新車試乗レポート
更新日:2022.08.01 / 掲載日:2022.07.25

新型フェアレディZのメカニズムを解剖する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●日産

 フェアレディ誕生から72年、クーペボディのフェアレディZとなってから52年を数える2022年に発売となった新型フェアレディZ。車両型式が従来と同じZ34のままなので、ビッグマイナーチェンジという位置づけになるが、見た目も中身の進化もフルモデルチェンジと言ったほうがしっくりくる内容だ。

 初代のS30を彷彿とさせる、まさに貴婦人と呼びたくなる美しく可憐なシルエットとモダンな雰囲気をあわせもつボディを身に纏った新型の、メカニズムにおける最大のポイントはエンジンだ。スカイライン400Rに搭載された3L V6ツインターボのVR30DDTTを進化させたもので最高出力405PS、最大トルク475Nmという絶対値はかわりないが、最大トルク発生値は400Rの1600−5200rpmからブーストアップによって1600−5600rpmへと引き上げている。もう一つ、400R用ユニットの違いはリサキュレーションバルブの採用。アクセルオフしたときに圧縮された空気を逃すもので、アクセルを踏み直したときのレスポンスや回転落ちが良くなる。ブローオフバルブと役割としては同様だ。

 もともとこのエンジンの特徴は、タービンに回転センサーを取り付けて正確に回転を把握し、性能をきっちりと引き出すことにある。タービンは20万rpm以上もの超高速で回転するもので、回転センサーがない一般的なユニットでは過回転などを防ぐために10%程度のマージンをとっているというが、VR30DDTTではそれを3%程度まで削り、最大回転数を16000rpmほど高められている。性能を引き出しきれるので小型タービンでもパワフルになる。レスポンスの良さと大パワーの両立が図れるのだ。ターボ化によって冷却システムは大幅に強化され、空冷エンジンオイルクーラー、空冷トランスミッションオイルクーラー、水冷インタークーラー&専用ラジエターの追加、クーリングファンのモーターパワー増、ラジエーターの厚み増などが行われている。全体的なスタイリングは美しいのに、フロントグリルだけはなんだか武骨に思えるが、これも冷却のための機能的な選択だ。

 6MTは従来モデルの改良型で大トルクに対応するためクラッチディスクやギヤトレインを強化。シンクロは新設計で、チェックスプリングの荷重を50%増、シフトロッド溝プロファイルの最適化などでシフトフィールの改善を図っている。

 ATは400Rでは7速だが、新たに9速を採用。すでにフルサイズピックアップのタイタンに搭載されているJATCOのJR913E(2020年に新開発)で、ダイムラーの9G-TRONICをベースに80%ほどを作り替えたというものだ。メカニカルロスを徹底的に低減し、走行条件によってオイル流量を可変とするなど高効率。ロックアップは800rpmから可能なポテンシャルを備えているという。400R用の7速に比べて重くなっているが、ケースをマグネシウム製として重量増は10kgに抑えられている。

 シャシーは基本的にキャリーオーバーだが、知り尽くしているので徹底的に手を入れ、部品は80%近くかわっているという。ボディ剛性はゲート周りやサスペンション周り、バルクヘッドなどで強化。新たにラックアシストEPS(電動パワーステアリング)を採用した(左ハンドルはデュアルピニオンだが右ハンドルはシングルピニオン)。フロントサスペンションはジオメトリーをハイキャスターとしている。直進性やセルフセンタリングが高まるが、EPSによってデメリットも抑え込んでいるのだろう。ショックアブソーバーは前後とも減衰力の立ち上がりがいいモノチューブとしている。またタイヤも新開発で18インチは前後同サイズの245/45R18、19インチはF255/40R19、R275/35R19。従来に比べるとフロントタイヤが幅広となっており、ターボ化によるノーズヘビーへ対応しているようだ。

 今回は日産北海道陸別試験場で試乗。ドイツの高速道路やカントリーロードを模したテストコースだ。

 ゼロ発進はアクセル全開。MTはエンジン回転数を確認しながら走らせる必要があるが、前方を見たままでもメーター上部のシフトインジケーターが目に入ってくるので運転に集中しながら最適のシフトアップ・タイミングが可能だ。緑、黄色、赤と変化していくインジケーターと中央に配置されるタコメーターが真上にくると上限の7000rpmに達するというアイデアは松田次生選手のアドバイスによるものだそうだ。

 トルクが図太く、簡単にリアタイヤをブレークさせる豪快さがある一方で、ターボの悪癖がほとんど感じられず、レスポンスがいいので繊細なコントロールを受け付けてくれるのが特徴。右足の微妙な動かし方で最速ダッシュを決められる。7000rpmまで回しても頭打ち感はなく、MTではもう1000rpmぐらい回ってくれてもいいのに、と思うほどだった。

 ATではそう思わないのは9速でステップ比が最適だからだろう。MTよりも格段に速く、全開加速で高いエンジン回転数をキープできるので気持ちもいい。3速、4速とあがっていってもなおリアタイヤを軋ませるほどにパワフルだ。大パワーのFRをMTで操るのは、何者にも代えがたい歓びがあるが、ATの出来が良すぎるのでチョイスは悩ましいところだ。MTのシフトフィールは悪くはないが、出色というほどでもなく、またエンジンのトルク制御もATのほうがマッチングがいいようだからなおさら悩みが深くなる。

 エンジン・サウンドは、基本的には控えめだ。2022年10月から騒音規制がめちゃめちゃに厳しくなるので致し方ないところ。車外の音は抑えているが、その代わりに車内ではスピーカーからサウンドを発しているので、がっかりするほどではない。ギミック感もあまり感じられず、いい調律のサウンドになっている。

 試乗当日は雨上がりで、ウエットとドライが混在する難しいコンディションだったが、懐の深いシャシーのおかげで自信を持ってドライビングできた。サスペンションはそれ相応に引き締まっているものの、フリクションが少なくてしなやかに動き、荒れた路面でも濃厚な接地感があって動きを把握しやすいのだ。この特性は、路面が綺麗なサーキットよりも、変化に富んだワインディングロードで強みを発揮するだろう。また、日常域での乗り心地も不快感がなく、ロングドライブにも向いているはず。グランドツアラーとしての資質が高いのだ。とにかくサーキットでのラップタイムが命、というイメージが強いGT-Rとはそこが違う。

 アクセルを積極的に踏みつけて楽しむだけではなく、日常域をイメージしての走行もしてみたが、ノイズ関連でも大いに進化していた。従来モデルは低周波のドラミングノイズが大きかったが、おもにテールゲート周りの改良によって共振等が抑えられ、不快なノイズがシャットアウトされている。ロードノイズも、プレミアムサルーン並とまではいかないものの、スポーツカーとしては十分に低いレベルだった。新開発のタイヤは内側にスポンジが貼られて空洞共鳴音が抑えられ、接地形状を四角からラグビーボールのようなカタチにすることで路面を叩く音を低くしているという。

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 405PSのFRということで、豪快なパフォーマンスが味わえるだろうことは想像できていたが、しなやかで繊細なコントロールを受け付ける懐の深さは期待を大きく上回るものだった。さらに、デイリースポーツカーとして快適性も考慮していることに嬉しくなった。貴婦人の名に相応しい、華麗で上質なスポーツカーへと進化したのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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