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更新日:2022.04.15 / 掲載日:2022.04.15

富士モータースポーツフォレストへの提言【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 4月6日。トヨタ自動車と東和不動産、富士スピードウェイ株式会社は、連名で「富士モータースポーツフォレスト」の計画を発表した。

 静岡県駿東郡小山町の富士スピードウェイを中心に、ホテル、温泉、レストラン、レーシングチームガレージ、博物館などを揃え「未来のモビリティ・モータースポーツの街」を創出すると言う。

 建設中の新東名高速の小山PAに設置されるスマートインターチェンジに隣接し、年間100万人の来場者を狙う計画だ。

 元来、モータースポーツは景気に影響されやすく、好景気なら吹き上がり、景気が悪くなるとこぞって撤退という浮き沈みを繰り返してきた。

 トヨタはそこに一石を投じて「ビジネスとして利益の上がるモータースポーツ」を恐らく日本で初めて打ち立てた。具体的には、トヨタの市販車開発手法を「レースで鍛える」というやり方である。

 開催日が決まっているレースでは、車両の開発や問題点カイゼンは、何が何でも次戦までに終えないと意味がない。レースではそういうアジャイル開発が求められるのだが、従来そこは勘と度胸の世界で「いいからそこは材料径を5ミリ太くしておけ!」という世界だった。

 トヨタはそこに市販車開発と同じルールを持ち込んだ。問題のシミュレーション解析を行い、必要な合理的改善を講じ、実走してテストする。もちろんコストもしっかり管理する。それら全ての手順を市販車開発のルールに則り、全ての段階で書類を残すのだ。

 スタッフも全て労働基準法に準拠した働き方で、残業が必要ならキチンと組合と交渉する。そういうやり方で、レースの鉄火場を、実社会のルールの中に収まる様にカイゼンして、それを全て市販車開発にフィードバックする。それはつまりレースを「開発手法の開発」のために使うということであり、ここで発生したコストは、トヨタの開発費の莫大な低減に直結しているのである。だから不景気であろうとも、トヨタ全体のカイゼンとコストダウンのために、レース活動は止められない。

 こういうビジネスサイドから見た考えを、取り入れて、富士スピードウェイを複合型のレジャー施設に育て上げていくことがこのプロジェクトの目的である。

 さて、ここに筆者はいくつかの提案をしたい。いや実はトヨタが発表していないだけですでに計画されているのかもしれないが、このプロジェクトを聞いて触発されたアイディアがいくつもあるのだ。

 第1に、サーキットイベントは、レース開催日には混雑する割に、アイドルタイムはガラガラになりがちだ。この集客の波を何とかしたい。もちろん平日にレース当日と同じ集客をするのは不可能だろうが、諦めないでできることはあるはずだ。

 今回リリースを見ていると、少し「モータースポーツ色」に拘りすぎている様な気もする。もっと普通のクルマも含めて、クルマの都にはできないだろうか?

 例えば、トヨタのみならず、各社の試乗車を並べて、国内で販売されている様々なクルマが試乗できるだけでも、レースの無い日にちょっと行ってみるかという気になるだろう。

 それから教習所も置くべきではないか? もちろん免許の取得もだが、ペーパードライバー講習なども含めた安全講習の拠点にもなるはずだ。教習車のバリエーションが色々あったらなお楽しいだろう。

 もっと言えばホテルを利用して合宿免許というやり方もあるだろう。カリキュラムの合間に博物館ツアーや、サーキットタクシー(プロドライバーの同乗走行)を組み込むことで、今まさに免許を取得するという「クルマに興味が高まっている」タイミングで、クルマの楽しさを味わってもらうこともできる。

 富士モータースポーツフォレストはいわゆる「リアル」な場だが、ここに是非「バーチャル」を組み合わせて欲しい。富士はリアルにもバーチャルにも身近な場所であることをすり込みたいわけだ。

 例えば、実は平日でも様々なレースカーが練習走行を行っている。筆者が若い頃、ドライブ中にふらりと、当時500円の入場料を払って入ったら、デビュー前のミノルタ・トヨタ(トヨタ88C-V)がシェイクダウンを行っていて驚いたことがある。そういうものが独り占めでみられたのである。当時は何もないのにカメラを持って歩く時代ではなかったが、今ならスマホで撮り放題だ。

 そうしたテストなどのスケジュールをweb版の富士モータースポーツフォレストで開示すれば、平日1000円の入場料だけで気軽に見ることができる。

 あるいはオーナーズクラブなどの走行会であっても、自分が好きなクルマであれば見に行きたい人はいるだろう。こういう、未開示の情報を公表するだけでもある程度集客は増えると思う。

 あるいは富士に専任の動画チームを置いて、そうした練習やイベントを、web版の富士モータースポーツフォレストから、リアルタイム動画で中継しても良いだろう。クオリティに拘るとキリがないが、今の環境ならローコストでの運営は可能なはずだ。

 それともうひとつ、個人でもメディアでも、誰もが気軽にクルマを撮影できるオープンスタジオとクローズスタジオがあっても良いのではないか? オープンスタジオとは背景が抜けた露天のスタジオで、自然光でクルマが撮影できる場所だ。贅沢を言えば富士山を背景にできたら最高だ。クローズはいわゆるスタジオで、こっちは凝り始めればキリが無いが、街の写真館の様に、クルマの置き場所を予め決めて、ライティングを作っておいて、そこに止めれば誰でもキレイな写真が撮れるようにする。利用料次第ではあるが、おそらく自分の愛車をそうして撮影してみたい人は沢山いるだろう。

 もちろんそこから動画配信などもできるように作っておけばなお良い。世の中に沢山いるクルマ系Youtuberが気楽に使える場所だったりすると、そこから新しい情報発信が出来るようになるかもしれない。なにしろ同じ場所で、各社の試乗車の借り出しだってできるのだ。

 クルマを楽しむということは、いまやただ受け身ではない。モータースポーツだって見るだけでなく参加して楽しめるし、情報もまた受けるだけでなく発信できる。情報発信自体が立派な遊びだと思う。

 そういうクルマを巡る遊び場として、是非とも盛り上がって欲しいものである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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