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更新日:2024.08.09 / 掲載日:2024.08.09

カーボンニュートラル燃料深掘り バイオディーゼル編【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ユニット・コンパス、池田直渡、マツダ

 7月19日掲載の水素編で、冒頭にCNFへの期待の高まりについて以下の様に書いた。「どうやら世界的にカーボンニュートラル燃料(CNF)に期待が集まり始めている。もちろんBEVも重要な選択肢であるが、世界の人々を誰一人取り残す事なく、これまで通りの「移動の自由」を提供していくためには、BEVだけでは需要を満たす台数が作れない」。

 ということで我々はBEV以外にどうしても選択肢が必要でありそれはおそらくCNFになっていくのだが、CNFと一口で言っても種類が多い。今回はその中でバイオディーゼルについて話をして行きたい。

 このあたり、話が大変ややこしい。似た様な名前で異なる燃料がある。バイオディーゼルはバイオ燃料の部分集合に当たる。極めてざっくりした言い方だが、バイオ燃料はバイオエタノール(アルコール系)とバイオディーゼル(油脂系)の2つに分かれる。

バイオ燃料のうち、油脂系のものはディーゼル燃料の代替に、アルコール系のものはガソリンの代替として使われる。実用化にむけて研究や実証実験が行われている

 バイオ燃料の定義は「バイオマス(生物資源)を原料とする燃料全般を指す。最も普及しているのはバイオエタノールで、これは要するに生物由来のアルコール。最も身近なものは酒である。代表的には様々な穀物を発酵させて作る。米なら日本酒、麦ならビールやモルトウイスキー、とうもろこしならバーボンウイスキー、穀類やじゃがいもならウオッカ、サトウキビならラム。

バイオマスの分類。バイオマスは動植物などから生まれた生物資源の総称。再生可能エネルギーのひとつとして、発電用の資源としても活用されている(資源エネルギー庁のHPより引用)

 つまり、植物が光合成で作り出した有機物を発酵させて作るか、その植物を食べて成長した動物も原材料になる。燃料として使うならば酒より広範囲の原材料が使える。発酵するならなんでも良い。例えば大きな可能性があるのは残飯や生ごみ、あるいは下水の汚泥、人や家畜の糞尿も使える。

 全体の流れとしては「人の食糧になるものを燃料に加工するのは、飢えている人がいる世界において非人道的」という指摘から、食糧と競合しない方向へ進んでいる。そのため、残飯や生ごみ、汚泥や糞尿の再利用へと進んでいるわけだ。人の食糧と競合するものを第一世代、競合しないものを第二世代と呼ぶ。

 バイオ燃料でもうひとつ期待されているのは藻類である。これも人の食糧と競合しない選択肢のひとつであり、これこそ第二世代バイオディーゼルの原材料の未来型のひとつである。

マツダは2020年から産官学の連携で進めている自動車次世代バイオディーゼル燃料の普及拡大に向け参画。バイオディーゼル燃料のバリューチェーンを構築し、利用を開始している

 例えばミドリムシ。ミドリムシは酸素がない環境で、光合成によって細胞内に油脂を蓄える。この油脂が燃料になる。現在遺伝子操作によってこの油脂の素性を燃料用に適したものにするなどの技術が確立している。さらに生産性を高めるために同じく遺伝子操作で鞭毛を欠損させて、泳げなくすることで、ミドリムシを沈殿させて培養池から分離収集しやすくするなどの研究が進んでいる。

 課題は量産性にある。光合成を行うという条件から、培養池は太陽光が透過する水深が求められ、薄く広い面が必要になる。つまり立地条件として太陽光パネルに近い条件となる。また他の混雑生物などが入らないこと、収穫のための作業の難易度が低いことなどが求められることから、それなりに立地を選ぶ。現在のところ藻類に関しては将来に期待という範囲であり、現実的な量産の目処は何度も計画は掲げられつつ先延ばしという状況にある。

 しかしながら現実にバイオディーゼルは少量ながら流通している。これの実態は植物油である。もっとも多いのは食用油のリサイクル。例えばポテトチップの工場から出る廃油や、フライドチキンやドーナツなどの飲食店から出る廃油。これらを加工して燃料にしている。廃油なので第二世代だ。

 ただし、廃油ということは供給側の都合で原材料の出荷量が決まる。需要側が量を求めるなら、それに合わせて揚げ物を大量に消費しなければならない。そうも行かないので、今後需要が増えて行けば、廃油ではなく植物性の新油が求められるのは必然である。

 植物性油の原材料は多種多様である。日清オイリオのホームページによれば、大豆、菜種、べに花、胡麻、アマニ、コーン、オリーブ、米、綿実、ヤシ、ひまわり、パーム、グレープシード、荏胡麻、マカダミアナッツなどだ。

 生産量のポテンシャルで言えばパームやしに大きな期待がかかるのだが、一方でパームやしに関しては大規模なプランテーションによって熱帯雨林の破壊につながる危惧も持たれている。そのあたりはWWFジャパンのホームページに詳しい。

 まあ、それはそうなのだけれど、あれもダメ、これもダメだと出口がなくなる。それでなくとも、すでに食糧競合の話はだいぶややこしいことになっている。農水省によれば「牛肉1kgの生産に必要な穀物の量はとうもろこし換算で11kg、同じく豚肉では6kg、鶏肉では4kgとなります。これを面積に置き換えると、現状の畜産物の生産量を維持するためには広大な農地が必要となります」とあり、これでは畜産の否定である。

 敷衍(ふえん)すれば、そもそもその穀物農地にしてから開墾されて自然の森林や草原を破壊していると考えられるが、それでは農業の否定にしかならず、突き詰めると人類が増えすぎというところまで回帰せざるを得なくなる。

 結局エネルギー源として太陽光と風力だけが正しくて、それ以外は一切認めないという話に誘引しようとしているようにも思える。もちろんその太陽光と風力にも問題は少なくないのだがそれは今回の主題ではないので置く。

マツダはここ数年スーパー耐久にてCNFの実証実験を実施している。2024年シーズンは廃食油ベースの「水素化植物油(HVO)」100%のバイオディーゼル燃料を使用する

 ということで、バイオディーゼルは技術としてはすでにある程度目処が立っている。植物油脂を使えば実現可能だが、われわれは地球環境を保護しながら人類の繁栄を維持するという課題に対して、何をどう優先するのかという大きな課題に直面していると言えるのである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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