブリッド化(と若干の装備追加)によって非ハイブリッド車よりは70kg(=成人男性ひとり分)ほど車両重量が増えているもののハイブリッドカーとしては超軽量の960kgしかないこと。しかも車両後部の低い位置にバッテリーとインバーターを搭載しているから、前後重量配分が最適化されて重心が低くなっているのも効いている。峠道を走る時はまるで水を得た魚のように生き生きとし、コンパクトハイブリッドカーのなかではもっとも運転を楽しめるのだから運転好きにとっては嬉しい限りだ。
 確かにアクセルを踏み込んだ際の1速から2速へのシフトアップで若干の息継ぎを感じるとか、後席に乗っていると路面の凹凸からの衝撃が伝わってきやすいとか、荷室が標準車の265L(VDA式測定)に対して178Lと減っている(中間リッドより下が減っているだけでそこから上は変わらないから感覚的には数値ほどは違わない)など、多少のウイークポイントはある。しかし胸のすくような走りの前にはどれも致命的な欠点ではないことを約束しよう。小気味よく走るコンパクトハイブリッドを探しているなら、スイフト ハイブリッドは最有力候補にしていい。そして、まずは試乗してほしい。

ライバルに対しての優位性

 さて、スイフト ハイブリッドのようなコンパクトハイブリッド市場はいま、人気ジャンルだけあって百花繚乱だ。そんなライバルと比較してスイフト ハイブリッドのキャラクターはどうか?
代表格といえばトヨタのアクアやヴィッツ ハイブリッド。それらは最高38.0km/Lという優れた燃費が自慢だが、引き換えに走りの爽快感は控えめだ。
 デビュー以来驚くほどの人気を誇る日産ノート「eパワー」は動力源を100%モーターとしているのが特徴で、アクセルを踏んだ時のモーターならではの突き抜けるような加速感は癖になるほど気持ちいい。これはこれで非常に魅力的なのだが、曲がる感覚はスイフトのほうが爽快だ。
ホンダ・フィットハイブリッドは「Sモード」に入れるとデュアルクラッチトランスミッションによるダイレクト感を得られるのが好印象。操縦性も芯が太く、高速巡航時の欧州車のようにどっしりとした安定感が魅力だ。ただ、峠道などでの軽快感はスイフトの勝ちである。

 ハイブリッドのメリットといえば、一般的には優れた燃費である。だから燃費トップのアクア(最高グレードで38.0km/L)と比べるとスイフト ハイブリッドの32.0km/Lはやや見劣りしてしまうのは事実なのだが、ここでしっかり強調しておきたいのがクルマ選びは燃費数値だけではないということ。JC08モード値が30km/Lを超えるレベルになると、年間1万キロも走らないような一般的なドライバーであれば、ガソリン代を金額換算するとたいした差額ではない。
 だからそれよりも加速のリニア感、ドライバーの気持ちを読み取るかのような素直な操縦性、そして運転する楽しさ、そういった運転する歓びまで勘定に入れたクルマ選びを、メーカーごとにさまざまなハイブリッドシステムが出そろった現代のハイブリッドカー選びではお勧めしたい。そして、スイフト ハイブリッドは極めて魅力的なハイブリッドカーといえる。


 機能的なインパネは、いきなり乗っても操作に迷うことがない、落ち着くレイアウトだ。サイズ、ホールド性、クッション性と満足できる質感のシートは、見た目のスポーティさもキャラクターにマッチしている。

 そのコンパクトなボディサイズからすれば、後席の空間は十分に納得がいくレベルだ。やや立ち気味の乗車姿勢でスペース効率を稼いでいる。


【スズキ スイフト HYBRID SL(5速AT・AGS)】
全長          3840mm
全幅          1695mm
全高          1500mm
ホイールベース     2450mm
重量          960kg
エンジン        直列4気筒DOHC+モーター
総排気量        1242cc
エンジン最高出力    91ps/6000rpm
エンジン最大トルク   12.0kgm/4400rpm
モーター最高出力    13.6ps/3185-8000rpm
モーター最大トルク   3.1kgm/1000-3185rpm
サスペンション前/後  ストラット/トーションビーム
ブレーキ前/後     Vディスク/ディスク
タイヤ前後       185/55R16
販売価格        166万8600円~194万9400円(ハイブリッド、非マイルド全グレード)



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グーネットマガジン編集部

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