車の最新技術
更新日:2022.10.11 / 掲載日:2022.09.26

【DST ランクルvsディフェンダー】重量級SUVの緊急回避能力を試す

文●石井昌道 協力●Start Your Engines

 これまで何度か紹介しているが、8年ほど前からDST(ダイナミック・セーフティ・テスト)のコ・テスターを務めている。DSTとは、モータージャーナリストの大先輩である清水和夫さんが20年以上にもわたって続けている緊急回避テストで、限界域での安全性を見極めるもの。コ・テスターの役割は助手席に乗ってGPSで測っている正確な速度をドライバーに伝えたり(車載メーターとは数パーセントの誤差があるのが一般的)、テスト車のタイヤの銘柄、コンディション、スペックなどをアナウンスする簡単なものだが、やってみなければ本当のところがわからない性能を助手席とはいえ直に体験できるのが貴重なので、自分から志願した。また、運転していないからこそ、冷静にインプレッションができるというのも、やってみてわかった意外な事実で、ドライバーのステアリング操作とクルマの動きが綺麗に一致しているか、それとも乗りづらそうにしているかなどで善し悪しがわかるのも面白いところだ。
 今回はトヨタ・ランドクルーザーZXとランドローバー・ディフェンダー110X D300の2台のテストの模様をお伝えする。数あるSUVのなかでもオフロード重視であり、大きく重たく背高なモデルが緊急回避時にどんな動きをするのか興味はつきない。
 DSTでは0−100km/hの加速、100−0km/hの減速、ダブルレーンチェンジ、ウエット旋回ブレーキがおもなテスト項目となっている。

 0-100km/h加速はランドクルーザーが8.02秒、ディフェンダーが7.95秒とほぼ互角。
 ランドクルーザーは車両重量2550kg、新開発の3.3L V型6気筒ディーゼルは最高出力309PS、最大トルク700Nm。
 ディフェンダーは車両重量2420kg、3.0L直列6気筒ディーゼルは最高出力300PS、最大トルク650Nm。
 0-100 km/h加速は一般的に10秒を切っていれば日常使いでストレスがないと言われていて、こういった重量級ならば十分な速さと言える。ランドクルーザーは10ATのため、全開加速ではややせわしなかったが、この時代にわざわざ新開発されたエンジンはトルク、パワー、音・振動の低さなど申し分ない。ディフェンダーはさすがは直6だけあって伸びやかでサウンドもいい。性能だけではなく、官能性もあるのだ。

ランドローバー ディフェンダー

 100-0km/h減速はランドクルーザーが1回目39.27m、2回目が41.14m、ディフェンダーが1回目39.82m、45.97mだった。どちらも2.5t級の車両重量を考慮すれば十分なストッピングパワーを備えている。とくにランドクルーザーはペダルフィーリングが良く、2回目でもしっかり止まった。ディフェンダーはオフロード性能が高い深溝のタイヤを履いていたため心配していたが、1回目はしっかり止まった。2回目は少しフェード気味(ブレーキ温度が高くなりすぎ)で、やや減速区間が伸びてしまった。これは助手席でも感じられたもので、ブレーキ初期の食いつきが少し甘くなっていた。
 緊急時の急ブレーキでは十分な性能を発揮してくれるはずだが、長い下りのワインディングロードなどでは、スピードを出しすぎずエンジンブレーキを併用するなど気を使うことがやはり重量級モデルでは重要だろう。

 ダブルレーンチェンジ・テストは、高速道路を走行中に目の前に障害物が現れ、これをステアリング操作で避けることを想定。いったん、左のレーンにチェンジして障害物を避け、すぐにまた元のレーンに戻るのだが、そのときに振り返しでアクションが大きくなる。ESC等(横滑り防止装置)はオンのままで、シャシー性能と電子制御技術の両方で、どんな動きをするのかをみている。

