車の最新技術
更新日:2024.08.02 / 掲載日:2024.08.02

日産・ホンダ・三菱の戦略パートナーシップを発表【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●日産

 8月1日、日産自動車と本田技研工業、三菱自動車工業の3社は、自動車の知能化・電動化に向けた戦略的パートナーシップの協議を進める覚書を交わした。3社とは言え、日産とホンダの協業に、三菱が後から乗った形である。

国内では、トヨタ自動車、マツダ、SUBARU、スズキ、ダイハツ工業による5社アライアンスに次ぐ、第2のアライアンスとなる。

日産自動車株式会社 取締役、代表執行役社長兼最高経営責任者 内田 誠氏(左)と本田技研工業株式会社 取締役代表執行役社長 三部敏宏氏(右)

 冒頭に知能化・電動化と記した通り、基本的には電動領域における協業だ。具体的には5つの要素を挙げている。以下に列記する。

  1. 次世代SDV(Software Defined Vehicle)プラットフォームに関する基礎的要素技術の共同研究契約
  2. バッテリー領域
  3. e-Axle領域
  4. 車両の相互補完
  5. 国内のエネルギーサービス、資源循環領域

 まずは今次世代の競争領域と目されている、SDVプラットフォームでの協業である。SDVについてはかなり過大評価されている部分もあり、ユーザーにとって意味のある付加価値を具体的に提案できていない。完全自動運転の成立とセットでなら成立し得るとしても、完全自動運転への道はかなり遠い状況で、今後これが本当にプライオリティ1位の競争領域になるかはまだ定かではない。

 付加価値面ではともかく、自動車メーカーのコストダウンには大いに貢献する可能性が高い。現在のクルマが部品単位での組み込みソフトウエアの集合体であり、仕向地や仕様によって、カスタマイズが必要なほか、全体での工数も多く、開発費に占める比率が高まっていることから、汎用自動車OSの登場は、コストダウン面から強く望まれていることは間違いない。恐らくは、汎用OSに部分的なアタッチメントソフトを合わせることで、多様性と商品性を確保していく形になるだろう。併せて自動車用ソフトウエア開発ツールとしても機能する。

 さてその次世代SDVプラットフォームは一説によれば開発費が1000億円のオーダーであると言われており、自動車メーカーにとって負担が大きい。また開発後も定期的アップデートの必要があるなど、かなり金食い虫の可能性が高い。

 こういうものは、各社が専用開発するよりも、アライアンスの共通規格で作り、量産効果で原価を落としていかなければ競争にならない。ソフトウエアの場合、コストがかかるのは開発費であって、製造はただソフトをコピーするだけだ。1000台分作ろうが100万台分作ろうがほとんどコストは変わらない。当然アライアンスを結成して分母を増やし、より多くの台数で開発費を割り勘にすることそのものが大きなコストダウンになり、売価での競争力を高めるわけである。

 バッテリーもアライアンス戦略が有効である。現在開発すべきバッテリーの種類は多い。量販廉価BEVに搭載するリン酸鉄リチウムイオンバッテリーもフラッグシップモデルに搭載する全固体電池も共に社会には必要だが、それらに片端から手をつけて例外なく片付けることができる財力があるのはトヨタだけである。

 アライアンス体制であれば、これらのバッテリーを手分けして開発することもできる。当然バッテリーの規格を統一することになるだろう。ただし、バッテリーはソフトウエアの様に生産原価が生産数量に依存しない製品ではなく、従量的なので、ソフトウェアほどのコストダウンは見込めない。

 もちろんメリットはある。バッテリーやその原材料のバイイングパワーを考えれば、結局は数こそ力である。今後リユースやリサイクルが現実化した場合にも規格化されたバッテリーは利用しやすいだろう。それは最終的に中古車の下取り査定に影響を及ぼすはずだ。

 一方で、バッテリーの総需要が原材料供給を上回った場合、その分配には慎重を要するだろう。BEV生産の生命線であるバッテリーは、美しい譲り合いの精神で解決しない恐れがある。また今後BEVの販売数が増えて行くに連れ、バッテリーは地産地消化が進む。バッテリーの輸送は技術的にも価格的にも非合理的であり、消費地で必要なだけ生産することが求められる。だとすれば2社のサプライヤーを合わせればグローバルなカバー範囲が広がるし、上手く調整すれば、生産台数が少ない地域でも2社の台数を合算することで、バッテリー生産を採算に乗せやすくなる。

 e-Axleについては、当然規格化して共用化と言う流れになるものと思われる。織り込むべくは駆動による動的性能の向上や、乗り心地の向上であり、その辺りについては、両社で拡張性の範囲について上手く調整し、織り込んでいくことが求められるだろう。またe-Axleに先駆けて、まずはモーターとインバーター、パワー半導体などの共用から段階を追って手がけていくと言う。

 車両の相互補完については、当然そういう流れになることが予想される。問題は両社の主要クラスの多くが相互にかぶっており、相互補完を早急に進めるとなれば、どちらの車両を残すのかの難しい調整が必要になる。

 例えば日産側のルークスやデイズとホンダのNシリーズは、真っ向からぶつかって相互補完できない。同様にセレナとステップワゴン、ノートとフィットなど、両社ともにラインナップを整理して売れ筋に選択と集中をかけてきた結果、軽自動車、コンパクト、Bセグ・CセグSUVに商品が集中しており、お互いの不足を補完する関係になっていない。

 両社が共に欲しいクラスを共同開発する形くらいしか現実的な落とし所がないが、では今ラインナップから消えているクラスを新たに作ったとして、それがどの程度売れるかはあまり楽観的に言えそうもない。

 またBEVの普及に必要となる急速充電インフラの整備なども協業領域に入る。例えば両社の各営業所に設置する急速充電器の採算性向上にも効いてくるかも知れない。

 正直なところ、まだこの新しいアライアンスは、話し合いが始まったばかり。現時点で先行きを評価するのは不可能だ。そもそも彼ら自身、今急いで、さまざまなリスクのチェックを行っている最中であり、成否について語るのはせめてそれらの細目が決まってからになるだろう。

 現時点ではトヨタアライアンスに次ぐ2つ目のアライアンスができたこと以上の何かを求めても、その答えは彼らの中にさえまだない。期待して見守りたい。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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