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掲載日:2022.09.16 / 更新日:2022.10.04

新型シエンタ 多様性をもっと活かす売り方【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 8月23日、トヨタから新型シエンタが発売された。実は主要モデルにおいて、最後にTNGA世代へと世代交代されたモデルでもある。

 このコーナーの読者ならご想像の通り、TNGA世代のトヨタはまず間違いがない。GA-Bプラットフォームにはちょっとだけペダルオフセット(アクセル・ブレーキペダルの配置が身体に対しずれている状態)が残っていて、パーフェクトでないところがあるが、ヴィッツの頃に比べれば雲泥の差で、まあ我慢のしようがある。それ以外はもう色々ひっくるめて良い。今回実は筆者が書きたいポイントがインプレではないので、大いに端折る。クルマは良い。以上。

 では、新型車の出来の話を放っぽって息せき切って一体何の話をしようとしているのかといえば、それは福祉車両、「ウェルキャブ」の話だ。何だ福祉車両の話かと思わないでいただきたい。これは介護のみならず、仕事や趣味にも使えるいままでなかった画期的なクルマである。

 話を引っ張ると読者が読むのをやめてしまうかもしれないので、ポイントだけ先に書く、例えば小型のモトクロスバイクとか、台車に乗せた重たい荷物とか、ラジオフライヤーに満載のキャンプ道具とか、このスロープがあれば、そういう「車輪が付いた荷物」をウォークインで簡単に積み下ろしできる可能性がある、多分世界で初めてのパーソナルカーである。

 もちろん開発の主たる目的は介護なのだが、福祉車両は生産台数が少なく、開発費の元が取りにくい。そもそも必要な支援は人それぞれ、そういう多様性が求められる上に、それぞれの台数が大したことがないのだ。

 実は新型シエンタにもいくつかの介護仕様があって、今回筆者が注目しているのは「車いす仕様車“タイプⅢ(ショートスロープ・助手席側セカンドシート付/ショートスロープ・助手席側セカンドシート無)”」というモデル。

 これはわざと従来より短いスロープをつけたモデルである。用途としては介護のプロ用。普通に考えて、スロープの角度はなだらかで長い方が良い。のだけれど実際の介護の現場では色んなことが起きる。例えば、デイサービスの送迎担当者が、ユーザーの家の前でクルマを停めて、呼び鈴を押し、お出かけ準備が整う前に、送迎車の後ろに他のクルマをベタ付けされてしまうことがある。仕方なく、スペースがあれば送迎車を前に出すのだが、それでも長いスロープはどうやってもかけられないケースが出てくる。

 例えば、車いすの介助操作に慣れた人であれば、むしろ短いスロープの方が、厳しい条件でもスロープを展開できて、ありがたいケースがあるのである。仮に多少の段差があっても、前輪を上げて上の段に乗せてから後ろを持ち上げることで何とかしてしまう。言ってみれば技の勝利ではあるが、そういう技のある人にとっては、環境による制限の大きい長いスロープより短いスロープが便利というケースがある。そういう意図で開発されたのがこのタイプⅢである。

 ちなみにテールゲートが開く時に、バンパー部分のロックが解放されて、自重で下に開く。リヤサスペンションはエアサスで、車高が目一杯下がるので、車輪の付いたものをグランドレベルからそのまま転がして運びいれることができる。開発陣の証言によればシエンタの荷室長さは2メートル以上あるというので、結構なものが運べることになる。

 簡単な例でいえば自転車。e-bikeあたりだと平気で20キロくらいあるので、力の無い人だと荷台の高さまで持ち上げるのが結構キツい。スロープがあれば楽勝だ。あるいは150ccクラスのモトクロッサー。数値的には余裕で入る。荷室を斜めに使えば、あるいは助手席を倒せばもしかしたら250ccの競技車も行けるかもしれない。この辺りの趣味は、従来軽トラかハイエースを1台用意するとこまでコミで考えなければならなかったのが、もしシエンタで行けるとなれば、ぐっと身近になる。

 筆者はかつて出版社に勤めていたので、本の搬入搬出を結構やった。本を積んだ台車で3段くらいの階段なら登れるのが自慢だ。で、この本が曲者で、台車で運んで行っても、クルマに積む時は台車からクルマの荷台に人力で荷積み。もちろん下ろすときは逆。台車への積み込みである。もし台車ごとウォークインできるのであれば、荷崩れは、本の周囲をラップで巻けば防げる。台車さえキチンと固定できれば、搬出入の作業は圧倒的に楽になる。こういうビジネス上のニーズにも応えられる。

 あるいはフリマとかキャンプとかで大型のラジオフライヤーを使うケースでもそのまま積み下ろしが可能。少しレアな例で言えば、キッチンカーの類でもテーブル席やカウンターの積み下ろしが楽にできるかもしれない。とにかく脱着式のスロープ無しで、車輪付きの荷物を転がして積み下ろしできるクルマは多分この世にこれまでなかった。そこに明らかに新しい世界がある。

 そうなればこのタイプⅢは、介護専用車ではなくなる。多用途になんでも積み下ろしが簡単なクルマということになる。それが車いすであろうがバイクであろうが何であっても構わない。

 例えば親の介護を考えてシエンタを買おうとした時、「なんだかそんなクルマをわざわざ買ってもらうのは申し訳ない」と親に言われたとして、「いやいや休みの日にはこれでバイク乗りに行くんだよ」という説明もできるではないか。

 消費税非課税とか、補助金とか色んなややこしい問題はあるだろうし、ウェルキャブシリーズをレジャー用にという部分では引っかかる人もいるかもしれないが、本当に目指す世界は、特別な介護を要する人のための特殊なクルマではなくて、みんなが使えるクルマであるべきだ。そのみんなに車いすの人も、モロクロスを楽しむ人もキャンプを楽しむ人も含まれている。それは多分理想的な話だと思う。

 試乗会の時点ではまだトヨタはウェルキャブとして売ること以外は考えていなかったようだ。しかし、ここまで書いた様に、このタイプⅢは、従来なかった種類の商品としての可能性を秘めている。そのポテンシャルを試してみる価値は十分あると思うのだが?

池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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