新車試乗レポート
更新日:2023.01.07 / 掲載日:2022.06.25
【アルピーヌ】新型A110改良のポイント【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●アルピーヌ
2017年12月にデビューしたアルピーヌA110(日本導入は2018年6月)が初のマイナーチェンジを受けた。
1.8Lターボ・エンジンは標準が最高出力252PS/6000rpm、最大トルク320Nm/2000rpmというのは従来通りだが、これまでA110Sに搭載されていた高性能版は292PS/6420rpm、最大トルク320Nm/2000rpmから300PS/6300rpm、最大トルク340Nm/2400rpmとなった。
そもそもA110は可能な限り軽量コンパクトにするというコンセプトがあり、パッケージングに余裕はない。だからゲトラグ製7速DCTもコンパクトでトルク容量は320Nmでいっぱいいっぱいだった。だから2019年11月に導入されたA110Sは、ブーストアップはしたものの最大トルクは標準のまま。だが、標準は5000rpmを超えるとトルクが落ちていくのに対して最高出力を発生する6240rpmまで維持させパワーアップを図ったものだった。5000rpmまでのパフォーマンスは標準でも高性能版でもかわりなく、それ以上引っ張ったときにのみ違いが表れるというものだった。
だが、今回のマイナーチェンジではDCTの内部に手を入れ、シャフトやクラッチなどを強化してトルク容量を増強。2000rpmから標準以上のトルクを発生するので、全域で力強く、最高出力をさらに引き上げることも可能となった。0-100km/h加速は標準では4.5秒、従来の高性能版が4.4秒だったところ、新しい高性能版は4.2秒へと短縮された。

従来のグレードは標準エンジン搭載のA110ピュア、A110リネージ(装備が豪華なグランドツアラー)、高性能版エンジン搭載のA110Sだったが、新型ではA110(標準エンジン)、A110GT(高性能版エンジン)、A110S(高性能版エンジン)へと改められている。
シャシーは、A110がオリジナルでソフトなアルピーヌシャシーで、A110Sは強化されたシャシースポール。グレード構成の変更で面白いのは、アルピーヌシャシーながら高性能版エンジンを搭載するモデル、A110GTができたことだ。デイリーユースからワインディングロードを楽しむ範囲ならばアルピーヌシャシーのほうが向いているが、高回転域で気持ちがいい高性能版エンジンが羨ましいという声はこれまでも聞かれていたので、それに応えたかたちと言えるだろう。
シャシーの変更はないが、改めてアルピーヌシャシーとシャシースポールの違いを紹介しておこう。
アルピーヌシャシーはスプリングレートが前30N/mm、後60Nm/mm、アンチロールバーが前17N/mm、後10N/mm、タイヤは専用開発のミシュラン・パイロットスポーツ4で前205/40R18、後235/40R18、ロールレートは3.3°/Gとなる。
シャシースポールはスプリングレートが前47N/mm、後90Nm/mm、アンチロールバーが前25N/mm、後15N/mm、タイヤは同じ銘柄で前215/40R18、後245/40R18、ロールレートは2.8°/G。アルピーヌシャシーに対してスプリングとアンチロールバーは約1.5倍の剛性アップとなり、ショックアブソーバーはそれに合わせて最適化。タイヤは前後とも10mmずつ太いということになる。

そしてマイナーチェンジでA110Sに新たなエアロキットを装着したA110Sアセンションが用意された。カーボン製のリアスポイラーとフロントブレード、エクステンデットアンダーパネルが装備されて重量は全部で4kg。これを装着することでフロントに+60kg、リアに+81kgのダウンフォースが得られるようになり、空気抵抗も減少させるという。その結果として、最高速度はA110が250km/h、A110Sが260km/hとしていたところ、エアロキット装着車は275km/hまで引き上げられている。デザイナーはエレガンスなエクステリアとするために、可変式を含めてリアウイング、リアスポイラーの類は付けない方針と以前に語っていたが、アセンションとモータースポーツは例外ということだろう。
その他、インフォテインメントが新しくなりこれまではNAVITIMEのみの対応で有料だったが、Apple CarPlayとAndroid Autoに対応した。
ちなみにルノーのスポーツモデルであるRS(ルノースポール)は、今後アルピーヌブランドへと統括され、ルノー・日産・三菱のアライアンスのBEVプラットフォームを採用していくつかのBEVをデビューさせる予定。ルノー5を彷彿とさせるホットハッチやクロスオーバーSUVなども含まれる。また、A110の次期モデルはロータスと共同開発するBEVになると言われている。BEVでも楽しいクルマはきっと造れると期待する一方で、現在の液体リチウムイオン電池では現行A110のようなコンパクトなボディでライトウエイトを実現するのはかなり難しいだろう。全固体電池のような次世代電池ならばだいぶ現実的だが、そうなると、少なくとも2030年あたりまでは実現不可能かもしれない。いずれにせよ、エンジン車のアルピーヌが新車で手に入れられなくなる時期が、そう遠くない将来に訪れる。カウントダウンは始まっているのだ。