 ランドクルーザーはGR SPORTというグレードならば可変スタビライザーが装着されていてロール剛性を大きく高めることが出来るのだが、スタンダードなZXには無し。だが、可変ダンパーは装備されているので、コンフォートモードとスポーツ+モードの両方を試す。1回目のコンフォートモードではピッチもロールも大きいものの、助手席に乗っていても思っていたほど不安感はなかった。ドライバーの操作に対して挙動が遅れてやってくる感覚はラダーフレーム構造のオフローダーとしては致し方ないところだが、フルモデルチェンジで進化して、だいぶオンロード性能が上がっているようだ。2回目のスポーツ+モードではステアリング操作に対する反応が少し上がってドライバビリティが高まった。結果として1回目は通過平均速度64.76km/h、通過タイム3.92秒だったのに対して2回目は70.37km/h、3.62秒へと良くなっている。
 ディフェンダーはオフロード重視のモデルではあるが、いまはモノコック構造。ステアリング操作に対しての動きは格段にいいものの、切り返しでは深溝タイヤの物理的なグリップ限界に達してしまう。おそらく溝の深さでブロックが倒れ込んでしまうのだろう。それが戻ってくるまでは無反応になる。結果は1回目は通過平均速度66.07km/h、通過タイム3.82秒、2回目は51.98km/h、5.15秒だった。1回目は、タイヤの限界スレスレでクリアしており、ランドクルーザーの1回目よりも良かったぐらい。そのフィーリングが良かったため2回目はもう少しいけると思って速度がやや高かったところ、タイヤの限界を超えてしまい、しばらく時間がかかるということになった。

 ウエット旋回ブレーキは、濡れた路面を100km/hで走行中に障害物を避ける等で急ブレーキをかけつつステアリングを切ってコーナリングし、どれぐらいの距離で止まれるか、パイロンで造った40Rのコーナーに対してどれだけ綺麗に沿っていけるか、ライントレース性をみている。タイヤとシャシー性能にくわえてABSの制御が重要。1回目はステアリング操作とブレーキ操作を同時に行うが、2回目はステアリング操作をやや先行させてからブレーキ操作に入る。2回目のほうがABS制御には厳しく、クルマによってはABSが実際よりも路面ミューが低いと判断して減速距離が大きく伸びたり、ライントレース性が悪くなったりする。

トヨタ ランドクルーザー


 ランドクルーザーはモードによってけっこうな違いがあるため、今回は3回テスト。1回目はコンフォートモード、2回目はスポーツ+モードでそれぞれステアリングとブレーキの操作が同時、3回目はスポーツ+モードでステアリング操作先行とした。
 結果は1回目が減速距離68m、パイロンから離れている距離が前タイヤ10.9m、後タイヤ11.4m、2回目が減速距離64m、前タイヤ6m、後タイヤ4.2m、3回目が減速距離67m、前タイヤ6.8m、後タイヤ7.5mだった。
 やはりピッチやロールが大きいのだが、ステアリング操作に対する反応は不安を感じないぎりぎりといったところ。これ以上ステアリングの効きが良くてグイッと曲がっていくとひっくり返りそうな(実際には、よほどの悪条件がなければそんなことにはならないだろうが)感覚になりそうだ。スポーツ+モードにするとピッチとロールの進行がだいぶ抑えられるので、その分ステアリングの効きが良くても不安感がない。減速距離が縮まった以上に、ライントレース性が高くなっていることが、助手席に乗っていても安心感に繋がった。3回目はやはりABSがブレーキを減圧してしまって、少し成績が悪くなる。

 ディフェンダーは1回目が減速距離53m、パイロンから離れている距離が前タイヤ1.6m、後タイヤ2.0m、2回目が減速距離67m、前タイヤ0.8m、後タイヤ1.7mとかなり優秀。さすがはモノコック構造だけあって運動性能が高いのだ。とくにライントレース性は見事。ステアリング操作に対して忠実にノーズがインを向いていくのは、欧州車に多い傾向だ。そのなかでもドイツ車は直線番長なので、ステアリングの効きよりもスタビリティ重視の傾向があるが、イギリス車、イタリア車、フランス車などはアンダーステアをなるべく出さないという意思が強いように思える。2回目はステアリング操作先行で、やはり減速距離は伸びてしまったが、ライントレース性はあいかわらず優秀だった。

 両車ともに、この手のモデルとしては優秀な成績であり、さすがは最新世代といったところだ。今回の数字だけでは比較対象がなくていいのかどうか分かりづらいかもしれないが、清水和夫さんが主宰するStart Your EnginesのYouTubeではテストの模様を動画で見ることができる。これまでのテストのアーカイブがあるので、様々な車種と比較するのも興味深い。ランドクルーザーが大きくロールしながらもダブルレーンチェンジをクリアしていくところなどは見物なので、是非ともご視聴いただきたい。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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