新車試乗レポート
更新日:2023.12.11 / 掲載日:2023.12.08

MX-30 R-EV もっとも現実的な回答【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ

 マツダのMX-30 R-EV(以後R-EV)にようやく試乗した。が、しかし最近の電動化モデルはだいぶややこしいことになっている。R-EVにはエンジンとバッテリーとモーターが搭載されているから語源に従えばハイブリッドだが、メーカーが考えた使い方は、本質的にはBEVである。

 それが意味することはすなわち、自宅の充電器で基礎充電をして運用することが前提になる。残念ながら集合住宅にお住まいの方のほとんどはお呼びでない。搭載バッテリーは17.8kWhとBEVにしては極端に小さい。しかしこれこそがR-EVの大きな特徴であり、戦略的設定でもある。

 バッテリー資源は全然足りないし、バッテリーは高い。まともなエンジニアならば、地球のためにもユーザーのためにもこれをいかに減らすかを考えるべきで、それは量産効率から言っても極めてまともなアプローチである。

使用実態を調べると、ユーザーの9割の平日走行距離は100km以下であり、これを超えるのは年に数回の旅行のようなケース。その場合の走行距離も600km以下が9割。要するに普段は100kmも走れば十分なのだ。ならば平日の利用量を前提にバッテリー容量を決め、例外的に長距離乗る時のためにコンパクトな発電機のレンジエクステンダーで対応するという考え方はあってしかるべきだ。

 しかしながら「いざと言う時困らないように」となるのが人間の心理であり、だからこそ年に数回上京する祖父母を一緒に乗せる7人乗りミニバンが売れたりするのだが、クルマのライフタイムで見てみれば、走行距離の7割以上は1人乗り、残る3割がせいぜい2人か3人で、7人で乗る機会はパーセンテージに出るレベルにはない。なので冷静に考えれば7人乗りを普段使いにするのは無駄の極致である。

 バッテリーの話もこれと同じ。もちろん個人個人で使い方は異なるとは言うものの、猫も杓子も大容量バッテリーを選ぶ現状は全体的に見ておかしい。量が多いほど偉いというのはシートの数が多いほど偉いという理解とまあほぼ一緒で理知的判断ではない。市場調査を見る限りは、バッテリーだけで100km、レンジエクステンダーで600kmの航続距離を持たせてやれば良いことになる。

 幸いなことにマツダは、発電機用として理想的なロータリーエンジンを持っている。これはおそらくはレンジエクステンダーの理想形とすら言えるだろう。燃費が悪いという声は出るだろうが、気にすることはない。マツダにはハイブリッド最良クラスの燃費を叩き出すSKYACTIV-D 3.3があるが、そんな豪勢なユニットはいらない。利用頻度の低いエンジンに求められる性能の筆頭はコンパクトで安いこと。複雑さやコスト高とトレードオフしてまで燃費を求めることはない。何しろこれはBEVであり、エンジンは困った場面で使うものだからだ。コンパクト化を直列2気筒でやろうとすると180°クランクならトルク変動の振動が出るし、360°クランクなら回転バランスの振動が出る。バランス面では4気筒が良いに決まっているが、大して出番がないくせに、過剰に大きく重くコストが高い。唯一の出口は3気筒だが、それでもまだ過剰だ。ワンローターのロータリーにコンパクトさと軽量さで太刀打ちできるレンジエクステンダーシステムはちょっと見当が付かない。多分世界中のレンジエクステンダーを考えているメーカーが今このロータリー発電機を欲しがっていると思う。

マツダ MX-30 Rotary-EV

 さて、乗ってどうだったのかをとっとと書けといわれそうなので話を進めよう。まず駆動は100%モーターなので、走りの質としては限りなくBEVである。限りなくと担保を付けたのは、エンジン始動時に神経を集中すれば、街中でもわずかに音と振動を感じることができる。静かな山中とかで静々と走っている時ならもう少しわかるかもしれない。まあ常識的には、聞こえない感じないと言っても差し支えない範囲だろう。つまりはBEVと変わらない。ロータリーファンには誠に残念なことにエンジンの存在感はゼロである。

 モーターならではの豊かな低速トルクを持ちつつ、全体の騒音的には静かということで、そこは多くのBEV同様文句をつける部分はない。マツダらしい滑らかな躍度制御もさすがの仕上がりである。今回の横浜市からアクアラインを使った千葉県の鋸南町までの往復は、一部が100km/h制限、多くが80km/h制限下で走った結果、概ね6km/1kWh程度の電費を記録した。飛び抜けているわけではないが、優秀なグループに入る資格がある。BEVの御多分に漏れず、新東名の120km/h制限区間の電費は多分少し苦しそうな気がするが、どうだろう。その辺りはそのうち試してみたい。

マツダ MX-30 Rotary-EV

 さて話題のおむすび発電機は果たしてどう作動するかだが、「ノーマルモード」だとバッテリー残量が45%になるとエンジンがスタートする。以後、おおむね50%くらいまでの間でエンジンをオンオフして、バッテリー残量を維持する。システム的にはシリーズハイブリッドで、動輪とエンジンはメカニカルにつながっていないので、エンジンのオンオフは加減速に全く影響がない。そもそも高速道路を巡航中だとエンジンの作動音はロードノイズにカバーされてしまい、まず聞こえない。

 45%維持の意味は、このくらいバッテリー残量があると、システム最大出力が発生できるからだ。逆に言えばバッテリーを使い切ると、発電機だけではシステム出力が多少落ちる。フルパワーなんてつかわないので、コストの安い自宅充電の電力を優先的に使いたいという人は、「EVモード」を使えば良い。このモードでは0%になるまでバッテリーが優先され、バッテリーをエンプティにしてから初めてエンジンが始動する。

 ハンドリング全体はe-GVC Plusの恩恵もあって、素晴らしい。e-GVC Plusは、舵角に対する横力の発生をモニタリングして、必要に応じてフロントに回生制動をかけてアンダーステアの発生を消す仕組みである。またコーナー脱出時には外側前輪に微弱な制動をかけることで直進状態に早く復帰させる。

 このシステムは内燃機関に用いられてきたが、元を正せばBEV用に開発されてきた技術。MX-30 EVモデルの発売時に、頭に「e 」が付いてBEV用になった。と褒めたまま終わりたいところだが、どうしても気になるのが車重。車両重量が1780kgもある。同じCX-30のEV MODELはFFで1650kg。CX-30のEV MODELがBEVとしては軽量だということを差し引いても、可能であれば同重量に仕立てて欲しかった。130kg差は努力の結果だと認めるが、実際に走り出しの瞬間から重さを感じる。ボディ剛性もまああるし、ステアリングが精密なので、その気になれば結構曲がるクルマだが、EV MODEL同様調子に乗ったら怖い気がする。

マツダ MX-30 Rotary-EV

 さて総評をどうするかだが、マツダ自身が3年後の残価設定保証額を55%に置いていることを高く評価しよう。少なくともそこのリスクにマツダは踏み込んでいる。という意味では従来の内燃機関と同等の価値をマツダは守って行くと宣言しているに等しい。少なくともこのクルマに関しては、新車で買ったらあとは泥沼ということは起こらないだろう。実質的にBEVでありながら、長距離でも不便せず、下取りも安心という意味では実は結構推奨銘柄だと言えるのではないだろうか。

おわび:初出ではハイブリッドモデルとの車両重量比較を元にした内容を記載しておりました。おわびして訂正いたします。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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