新車試乗レポート
更新日:2022.12.09 / 掲載日:2022.11.29

【日産 新型セレナ】ファミリーミニバンとして磨き上げたフルモデルチェンジ

文と写真●大音安弘


 国産ミドルクラスミニバン御三家のひとつである「セレナ」が、6代目へとフルモデルチェンジ。新型では、歴代モデルで磨き上げてきた三世代家族で楽しめるファミリーカーとしての価値を磨きつつ、先進機能「プロパイロット」と電動パワートレイン「e-POWER」を武器に、先行してデビューした新世代ライバルたちに勝負を挑む。早速、テストコースで行われた事前試乗会で感じた新セレナについてレポートする。

新型セレナとライバルの違い

新型セレナ ハイウェイスター

 2022年は、国産ミドルサイズミニバンが刷新される年になった。1月のトヨタ「ノア/ヴォクシー」が、5月には、ホンダ「ステップワゴン」がそれぞれフルモデルチェンジを実施している。最後発となるのが、従来型が「e-POWER」の成功で大きな盛り返しを見せたセレナである。

 各車、それぞれ強みを持つが、セレナとライバルたちの違いに注目してみた。ひとつが、5ナンバーサイズに拘ったこと。セレナの標準車は、今も5ナンバーサイズを維持。もちろん、先代同様にハイウェイスターのような3ナンバーボディも用意されているが、それも+15mmの全幅1715mmに留めたスリムなデザインなのだ。もうひとつが、乗車人数。他社ミニバンが、7人乗り仕様と8人乗りを選択制にするのに対して、セレナは8人乗りを主力とした。これらの点からも、セレナの独自のミニバン観が目指されていることが感じられる。さらに高度運転支援技術となる「プロパイロット2.0」や第2世代の「e-POWER」など、日産の最新技術も惜しみなく投入されている。

新型セレナ ハイウェイスター

 新しいスタイルは、コンパクトカー「ノート」やBEV「アリア」とも共通を感じさせる未来的なテイストを加えつつ、従来型セレナのイメージを受け継いだもの。質感の向上にも力を入れており、車体パネルやつなぎ目などの美しい仕上げにも拘った。フロントマスクは、従来型ほど仕様によるデザインの差はなく、全体的に大人しいが、日産のデザインアイコン「Vモーション」を取り入れることで、グリルとヘッドライトを一体化させた個性的な顔立ちに仕上げている。因みに、迫力のマスク担当は、ハイウェイスターから、オーテックへとバトンタッチしたようだ。さらにボディサイズをよりスマートに仕上げつつ、抑揚のあるものに仕上げたのは、デザインチームの努力が感じられる。ベルトラインが抑えられたことで、ガラスエリアも拡大し、視覚的に重心の低さが感じられるようになり、走りの期待値も高まっている。

シフトボタンを採用しすっきりとしたインテリア

新型セレナ ハイウェイスター

 コクピット周りは、最新日産車に共通するデジタルなもの。グレアレスのデジタルメーターパネルとインフォメーションシステムが並列して並び、その下には、エアコンパネルなどのスイッチ類が備わる。随分、すっきりしたなと思ったら、なんとシフトレバーがない。新型セレナからは、シフトボタンが採用され、エアコンパネル下の運転席側に横並びに配置されている。シフトの操作性も想像よりも良かった。メーターパネルがフルカラー液晶となったことで、アナログ2眼式を主体としたものから、プロパイロットなどの機能主体の表示まで多彩な表示が可能となっている。

 シートレイアウトは、2+3+3の8人乗りが基本。2+2+3の7人乗りは、新たな最上級車「e-POWER LUXION(ルキシオン)」のみ。随分、大胆な戦略と思ったが、これは顧客からの声を受けたもの。従来型は、e-POWERは7人乗りのみだったが、それを改善した結果なのだ。同クラスのミニバンにも求められる、家族全員で快適に移動できるという役目をしっかり果たそうということなのだ。2列目は、3つのシートに分割され、独自にスライドが可能。なんと2列目中央シートは、不要時は折り畳み、フロントシートまでスライドさせることもできるので、ゆったりと座ることも可能なのだ。さらに3列目にもスライド機構を持つのも、セレナの強み。このように、どのシートでも快適な姿勢が取れるように工夫されている。またシートをフルフラット時には、快適な就寝姿勢が取れるようにしているなど、昨今の車中泊ニーズにもしっかりと取り組んでいる。

 ラゲッジスペースは、同クラスミニバンナンバー1の広さを謳い、フロア下にも大容量の収納を備える。電動テールゲートの採用は見送られているのは残念だが、国産ミニバン唯一となるガラスハッチは継承。ガラス開口部は拡大され、フロアボードにも手が届くようになったので、テールゲートを開ける機会も減りそうだ。

