車のニュース
更新日:2022.04.22 / 掲載日:2022.04.22
自動車メーカー決算の見所【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ
早いものでもう4月も終盤。ゴールデンウィークが明けると、自動車メーカー各社の決算が続々発表される。
さて、今年の見所はどこか? 実はポイントは割と明確だ。まずは、台数の落ち込みだ。おそらくほとんどのメーカーは台数減少の圧力を受けているだろう。それがどの程度で止められるかがポイントとなる。踏ん張ってプラスに持ち込む会社、昨年並の会社、力及ばず、昨年の落ち込み以上に下げてしまう会社に分かれるだろう。
何故引き下げ圧力がかかるかと言えば、基本的には新型コロナの影響である。現在の自動車作りは、地域経済共同体をパズルの様に組み合わせて出来ている。例えばASEANだ。ASEANでは地域内での自動車部品の輸出入には関税減免措置が取られるから、国を跨いだ分業が可能になる。では何故そんな分業が必要になるかと言えば、作る部品によって求められる経済発展度が異なるためだ。
例えば精密部品や半導体などの製造には、高度な生産機械を導入する経済力と、それらをマネジメントできる人材が求められる。一方でワイヤーハーネスなどは、労働集約的生産に依存するから、むしろ土地や人件費が安い国が適している。こうした求められる素養が異なる部品をローコストで効率良く生産するためには、ASEANの様な経済発展度の異なる国が隣接しており、域内で関税免除措置が取られている地域が望ましい。
今年前半、このワイヤーハーネスを依存していたインドネシアの工場が新型コロナのロックダウンで、操業できなくなった。これにより、他の国での部品生産が順調であったとしても、ワイヤーハーネスの不足によって、クルマの生産が止まってしまったのである。
もちろん生産地を移すことが絶対にできないわけではないが、土地代も人件費も高い国で生産すれば、原価が変わってしまう。短期的には吸収できるかもしれないし、それでダメなら値上げするしかないが、そうなればクルマが高くなって競争力を失う。
余りに高度に最適化した国際分業はこうしたトラブルに弱い。結果的に自動車メーカー各社は、クルマの生産が止まってしまった。
問題は生産のみに留まらない。物流も深刻な被害を受けている。インドネシアに荷物を積み込みに行った船が荷積みできずに、停泊を余儀なくされる。一定時間が経過すると、部品不足によって、例えば日本の工場での生産が止まる。生産が止まると膨大な部品がストックになっていく。
今度はASEAN内のちゃんと稼働している他国から積み出した荷物を積んだ船が、部品の過剰によって日本で荷揚げできなくなって渋滞する。荷積みも荷下ろしも出来なくなった船は次の輸送に向かえないから、物流がどんどん詰まって行く。コンテナも不足する。
こうした国際分業のシステムリスクの顕在化が引き起こすのは生産台数のダウンだけではない。部品生産や物流コストの高騰によって、日本の自動車メーカーが得意としてきた「原価低減」を直撃する。いわゆる原材料価格の高騰である。

つまり間もなく開示される各社の決算では、台数の落ち込みをいかに防ぎ、同時に原材料価格の高騰を上手く抑え込むかの力量が問われる。おそらく全体的に苦しい状況だと予想しているが、その被害程度はまさに会社の底力を表すものになるだろう。
今後、長期的に見れば、こうしたグローバル化のリスクは無視出来ないリスクとして浮上するだろうから、できるだけ安全な国での部品生産に移り変わる可能性は高い。自動車メーカーにしてみれば、安く作りたいのは山々だが、多少高くなったとしても生産停止より何百倍もマシだ。となれば徐々に国際分業の見直しが始まると見て間違い無いだろう。
さて、これまでの話を読むと、日本経済の危機とも取れるかもしれないが、状況が悪いのは欧州も同じだ。ASEANのインドネシアに当たるワイヤーハーネスの生産国は、欧州ではウクライナであり、ロシアとウクライナからの物流の深刻さは、ASEANの比ではない。しかも欧州メーカーはロシアでの販売比率が高いので、その意味でもかなり苦しいだろう。
そこから見ると、主に米国と中国で利益を挙げている日本のメーカーは、欧州メーカーに比べればおそらく被害が少ないものと思われる。
さて、各社の2022年3月度決算はどうなるだろうか?