新車試乗レポート
更新日:2022.06.20 / 掲載日:2022.06.20

【試乗レポート トヨタ bZ4X】自然体で付き合える完成度の高い電気自動車

文●工藤貴宏 写真●トヨタ

 乗用車としてはトヨタ初の専用ボディを持つ量産EV(電気自動車)。それがbZ4Xだ。ちょっと肩書がややこしいのは、これまでトヨタで市販EVがなかったわけではないから。だけど、従来のモデルは既存のガソリン車をベースにした車体だったり、そもそも市販モデルとはいえ大量生産を前提としたものではなかったり、本気でたくさん売ろうと考えたクルマではなかった。というわけでこのbZ4Xがこれまでのトヨタの市販EVと大きく異なるのは、大量販売を前提としたクルマだってこと。そこを頭に入れておくかおかないかで、このクルマの見え方が変わってくるんじゃないだろうか。

 ちなみにトヨタは初年度に5000台分の販売を見込んでいるんだそうだ。これは日本国内だけの数で、アメリカなどでも販売するがもっとも数が多く売れるのは中国を見込んでいるんだとか。そんなトヨタの読みを知ると、改めて中国市場ってすごいなと思う。

ガソリン車でいえばRAV4に近い車体の大きさ

トヨタ bZ4X

 そんなbZ4X、クルマのパッケージングは大きなタイヤを履いて車高を上げたSUVだ。スタイリングを見ると、デザインを個性的に仕立てようという狙いはひしひしと伝わってくる。ただし、プロポーション自体はエンジンを積んだSUVとそう変わるものではなく、たとえば日産アリアのように“エンジンがないからノーズが短い”といったドラスティックな変化はない。

 変化がないといえば、大きさは全長4690mm×全幅1860mmで、いうなれば「RAV4」と同じくらいの長さで幅は同じくらい。日本では絶対的に小さいわけではないけれど、今どきのボディサイズでは気持ち大きいくらい……といったところだ。試乗中に駐車するシーンもあったけれど、駐車枠にしっかり収まるし、特別に気を遣うなど持て余すほどではなかった。このあたりは国内ユーザーのことしっかり考えてあると思う。

 そうそう、忘れちゃいけないのが180mmと十分に確保された最低地上高だ。これだけあれば一般的なセダンやワゴンよりも車体下を擦りにくく、しっかりとSUVしている。SUVのEVの中には床が高いように見て実はそれほどでもないという“なんちゃって”もあるけれど、bZ4Xはそうではないということだ。もっといえば4WDのコントロールには開発を一緒におこなったスバルのノウハウが注ぎ込まれているというし、試乗中に試す機会はなかったけれど、「X-MODE」というスバル車の悪路走行用制御がトヨタ車としてはじめて組み込まれているのも面白いところだ。

トヨタ bZ4X

EV専用プラットフォームを採用したことで居住性にはいままでにない個性がある

 プラットフォームはEV専用に作られたもので、このbZ4Xが初採用。エンジンは摘まず、代わりといっては何だが大きなバッテリーを床下へ納めることを前提に開発されている。これはうれしいなあ……と思ったのは、サイドシルとフロアの段差と外側への張り出しが少ないこと。おかげで乗降時の足先の動きがスムーズで、楽に感じた。

 もうひとつ驚いたのは、リヤシートの着座感。座面が低めでヒール段差(床と着座位置の高低差)が少なく、いっぽうで前席との距離は広めにとってあるから、座ると足を前に投げ出してソファーに座るような感覚に近いのだ。これは床下へのバッテリー搭載により床が高くなりがちなEVの特徴を反映した設計だが、これだけ前後席間距離が確保されていればこういうのもアリだなと思った。

トヨタ bZ4X

 さて試乗……の前にパワートレインにも触れておくと、モーターはFFモデルの場合はフロントに最高出力150kWのタイプがひとつ、4WDモデルはフロントが80kW+リヤ80kWでトータル160kWとなる。停止状態から100Km/hまでの加速タイムは前者が7.5秒、後者が6.9秒なので4WDのほうが速いがほぼ同じくらいといったところだ。いっぽうEV選びで特に気になる1充電での後続可能距離は、WLTCモード値においてFFが559km、AWDは540kmと立場が逆転する。そのあたりは、走りの味をとるのかそれとも航続距離をとるか、というユーザーの選択になってくるだろう。間違いないのは、トヨタは普及型EVの第一弾を作るにあたって大バッテリーを搭載して500kmを超えるような後続距離とし安心を求めてきたということである。「航続距離が短くて使えない…!」なんて思わせないためであろう。航続距離は短いとクルマのつかみ道が限られるが、長くしようと思うとバッテリーを大きくしなければならないので価格が上がり、また重くなるのでバッテリー容量のわりに航続距離が伸びないという落とし穴にはまる。そのあたりのバランスが難しいところだし、現時点では「ベター」はあるが「確実に正解」と呼べる答えはない。

 そうそう、EVらしいといえばグレード構成も一般的なガソリン車とは違う。グレードは「Z」という1タイプのみで、選択肢としてはFFと4WDの駆動方式に加えてタイヤ(18インチor20インチ)とルーフタイプ(標準orムーンルーフ)が用意されている。そのうえでいくつかのオプションを選んで自分仕様を作り上げていく、セミオーダーメイドの感覚だ。グレードのヒエラルキーをなくす、昨今のEVのトレンドをしっかり反映しているなあと思う。

エンジン車から乗り換えても違和感のない自然なフィーリング

トヨタ bZ4X

 そんなbX4Xを運転して何より感じたのは、トヨタは「エンジン車に代わる存在」といして仕立ててきたなってことだ。一部のEVは、EVであることをアピールするためにエンジン車にはできないことを強調していたりする。それは例えばアクセルを踏んだ時の鋭い反応だったり、思い切りアクセルを踏むと脳震盪を起こすかと思うような激しい加速だったりして、それはそれで凄いことになっている。だけど普通に乗ろうと思うと、スムーズに走らせるためには操作をデリケートにする必要があったりしてそれはそれで微妙だったりする(高性能車としてはとても楽しいけれど)。楽しいけれど乗る人を選ぶスポーツカーみたいな感じだ。

 でもbZ4Xはそうじゃなくて、誰が乗っても自然にスムーズに運転できる味付けになっている。言い方を変えれば普通の人が普通にガソリン車から乗り換えて運転したときに、違和感を抱かないよう仕立てていることが伝わってきた。もちろんEVだからガソリン車より圧倒的に静かで加速も滑らかなのは前提としてあるんだけど、運転感覚としては「EVらしさを声高に強調しない」という意図を感じる乗り味だ。そして乗り味といえば、大容量バッテリーを積むEVにありがちな“車体が小刻みに揺すられるような感覚があって乗り心地が微妙”という乗り心地の印象は、bZ4Xには皆無。乗り心地がなかなかよかった。

 運転感覚も含めてそんな乗り味からはトヨタはEVを普及していくにあたり、「無理なくなじめる扱いやすいさ」を大切にしているんだなというのがよくわかるし、多くの人を対象にするトヨタらしいなとも思う。

ちなみに、トヨタはこのbZ4Xの販売方法を「KINTO」を通じたリース販売(月々定額のサブスク)専用としている。「買って自分名義にできないなんて!」と思うかもしれないけれど、バッテリー劣化(サブスクなら性能が基準を下回ると無償で交換してくれる)やリセールバリュー(EVは手放すときの買取価格が安くなりがちだけどリースなら心配いらない)などEVのネガを考えたときには、この提供方法がユーザーにとってもっとも安心できるものだと覚えておきたい。

この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

この人の記事を読む

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