 パワーユニットは、e-POWERとガソリン車の2本立て。目玉となるe-POWERは、第2世代に進化させただけでなく、新開発の発電専用1.4Lエンジンを採用。これによりモーター出力を高めることが可能となり、120kW(163ps)、最大トルク315Nmに。スペック上では、トルクは、ほぼ同等だが、出力が+20kW(27ps)が高まっている。注目すべきは、燃費にあり、20.6~19.3km/L(WLTCモード)と良くなっている。一方、ガソリン車は通常の2.0L4気筒DOHCエンジンとなり、最高出力150ps、最大トルク200Nmを発揮。ノンアシストとなる以外は、従来型と同スペックとなり、燃費も同等の13.4~11.6km/L(WLTCモード)となっている。基本的には前輪駆動車だが、ガソリン車のみ4WDが選択可能だ。

新型セレナのグレード構成

 グレード構成は、標準車と人気のエアロ仕様「ハイウェイスター」に加え、e-POWER専用の最上級グレード「e-POWER LUXION(ルキシオン)」を設定した。LUXIONは、日産の高度運転支援機能である「プロパイロット2.0」をミニバンとして初採用し、標準化。高度駐車支援機能「プロパイロットパーキング」、専用キーで駐車車両を車外から前後移動させることができる「プロパイロットリモートパーキング」、ナビゲーションシステム、アラウンドビューモニター、デジタルルームミラー、前後ドラレコ、ETC2.0車載器など、まさにフル装備状態と、日産の今を感じられる贅沢な仕様となっている。ただ他のモデルでも、運転支援機能である「プロパイロット」は標準化されており、ロングドライブでの快適性と安全性も高められているのも忘れてはならないポイントだ。

新型セレナを運転してわかったこと

新型セレナ ハイウェイスター

 早速、新型セレナにテストコースにて試乗してみた。運転席の視界は、すこぶる良好。従来型もガラスエリアは広く、視界には優れていたが、ダッシュボードの配置がすっきりしたことで、視覚的なノイズが抑えられていることが大きい。新装備となるシフトボタンは、操作に戸惑うこともなく、想像するよりも使いやすかった。基本的には発進時以外は操作しないので、次の機会に駐車時のシフト切替を試してみたいと思う。

 進化したe-POWERは、電気モーターによるリニアかつ力強い走りは従来同様の強みだが、新型は、より静かだ。日常走行で行う範囲のアクセル操作ならば、エンジン始動時も車内の静粛性は高く、まるで隠れるように働いてくれるエンジンなのだ。もちろん、エンジン音は聞こえるシーンはあるが、それはフル加速のように力強くアクセルを踏むような状況飲みで、通常走行でエンジン音が高まることはない。

 さらなる低重心化も図られたようで、コーナーも気持ちよく駆け抜けてくれる。e-POWERの活躍で、ノートなどの日産コンパクトカーの走りも格段の進化を見せているが、セレナでも走りの進化が体験できたのは嬉しい発見であった。走行中は安定感が高く、路面からの突き上げもしっかりと捉えており、安定感も高い。そして、プロパイロットの搭載もあり、制御の要となる電動パワステも磨かれたようで、ステアリングフィールも格段に向上しており、運転の心地よさも増していた。これならば、走り好きの日産ファンにも刺さるかも。従来型では、短命に終わったNISMOの再登板を期待したくなるほどの出来なのだ。それではシンプルなガソリン車はどうかというと、こちらは軽さの分、動きはナチュラル。よりゆったりとした乗り味で悪くない。プラットフォームは継続しているというが、かなり各部に手を加えたということなので、シャシー性能の向上自体が、乗り味や運転フィールを大きく高めているのだろう。早く、公道で、3列シートの感触を試してみたいと思う。

 短時間の試乗で勿体ないと感じたのは、一部スイッチの配置だ。新セレナのスイッチデザインは、確かに雑味がなく、美しい。ただe-POWERに備わる「eペダル」と「EVモード」のスイッチがエアコンパネル下の助手席側に、ドライブモード切替スイッチも運転席右下にスイッチが配置されており、いずれも運転中の切り替えがしにくいのだ。折角の機能は、使いたいシーンで活用したいもの。これらの改善を期待したい。

まとめ

 独自のファミリーミニバンを目指し、磨き上げを図った新セレナ。5ナンバーを意識したサイズ感や日産の最新技術全部乗せの最上級グレード「LUXION」の提案など、多くのユーザーが願うミニバンへの希望が上手く反映したモデル構成だと思う。特に走りの面で、各社の個性が強く感じられるようになってきたことには、ひとりの運転好きとして嬉しく思う。とはいえ、新セレナには、強力なライバルが存在し、今後も激戦が続くだろう。その際、パパとママでは評価のポイントも異なるはずだ。その点も含め、新セレナが如何なる戦いを見せるか注目したい。

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大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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