新車試乗レポート
更新日:2023.12.28 / 掲載日:2023.12.28
やっぱりクラウンはこうじゃないと【トヨタ クラウン(セダン)】

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス
これを待っていた!……という人も多いのではないでしょうか。現行型のクラウンシリーズにセダンが追加されました。これぞ「THEクラウン」と感じたのは、きっと筆者だけではないでしょう。
「クラウン・オブ・クラウン」であるセダンが登場

ここしばらくの世代(2003年発売の12代目から2018年発売の15代目まで)は1タイプのボディだけを販売していたクラウン(過去には2ドアクーペやワゴン、そしてトラックなどを用意した世代もあった)ですが、16代目となる現行世代は“シリーズ”として4つのボディで展開。2022年9月の「クロスオーバー」を皮切りに、2023年11月には今回紹介する「セダン」、それから「スポーツ」も登場し、さらに2024年には「エステート」も控えています。
それにしても、シリーズを構成する4台のうち3台がSUVとは、時代も変わったものですね。逆にいえば乗用車としてSUVがそこまで浸透している(すでに乗用車の販売内訳をジャンル別でみるとミニバンやハッチバックよりもSUVのほうが比率が高くなっている)ということの裏返しなわけですが、もし「クラウンの大半がSUVとして販売される」なんて10年前の人に言っても、きっと信じてはくれないでしょう。それほどまでに世の中が変わりつつあるということです。
そんななか、セダンは言うなれば「クラウンの本流」といっていいでしょう。開発陣は現行クラウンシリーズ開発の当初「次のクラウンはクロスオーバーでいく」と考えたようですが、世の中には「クラウンはやっぱり端正なセダンではないと」というクラウンを乗りついてきたユーザーも多いのは言うまでもなく、そういう人たちからすれば「私たちのクラウンはSUVではない!」となるのも当然。また、クラウンには企業の社用車や公官庁の公用車としてのマーケットもあり、そういった人にとっても「セダンでなければ」となるわけです。
クラウンセダンはそういった人たちのクルマと考えれば、立ち位置がイメージできるのではないでしょうか。
シリーズのなかでセダンだけに与えられたプラットフォーム

そんなクラウンですが、パッと見てあることに気が付くかもしれません。そう、どことなく燃料電池車の「MIRAI(ミライ)」に似ているのです。特に真横から見ると、車体の前後バランスとかルーフからリヤウインドウにかけての伸びやかさが、まるで双子か兄弟のようにそっくりですよね。
何を隠そう、それは偶然ではありません。なぜなら、クラウンセダンはMIRAIの基本設計をベースに作られたからです。
とはいえ、MIRAIから少しだけ変えてクラウンにしたというわけではありません。たとえばデザインは、MIRAIが「斜め」だとすればクラウンセダンは「水平基調」。ヘッドライトも、MIRAIでは後方が上に上がるけれどクラウンセダンは直線を貫くサイドウインドウ下のラインも、リヤコンビネーションランプのデザインもクラウンセダンは徹底的に水平基調としていることがわかるでしょう。そんなデザインは“威厳”とか“風格”を重視していることが伝わってきませんか? よりフォーマルなセダンとなっていますね。

そして実は、MIRAIとクラウンではホイールベースが違います。クラウンのほうが80mm長いのですが、この延長分はすべて後席足元スペースの拡大にあてられていて、後席が広くなっているというわけ。MIRAIのボディに対して、いわゆる「ロングホイールベース仕様」となっているのです。
コスト面だけでいえば、ホイールベースは共通としたほうが安く作れるのは言うまでもありません。設計の変更範囲が少なく済み、開発の手間がかからず、部品の共用範囲も広がりますから。しかし安易にその道を選ばずホイールベースの変更をおこなったことに、クラウン開発者の意気込みがひしひしと感じられるのです。



ちなみに車体構造では、MIRAIでは“高剛性接着剤”で車体剛性を高めるのに活用している構造用接着剤を、クラウンでは一部を“高減衰接着剤”に変更。目的は細かい振動を吸収して乗り心地をよくするためです。また後席にはMIRAIに設定のない後席の電動リクライニングや本格的なマッサージ機能を搭載し、電子制御サスペンションの味付けを後席の乗り心地重視とする「リヤコンフォートモード」を用意するのも、後席重視とする思想の表れと言っていいでしょう。乗り心地も、後席を中心に作り上げたそうです。それが「THEクラウン」というわけです。
クラウンセダンが搭載するパワートレイン

そしてもうひとつ、MIRAIとは異なる大きなポイントがクラウンセダンにはあります。それはパワートレイン。燃料電池だけのMIRAIに対して、クラウンセダンはハイブリッドも用意。燃料電池とハイブリッドが選べるのです。
燃料電池システムは基本的にMIRAIと同じもの。
しかしハイブリッドは、これまでレクサスに搭載されていたものの、トヨタには初採用となるマルチステージ式が組み込まれました。とはいえレクサスのLSやLCとまったく同じではなく、エンジンは排気量3.5LのV6から2.5Lの4気筒へダウンサイズ。より燃費を重視したユニットとなっているのです。
なぜ、トヨタ車で一般的なシリーズパラレル式(いわゆる「THS」)としなかったかといえば、クラウンセダンは車体が重いので、シリーズパラレル式よりもマルチステージ式のほうが相性がいいとのことです。
走りの実力は? ハイブリッドと水素どちらがいい?

走りはどうでしょう?
後席の快適性を重視したクルマだから運転がつまらないのかといえば、全くそうではありませんでした。
走行時の安定感が抜群に高い上に、ハンドルを切ると反応の遅れなくスムーズに向きを変えるので運転する気持ちよさもしっかりあります。そのうえで、後席が快適なのはさすがクラウンセダンだと実感しました。
パワートレインは、まずハイブリッドはマルチステージ式を採用したことで加速のダイレクト感やキレの良さもあってなかなかシャープです。いっぽうで滑らかさでは100%モーター駆動となる燃料電池車のほうが上。ハイブリッドと燃料電池を乗り比べると、運転する楽しさはハイブリッドだけど、快適性やピュアな加速感は燃料電池に軍配です。これは好みに応じて選べばいいでしょう。
ちなみに価格は、ハイブリッドが730万円で燃料電池が830万円。燃料電池のほうが100万円高いですが、現時点(2023年度)では購入時に国からの補助金として136万3000円を得られるので、それを加味すると燃料電池のほうが安く買えます。筆者なら、水素ステーションが家の近所にあれば迷わず燃料電池を選ぶでしょう。
まとめ
新型クラウンセダンは価格が高いだけでなく、全長5030mm×全幅1890mmと車体サイズが大きいので、その時点で買う人を選ぶクルマといえるかもしれません。しかし、そこは気にせずフォーマルな大型セダンが欲しいという人にとってはかなり魅力的な選択肢と言ってよさそうです。
そしてこのクラウンセダンの登場に「やっぱりクラウンはこうじゃないと」と安どしている人も多いのではないでしょうか。