ドライブ
更新日:2022.08.01 / 掲載日:2022.08.01

耐久レースから学んだ燃費効率【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●B-Sports、Tipo

 マツダはメディア対抗ロードスター4時間耐久レースを、初代ロードスター発売の1989年から開催している。車両はマツダが用意し、メディア関係者のチームがそれをお借りして参戦するスタイルだ。チームは雑誌やWeb、ラジオ、TVといった媒体ごとに組み、そこの編集者やスタッフ、あるいは寄稿・出演しているモータージャーナリストやレーシングドライバーも乗るので、ドライバーのスキルはバラエティに富んだものになる。だが、使用できる燃料に限りがあって燃費をキープしつつ可能な限り速く走ることを工夫したり、助っ人的な強力なドライバーがいるチーム、前年の成績優秀のチームには数分のピットインを義務づけるハンディキャップなどがあるため、ドライバーのスキルだけでは勝敗が決まらないのが面白いところ。だからこそ盛り上がり、30年以上にわたって開催され続けてきているのだ(1991年だけ未開催)。

 自分はまだ学生アルバイトだった1990年に初めてお手伝いで行き、いつかはドライバーとして参加したいと強く思った。そのときはまだサーキット走行もしたことがなかったが、これがきっかけでロードスターを購入し、月に2回以上はサーキット走行会などに参加。1992年に初参戦した。最初は遅かったが、翌1993年には2位表彰台を獲得。じつはサーキットにどっぷりとのめり込んでいき、この年にはもう1台ロードスターを購入してレースカーを仕立て、富士フレッシュマンレースに出始めていたから、セッティングなどもわかっていたのだ。

富士フレッシュマンレースに参加した頃の石井昌道氏/写真提供:Tipo

 メディア対抗ロードスター4時間耐久レースはイベントの延長線上みたいなものだから、当日にサーキット入りして短い練習走行があった後に予選・決勝ぐらいが普通だったが、事前に自分のレースカーを筑波サーキットで走らせて燃費を計測したり、当時はまだサスペンションやタイヤをチューニングすることも許されていたから、ベストなセッティングなども見つけていた。だから、ドライビングスキルとしてはまだまだ未熟だったものの、他のドライバーの助けも得つつ、1994年は3位、1995年は2位、1996年に優勝と、好成績を残せたのだった。

写真提供:Tipo

 このレースで大いに勉強になったのが燃費走行だ。普通に全開で筑波サーキットを走らせると燃費は3km/L台、当初の使用燃料は85L。4時間レースでは380km前後の距離を走ることになり、4.5km/L程度まで燃費をあげなければならない。まず思いつくのが、エンジン回転数を上限まで使わないで早めにシフトアップしていく方法で、燃費は良くなるが正直にラップタイムも落ちていく。そこで積極的に試していたのが、コーナー進入に対して早めにアクセルを戻して転がしていく方法。F1の中継を見ていても時折「リフト&コースト」とチーム側からドライバーに指示が飛ぶことがあるが、あれも燃費を良くするのが主な目的。副次的に、タイヤやブレーキの消耗を抑えられるので耐久レースに向いた運転でもあるのだ。ロードスターを含めた市販車は、アクセルを戻しているときは燃料カットというシステムが働き、燃料消費がゼロになるので効果は少なくない。ニュートラルで転がしたほうが抵抗がなくていいのだが、アイドリング分は燃料を噴射しているし、再びクラッチを繋ぐときにアクセルを煽って回転数を合わせないとシフトロックしてしまうのであまりおいしくはない。アクセルオフの直前にあえて高めのギアにシフトアップし、なるべくスムーズに転がっていくようにしてコースティングさせるなど細かいこともやっていた。

 こうやって減速側で燃料を節約できると、加速側で少し使えるのもいい。エンジン回転制限だけでは5500rpmまでしか回せないところ、6000rpmまで使っても燃費的に大丈夫だったりするので、ラップタイムもまずまずなのだ。

 こうやって燃費運転を駆使することで、以前に編集部員として所属していたTipoチーム時代には6勝。ただし、2011年以降は別のチームから出場するようになって、なかなか勝てなくなっていたのだが、2021年大会(コロナの影響で2022年3月に延期された)で久々に優勝できた。

 コロナの影響もあって最小限のスタッフに絞り、給油も無しという変則ルールになっているのでレースは2時間半に短縮。40Lの燃料で112周(229km)を走行したので、燃費は5.762km/Lだった。以前に比べるとだいぶ燃費をあげているが、NDロードスターのエンジンは高効率だから、数字から想像するよりはずっと速く走れている。NCロードスターまでは純正の燃費計は装着されておらず、大雑把な燃料計の針をみたり、あるいはテクトム燃費マネージャーを繋いで確認したりしていたが(現在は禁止)、NDロードスターは燃費計があるので楽だ。6.0km/Lを下回らないことを目安に走っていけばいい。

 ただし、30年以上も続いているのでどのチームも燃費運転のレベルがとんでもなく上がっているので、リフト&コーストを使うだけでは勝てない。アクセル早戻しも、やり過ぎればラップタイムが落ちるので、加速側も上手に工夫しつつミックスしてベストな走り方を見つける必要がある。以前のように自分でロードスターを持っていないから事前テストをするわけでもなく、当日だけで探っているのでまだまだ改善の余地はありそうだが、今回はラッキーもあって勝てた。

2015年(第26回・写真左)、2016年(第27回・写真右)の開催告知ポスター

 それにしても、30年以上も前に燃費が大きなファクターになるというルールを作った主催者にはあっぱれだ。おかげで、ただ楽しく、速く走るだけではなく、頭を使って効率良く走らせるということを学ぶことができた。これはモータージャーナリスト活動にも確実に役立っていて、エネルギー問題を考えるときに活用している。

 次回(2022年12月3日に開催予定)はおそらく大きなハンディキャップをもらうので、上位進出はなかなか難しいだろうが、またアイデアを試しながら走らせてみたいと思う。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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