車の最新技術
更新日:2025.04.22 / 掲載日:2025.04.22
新型フォレスターが採用する世界初のエアバッグ【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●スバル、ユニット・コンパス
4月17日に発表されたスバルの新型フォレスター。オンロードもオフロードも得意とする本格派SUVで、スバルのメインマーケットであるアメリカではベストセラーであり日本でも人気が高いだけに気合いの入った開発がなされている。
ボディサイズは従来モデルとほぼ同等でSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を引き続き採用。パワートレーンは1.8Lターボ+CVTにくわえ、クロストレックで初採用された2.5Lエンジンのストロングハイブリッド、S:HEVが用意される。車両価格は404万8000~459万8000円で、従来に比べると1.8LターボのSPORTが約55万円、MHEVからS:HEVになったe-BOXERが約88万円の値上げとなっている。
人気が高いうえにSUV市場はここ10年で約2倍に伸びているから安泰かといえばそうとも言い切れない。市場拡大ゆえに競合がひしめいているからだ。そこで新型フォレスターは存在感の高いデザインを目指したというが、興味深いのはデザインの優先度が高い開発プロセスとなったこと。

以前からスバルは、車両開発エンジニアとデザイナーの力関係では前者が圧倒的に強いと言われてきた。室内空間や走りの要件、それにスバルがこだわる視界の良さなどで寸法やパッケージを決め、それからデザインされていくというイメージだ。とくに視界要件はデザインに影響を与え、例えばAピラーの角度などは立ち気味。流行のクーペ風などは成立しづらく、ボクシーでやや武骨なのがスバル車の常だった。
デザインコンシャスになりすぎず、機能がカタチに表れていることで好感が持たれてもいたが、それでも新型フォレスターはまずデザイナーに自由度を与え、そこからエンジニアとともに造り上げていったという。特徴的なのはボンネットフードを高くしてフロントフェイスの厚みを増したこと。存在感を高めるためだが、視界要件との両立は苦労した点だという。確かに、従来のスバルのいいイメージはまったく崩さないまま、威厳のあるエクステリアデザインに仕上がっている。
技術的なトピックスはS:HEVや新世代アイサイトの採用など多くあるが、なかでも注目なのが、世界初採用となるサイクリスト対応歩行者保護エアバッグだ。

そもそも日本は交通死亡事故の件数は昭和40年代の1万6000人強をピークに、現在では2000人台へと減少しているが、欧米など他の先進国に比べると交差点付近で歩行者やサイクリストが巻き込まれる割合は突出して多い。2021年は歩行者35.4%、サイクリスト16.4%で欧米の2倍以上。スバルの調べではスバル車がかかわる直近5年の交通死亡事故で歩行者55%、サイクリスト14%となっている。歩道や自転車専用道の整備があまり行き届いていない、欧米型のラナバウトに比べて日本の交差点は例えば自動車が左折する時に歩行者やサイクリストを巻き込みやすい、出会い頭事故が起きやすいなどの理由が考えられる。

そこでスバルは2016年に発売したインプレッサから歩行者保護エアバッグを採用し、レヴォーグ、レヴォーグレイバック、クロストレック、インプレッサ、WRX、レガシィアウトバックなどに標準装備している。近年ではとくに都市部での自転車利用のニーズが高まっているため事故が増える可能性もあり、2030年までにスバル車がかかわる交通死亡事故ゼロを目指しているからにはサイクリスト対応は急務でもある。
サイクリスト対応歩行者保護エアバッグは、従来の歩行者保護エアバッグを大きくしたような見た目となっていて、実際にAピラーの上部まで届くよう400mmほど伸ばされている。歩行者は事故のときにボンネットフードに倒れ込むが、サイクリストは衝突側の足があがっていると腰の下にボンネットフードが滑り込み、頭部がより高い位置、より車両後方の位置に衝突しやすい。それで大型化が必要となったのだ。大きくすると展開時のバタつきが問題となるが、エアバッグ自体の内部構造を工夫してガスの流れを調整したり、周辺部品のレイアウトや剛性・強度の確保などで対応し、狭い隙間から上手に展開できるようになったという。また、誤作動を防ぐため確実なセンシングにも力を入れたとのことだ。
歩行者でもサイクリストでも、頭部がAピラーに衝突するのが大きな問題となるため、Euro NCAP(欧州の自動車アセスメント)では、Aピラー周辺の保護が評価対象になる見込みでもあり、世界的にも歩行者保護エアバッグおよびサイクリスト対応歩行者保護エアバッグの需要は高まる傾向にある。スバルはそこへいち早く手を打ってきたのだ。