車の最新技術
更新日:2026.05.18 / 掲載日:2026.05.18

ホンダの生き残りをかけた構造改革を解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ホンダ

 ホンダが5月14日に発表したビジネスアップデートは、単なるEV戦略の修正ではなかった。EV一本足ではなく、ハイブリッド、ソフトウェア、そして地域最適化へ向けて、「不確実な時代を生き残るための構造改革」を鮮明に打ち出した。

 2026年3月期の決算では、本業のもうけを示す営業利益がマイナス4143億円の赤字。これは1957年の上場以来、初めてのことである。主な要因は「0(ゼロ)シリーズ」の2車種、「アキュラRSX」、ソニー・ホンダモビリティ「アフィーラ1」など新型BEV(電気自動車)の開発および発売を中止したこと。アフィーラ1はすでに予約を開始しており、2026年半ばからデリバリー開始予定だったからまさに直前での判断になる。ちなみに車両価格は8万9900~10万2900ドル(約1400~1600万円)。ゼロシリーズも2026年発売予定でアフィーラ1よりも高価な設定だったので、BEV(電気自動車)の需要が落ち込んでいる北米で発売に踏み切れば、もっと大きな赤字を被ることになっただろう。今回の決算でBEV関連損失合計1兆5778億円を計上し、いわゆる損切りをしたかっこうだ。

ホンダ 2026 ビジネスアップデート

 北米のBEV需要の落ち込みは第2次トランプ政権によるBEVの税額控除の廃止、排ガス規制の撤廃などが要因だが、政権誕生が決定した2024年時点(発足は2025年1月)で、例えば0シリーズは開発がほぼ終了し、金型製作の時期に入るなど生産投資も開始。そこから起きた環境の大きな変化に対して、柔軟な対応ができなかったというのが大いに反省すべき点だという。大規模投資の慣性が働き、途中で簡単には方向転換できなかったということになる。

 決算の内訳をみると二輪事業はあいかわらず好調で、近年は利益率が低いと言われている四輪事業もハイブリッドカーとエンジン車では収益をあげられている。今回の2026年3月期で損切りを終え、2027年3月期は営業利益5000億円を見通し、2029年3月期には過去最高の1兆4000億円以上を目指すという。

ホンダ ハイブリッド・セダン・プロトタイプ

 次世代のハイブリッド・システムとプラットフォームを採用した新型車を2029年までにグローバルで15車種投入する予定。今回展示された「ハイブリッド・セダン・プロトタイプ」と「アキュラ・ハイブリッドSUVプロトタイプ」、2028年登場予定の次期「ヴェゼル(次世代ADAS搭載)」や「N-BOX BEV」など、当初の予定よりも開発速度をあげてスピーディに投入していくという。BEVをあきらめたわけではなく、後倒しにしつつ市場環境をみながら適切に投入していくとともに、主力のハイブリッドカーにはこれまで以上に力を入れ、車両ソフトウェアを統合制御するE/Eアーキテクチャーや「ASIMO OS」といったデジタル領域を強化。クルマを走るコンピューターあるいはスマートフォンとして進化させる取り組みは継続する。

アキュラ・ハイブリッドSUVプロトタイプ

 さらに、中国やインド、新興市場では発想を変えていく必要もあるとしている。ホンダ独自の基準を見直し、現地の標準化部品の活用、現地最適の要件を再定義。ホンダは自前主義が強く、過剰品質にもなりがちだったが、柔軟な考え方で競争力を高めようということだ。ただし、コアな技術は自前で磨くという。つまり外部リソースの活用と自前化のバランスが重要な鍵となる。コアとは、プレリュードで採用したS+シフトなど、燃費と走る歓びを高い次元で両立する技術や、しなやかなサスペンションによる爽快な走りなどを実現するためのもの。単なるコストダウンではなく、ホンダらしさの生き残りをかけた戦略と言える。

 開発効率化にも徹底的に取り組む。デジタル環境やAIの活用によって「開発費」、「開発期間」、「開発工数」の3つを2025年比で半減する「トリプルハーフ」を実現。まずはマイナーチェンジから開発スピード向上に着手し、フルモデルチェンジに関しては2028年開始の開発から取り組む。また、生産効率は今後5年間で約2割の向上を目指すとしている。

 BEVに軸足を置いた戦略を見直してハイブリッドカーやソフトウエアにリソースを再配分するだけではなく、ものづくりの体質を徹底的に強化するという宣言に聞こえた今回のビジネスアップデート。今後3年間の計画がどれだけ実現できるかで、真価が問われることになりそうだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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