中古車購入
更新日:2023.07.21 / 掲載日:2023.07.21
クルマを買うこと売ること【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●メルセデス・ベンツ、トヨタ
徳大寺有恒氏だったと記憶しているが、「クルマは売っても買っても損をする」という言葉がある。特にプロが介在した売買は業者の利幅があるので、当たり前にそうなる。
じゃあ個人間売買はどうかと言えば、今やネットで相場が共有されている時代、親しい知人が善意で譲ってくれるならともかく、見知らぬ素人からクルマを買っても、大して安くはならない。プロなら多分やるであろう基礎的なメインテナンスやチェックは無いと思った方が良いだろうし、ましてや何かあった時の対応も期待できないので、リスクは高い。
プロの業者ならクルマは商品なのである程度客観的に見られるが、個人の怖いところはクルマへの思い入れがあること。調子が悪いとか壊れたとか言うと、「俺のクルマにケチをつけられた」みたいな気持ちになるので、話がややこしくなる。
要するにクルマの売買はそもそもリスクがあるということ。なんて話を中古車売買情報サイトのグーネットに書くのも大概だが、まあ本当のことだ。
そもそも何のためにクルマを買うのかは人によって違うのも話を混乱させる。クルマは道具でもあり、相棒でもあり、場合によってはステータスを示すものでもある。ステータスなんて馬鹿らしいという評価軸もあるだろうが、金を払えば買えるクルマ持つことで自分の人生が幸せになるならば、それはそれでお得な話で、立派な価値観である。
道具としてのクルマは割と簡単だ。安く買えて、簡単に高く売れるものが一番良いに決まっている。典型的なのはハイエースやプロボックス。どちらも仕事の道具、つまり産業機械だからそもそも新車が薄利多売になっている。買う側が求めているのはかなり純粋に機能なので、メーカーは高付加価値化戦略が取れない。内外装を豪華にしたり、質実剛健とは言えない機能を付けたりすると、ストレートに「要らない」と言われてしまう。だから機能の割に値付けが安い。
これが中古マーケットでどうなるかと言えば、「営業車なんだから別に機能すりゃそれで構わない」という客が多く、しかもお金を出す人と、それに日々乗る人は全く別人なので、見た目が多少ボロかろうが、汚れていようが、なんなら修理歴ありだろうが、そんなことは気にしない。ちゃんと走れば安い方が良いというのが金を出す人たちの判断だ。だから中古の需要が高い。

需要が高いので、中古相場は高い。新車価格が割安なのに中古価格が高いから売買での損が少ない。しかも仕事の道具だから維持費も安い。とにかく経済的側面から損を限りなく減らしたいなら、ハイエースやプロボックスを新車で買って、いざとなれば換金するのが最も賢い。裏返せば中古で買うと損をするクルマでもある。
一部のフェラーリに代表される限定車みたいなものには新車より高いプレミアム価格が付くものもあるが、こういうのはマッチングが難しい。そもそも誰にでも売ってくれるわけではない上に、売る側も「もう少し待てばまだ上がるかも」と思うし、そもそもそういう人は金に困って今すぐ売りたいわけではない。買い手側も「猛烈に欲しいけれど手元に金がない」みたいなことが起きて、売買の成立が意外に難しい。実需に支えられた大勢の買い手がいて、簡単に高値で売買できるという意味では商用車の右に出るものはない。
そんなこと言ったってハイエースやプロボックスなんて買う気にならない。と言う人がおそらくは記事を読んでいる人のほとんどで、そういう人はそもそもクルマを道具とは割り切れない人である。本質的には好きなものを買うしかない。だって趣味だから。
こういう人にメーカーブランドの話なんかうっかりすると面倒臭いことになる。黙って自分が好きなブランドの好きなクルマを買ってくれれば良いのだが、それを筆者におすすめされたいというのが本音だから本当に面倒臭い。だったらいっそ「○○社の○○を褒めてください」と言ってもらった方が話は早い。
で、じゃあそういう趣味のクルマの選び方に何か言うことがないのかと言われれば、金があって損をしたくないなら新車を選べというくらいだろうか。新車は価値が保証されている商品である。万一不具合があれば、メーカー保証で修理してもらえる。だから機能に対して割高か割安かには商品ごとに多少の差があるにしても、その価値と価格の関係性は商品ごとに固定されており、個体差がない。

一方で中古はもうピンキリ。1台ずつ価値が違う。しかも原則論で言えば「現状売りのクレームお断り」だ。そりゃそうだ。中古車を全バラして点検してたら新車より高くなる。売っている側がプロだろうが素人だろうが、どこがどうなっているかの全てはわからない。採算の合う範囲で点検なり整備なりを行うが、そこから先は客の財布次第。
例えばお客がリスクをあまり好まない層ならアプルーブドカー(認定中古車)みたいな、点検の際に消耗部品をあらかじめ交換して、リスクを下げるビジネスも成立する。そしてその分価格が上がる。普通の中古車よりリスクは下がる。ただし、だからと言って新車と同じではないことは理解しておくべきだ。
まあ結局のところ、市場経済の世の中で、大数の法則でみればそんなに簡単に損したり得したりはしない。中央値は市場がバランスを取っているものだ。だからそこで大穴を狙う行為は、いや大穴に当たってトラブルに見舞われる場合も含めて、外れ値の引き当てであることを理解しておくべきなのである。以上が基本的なお話である。
さて、ここまでの話をいきなり全部ひっくり返すけれど、趣味としてみれば一番面白いのは実は、保証も付いていないような野良の中古車だったりする。宝くじみたいなものである。当たれば激安だし、ハズレはハズレで面白い。
そもそも自分が欲しいクルマのディテールが細かく決まっていて、○○年式のアレじゃなきゃ嫌だとかなら、大抵の場合、アプルーブドカーなんてそもそも存在しない。別途何百万円かの予算を組んで予めメインテナンスすることも可能だが、初めましてのクルマを買う時、技術レベルの高い店を見分ける分別も、そこへ修理を依頼できるコネクションも持ってはいないだろう。いわゆる名人の店みたいなのものは、一見でおいそれと見てくれるかはわからないし、そもそもその世界では整備をしたからと言って保証が付くわけではない。

だから、結局は、修理代金にヒーヒー言いながら、時に自分でメインテナンスしたり、サードパーティの部品を探したりする。なけなしの金と振り絞った知恵で問題解決をしながらクルマを走らせる。それを面倒臭いと取るか、楽しみととるかはそれぞれだ。そういうことを人生のイベントとして考えると、何もなく平穏無事な自動車生活よりずっと人生が充実する。いや正確にはそう考える人もいるという話である。筆者もかつて、ともに7年落ちの82年式ケーターハム・スーパーセブン1600SSと91年式メルセデス・ベンツ500Eで散々そういう経験をし、それが今役立っている。しかし500Eの金の飲み込み具合は化け物だった。
ということで、誰にでもおすすめできる話かと言えばとてもそうは言えないが、それも自動車趣味の一形態であり、それなりに普遍性のある楽しみ方であるとは言えるのだ。グーネットの検索の先には、そういう泥沼が待っているかもしれないが、わざわざそこへ進むのだとしたらあくまでも自己責任でお願いしたい。