車の最新技術
更新日:2022.02.23 / 掲載日:2022.02.19
移動式急速充電器が電気自動車の可能性を広げる【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】
文●石井昌道
BEVの車種が続々と増え、バッテリーが大容量化傾向になっていくなかで気になるのが急速充電器だ。
充電性能と急速充電器の出力はBEVの利便性に大きな影響を与える
当グーネットマガジンの連載“EVテスト”では、充電のために立ち寄る海老名サービスエリアには、出力40kW×2、出力90kW×1の計3台の急速充電器がある。当然、出力が高いほうが同じ時間でも多くの電力が充電されるので便利だが、これまで発売された多くのBEVは受け入れ能力の上限が50kW程度のものが多く、90kWの充電器を使ってもあまり意味がなかった。対応しているのは日産リーフe+、メルセデス・ベンツEQA、BMW iX、ポルシェ・タイカン、アウディe-tron GTなど。しかし、日産アリア、トヨタbZ4X、スバル・ソルテラなど、間もなく走り始める新世代モデルたちは当然のように高出力対応しているので楽しみだ。
充電器側も90kWはまだ少ないが、大黒パーキング・エリアに一気に6基が増設されるなど増えつつあるのはたしか。そういえば、先日大黒に行ってみたら、ホンダe、アウディe-tron、テスラは新設ではなく、従来からある充電器を使用して下さいという張り紙があったが、どうやら新設充電器のバージョンにクルマ側が対応していないらしい。などなど、急速充電器にまつわるアレコレも興味深いのだが、そのなかの一つが移動式急速充電器だ。
持ち運び可能な急速充電器が販売開始
JEVRA(日本電気自動車レース協会)が販売を開始したJEVRA EV PORTABLE QC SERIESは持ち運び可能な急速充電器。寸法は66×28×60〜66×28×120cmで、機内持ち込み可能なキャリーバッグぐらいとコンパクトだ。これを使うには電源が必要であり、大きなビルなどならば施設からひくことも可能。それがなくても電源車があれば使用可能なので、様々な使い方ができる。
特徴的なのは日本のCHAdeMOだけではなく、アメリカのCCS1、ヨーロッパのCCS2、中国のGB/T(パンフレットに記載はないが)などにも対応していることで、並行輸入したBEVでも充電できる。
今回はサーキットでホンダeに充電してもらったのだが、I・C・Cインターナショナルの電源車(4tトラック)を持ち込んでいた。充電器のパネルには、車両のSOC(%で表示される充電状態)、現在の出力、充電された電力量、充電した時間などが表示される。バッテリー容量が小さいホンダeは受け入れ能力があまり高くなく、表示では49%のSOCで17.9kWの出力しか出ていないが、最大60kWの能力があるそうだ。
JEVRAは2010年から電気自動車レースを主催し、サーキットでの充電サービスを行ってきた。200Vの普通充電を多数用意するだけではなく、東洋電算のEV充電車“T救号(2tトラックに急速充電器とバッテリーを搭載)”を用意して現場で急速充電ができるようにもしていた。そういった経験から、様々な場所で使いやすく、機能的にも優れた充電器を考案し、いきついたのがJEVRA EV PORTABLE QC SERIESというわけだ。個人ユーザーが使うようなものではないが、電気自動車でイベントを開催したい、重厚な据え置き型ではない移動式を試してみたいなど、需要はありそうだ。
いまの電気自動車レースは黎明期ならではの面白さがある
自分も電気自動車レースには何度も参加させてもらっているが、本格普及前夜のEVでレースをやってみると、いろいろと気づきなどもあって興味深い。決勝レースは比較的に長い50kmの距離となっていて、耐久的な要素が盛り込まれている。電欠しないよう、速さと電費のバランスをとりながら賢く走るのが秘訣だ。また、市販のEVはサーキットを走る想定となっておらず、全開走行を続けるとバッテリー等が通常よりも高温になり、それを保護するためのセーフモードに入って遅くなるというのもアルアル。そうならないように上手に加減しながら走る必要があるなど、特有の技も求められるが、黎明期だからこその面白さでもある。
自分が出場したのはBMW i3や日産ノートe-POWERなど。現在はテスラ・モデル3がトップグループで、これに対抗できるのはポルシェ・タイカンぐらいだが、クラス分けがなされているので、そこでの争いも面白い。EVならば市販車やコンバート車(エンジン車をベースにEVに改造した車両)、開発車両などでも参加可能なほか、FCV(水素燃料電池車)やBMW i3 REX(レンジエクステンダーEV)や日産ノートe-POWER(シリーズ・ハイブリッド)などのクラスもある(少しでもエンジン駆動があるとダメなのでホンダe:HEVや三菱のPHEVは不可)。レースとしては敷居が低く、ナンバー付きの普通の市販車で出られるので興味のある人は一度見学してみてはいかがだろうか。