車の最新技術
更新日:2023.11.21 / 掲載日:2023.11.20

次世代BEVの技術競争がはじまった【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●レクサス

 すでに多くのメーカーからBEVが発売されているが、まだ本格的な競争というわけではなく、レースに例えると予選・決勝が始まる前の練習走行といった程度に思える。既存のガソリン車をベースに仕立てた、あるいはBEV専用プラットフォームだとしても、まだ従来技術の延長線上にすぎないからだ。

 BEVの技術的な要はバッテリーだと言われ、それはもちろん間違いではないのだが、それ以外の部分でも新しい技術によってまったく違う世界になっていきそう。

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 たとえばトヨタbZ4XやレクサスRZが近い将来にオプションとして用意すると表明し、鋭意開発中のステア・バイ・ワイヤー。機械的な機構を電気信号の仕組みに置き換えるバイ・ワイヤーはスロットルなどではすでにお馴染みだが、ステアリングでは日産が2013年に世界で初めてスカイラインに搭載したが、まだバックアップとしてステアリングシャフトが残されている。トヨタ・レクサスのそれはシャフトなし。その他も、大手サプライヤーが開発しており、今後数年の間に採用する市販車がいくつか出てきそうだ。

 ステア・バイ・ワイヤーはキックバックがない、ステアリングギア比を自由に設定できるというメリットがあるのに加えて、シャフトがなくなることでレイアウトやパッケージング、さらにデザインなどの自由度もあがる。

 それと同様なのが、以前に当コラムで紹介したブレンボ・センシファイなどのブレーキ・バイ・ワイヤー。従来のように油圧を利用するわけではないので、マスターバックや油圧ラインなどがなくなり、ステア・バイ・ワイヤーでシャフトがなくなることと同様にパッケージやデザインなどの革命が起きる要因になりうる。センシファイはブレーキ・バイ・ワイヤーの一歩先をいく付加価値を持っていると謳っているが、これもまた多くのサプライヤーが実用化にこぎつけており、市販車への搭載が近い。

 バイ・ワイヤー技術の進化によって自動車の部品点数が大幅に削減され、車両設計の自由度があがる。エンジン車に対するBEVもまさにそれで、いまのように外見のシルエットではエンジン車と区別がつかないのではなく、まったく違ったデザインになることも可能になるだろう。

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 また、エンジンオイルやステアリング・ブレーキの油圧用フルードなど自動車から液体がなくなっていく。ショックアブソーバーのオイルはまだ残りそうだが、これもオイルからモーターに換装し、振動を利用して発電まで行おうという試みもなされている。ウインドーウォッシャーの洗浄液は代替が難しいのだろうか。

 部品でも自動車が大きくかわっていくのが目に見えてきているが、車体そのものも大改革が起きている。トヨタ・レクサスが開発中でジャパンモビリティショーでも出展していたギガキャスト。

レクサスがジャパンモビリティショーで展示したギガキャスト(写真右側)

 ギガキャストは溶融したアルミニウムを用いて一体成形する鋳造技術。既存のアルミダイキャスト技術をメガ級に引き上げるものだ。トヨタ・レクサスの次世代BEVでは車体のフロント、センター、リアに3分割したモジュール構造を採用するとしている。

 公開されている試作品では従来は86の部品を溶接を含め33の工程が必要だったリア周りを、1つの部品になり1工程で済む。劇的に部品点数と生産工程が減るわけでコストも削減、設計や生産が抜本的に見直されることになる。さらに、剛性を飛躍的に高めることが可能でダイナミクス性能向上も期待できる。トルクの大きなBEVにとっては、とくに利点が大きいだろう。

 ギガキャストのパイオニアといえるのはテスラで、モデルYなどに採用しているが、まだ全面採用ではないものの、次世代モデルはかなり進化するとみられている。あと1~2年で稼働予定のメキシコ工場で生産されるのがそれと推測され、いまでも他社に比べると低いと言われる製造コストはさらに半減されるようだ。

 中国メーカーもギガキャストに邁進していて、むしろ従来の大手自動車メーカーのほうが、歩みが遅くも見える。とくに日本の自動車メーカーは、既存の生産技術が究極といえるほど効率的であり、多くの車種を抱えているので、おいそれと転換できないという事情があるが、次世代BEVは一気に新しいことへ挑戦するのではないだろうか。

 2025~2026年あたりにそういったモデルが出始める時期でレースでいえば予選。その後、バッテリー技術も含めて進化・深化していって2035年あたりに本格的な決勝レースとなるように思えているのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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