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更新日:2021.12.03 / 掲載日:2021.12.03

販売チャネル1本化で何が起きるか?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 かつて、自動車会社には販売店系列というものが存在した。例えばトヨタで言えば、トヨタ店、トヨペット店、トヨタカローラ店、ネッツ店、レクサス店の5つのチャネルがある、あるいはあった。

 「ある、あるいはあった」というのは、今や系列は大統合時代を迎えており、全メーカーを通して見れば、国内の自動車販売店は徐々に一本化へと進んでいるからだ。

自動車販売店は多チャンネルから統合集約型へと再編される流れにある

 例えば日産の例を引くと、かつて、日産店、日産プリンス店、日産サニー店、日産モーター店、日産チェリー店と5つのチャネルに分かれていた販売店は、レッドステージ店とブルーステージ店の2系列時代を挟んですでに1系列へと統合されている。

 一方で、現在トヨタ販売店は地域により統合の進み具合が異なり、東京の様にすでに統合が済んでいる地域もあれば、まだ5チャネル体制のままの地域もある。さらに言えば、少なくとも今の時点では、販売会社としての資本一本化と店舗の看板が必ずしも一致しない大変複雑な状況にあるのだ。それが変化の過程であることはほぼ間違いないが、さりとて一本調子で、統合へ向かって行くのかどうかはまだわからない。

 トヨタは公式発表では、チャネルの1本化は行わないとしているが、仮に今後トヨタの販売店が1系列に統合されるとすれば、色々な問題が発生する。

地域の販売店を経営するのはほとんどの場合、地元の名士だ。地域との結びつきは極めて強い。例えば市町村との関係は、トヨタ自動車より遙かに濃密だ。今後MaaSなどで地域毎の密着型ビジネスを志向して行くとすれば、地域にマッチしたそこにしかないサービスが求められる。

 例えば、地方のレクサス店がオーナー向けのある種のプレミアムサービスとして、由緒正しい村のお祭りで、レクサスオーナーが御神輿を担げるというプログラムを組もうとすれば、長年お祭りに参加し、寄付を続けてきた地元企業が頼むのと、仮に大企業であってもよそ者のトヨタ自動車が頼むのでは無理の効き方が違って来るわけだ。資本の大きさだけでは交渉のテーブルにさえ着いてもらえない社会が各地域には存在している。地域に根ざしているということはそういう意味がある。

 そのように大事な一面のある販売店系列とそれを支える地域販売会社だが、一方で、経営の合理化も進めなくてはならない。現在トヨタでは大規模な車種の統合が進行中であり、それは恐らく利益率の向上に寄与するだろう。

そもそもなぜ多チャンネル化が必要だったのか

 そもそも何故販売店系列が存在したのかと言えば、それは自社商品の競合を避けつつ、他メーカー販売店との陣取り合戦には勝ちたいという相容れないニーズがあったからで、例えば、サニーとカローラ、つまり日産とトヨタの戦いを有利に進めるためには、店舗の数は多い方が有利なのだが、地域内で密度の高い出店を増やせば自社店舗同士が競合してしまう。

 それを避けるためにカローラの兄弟車であるスプリンターを用意して、それをカローラ店とブランドの異なるトヨタオート店で販売するという戦略を取ったからだ。トヨタオートは現在のネッツ店である。

 そういう陣取り合戦というか、変則ドミナント戦略の時代を経て、クルマが右肩上がりに普及する時代が終わると、無理矢理増やしたラインナップが当然のごとく重荷になってくる。そこには国内のモータリゼーションの成熟によって、単なるバッヂ違いが通用し難くなったことも影響しているだろう。2000年前後から各社は徐々に車種を統合していく。

 販売店の数は諸刃の剣だ。チャネルが多ければコストがかさむ。その一方でより細かい地域に根を張り、かつ限られた専売車種に特化したサービスは、顧客に対してより行き届いたサービスが行えることにも繋がる。それらをどう活かして行くかは自動車販売の大きな課題でもあり、大きなチャンスでもあるのだ。

販売店統合で越えなければならない壁

 1本化を行うとすれば、越えなければならない壁がいくつもある。例えばネッツ店の様な本来若年層向けにスタートしたチャネルが持っていた車種は比較的低価格モデルが多い。我々には想像しにくいが、そこで例えばクラウンを扱う時、扱った事の無い高級車に対する現場の気後れは意外にも大きい。営業担当の資産である既納客の富裕度にも差がある。単純化すればクラウンの客が2台目にパッソやヤリスを買うことはあっても、パッソやヤリスの客が2台目にクラウンやアルファードを買うとは考え難い。

 もうひとつ大きいのは、店と販売担当の能力差が今以上に拡大していくことになる。コレまでのように扱い車種が分かれていれば、系列毎にモデルチェンジの当たり年と外れ年が発生する。どんなに腕効きの営業でも、外れ年にはセールスが落ちる。その分は当年に当たり年を迎えた販売店系列に黙っていても上乗せされるわけだが、何でも売れるとなれば話は違ってくる。

 今年も来年も再来年も何かしらがモデルチェンジして、毎年当たり年。となれば売れる人は毎年売れるし、売れない人は毎年売れない。実力がそのまま結果につながってしまうのだ。

 こういう大変化の中で、利害得失を考えながら販売店網の再設計をしていかなければならない。さらに言えば、地域の販売会社が危機感を募らせて、別チャネルの会社と合併し、自主的に統合化を進めるケースもありうる。答えはまだわからないが、すでに試合は始まっているのだ。

今回のまとめ

  • ・消費者と自動車メーカーを結ぶ自動車販売店に再編の波が押し寄せている
  • ・多チャンネル化は高コストであるがきめ細やかなサービスを提供できる側面があった
  • ・販売店統合の壁は高いが、すでに統合の流れは止まりそうにない
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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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