新車試乗レポート
更新日:2022.07.08 / 掲載日:2022.07.08
【日産 サクラ】話題の「軽の電気自動車」を試す【九島辰也】

文●九島辰也 写真●日産
TVコマーシャルでご覧になった方も多いでしょうが、日産が軽自動車のEVを発売しました。軽自動車はそもそも効率よくできているので、EVにする必要はないという話を耳にしてきましたが、日産がついにその殻を破りました。
背景にはやはりリーフの存在があります。2010年からEVを市販化してきた会社ですから、この分野においてパイオニアでありたいという気持ちが強いのだと思います。これでリーフ、アリア、サクラのEVラインナップが揃いましたし、デイズ、ルークスという軽自動車の中でのフラッグシップとして位置づけられます。EVはパワーがありますからね。それに値段も他の軽自動車より少々高めです。

ちなみに、この“サクラ”は社内公募で決まったそうです。1500の公募の中から最終的にコレになったとか。それにしてもよくこんな身近な名前が登録商標されていなかったですよね。ある意味灯台下暗し。となると、“ヒマワリ”、“キク”、“スイセン”あたりも使えそうですよね。“マリーゴールド”なんてカッコ良さそう。
ではその中身ですが、デイズをベースにリーフのノウハウでつくられました。バッテリーを床下に敷き、バーで補強し堅牢なフロアを形成します。バッテリーセルの形を設置場所によって工夫するなど、細かな配慮も行いました。リアサスペンションはトーションビームだとバッテリーの搭載場所に関与してしまうので、3リンクを採用。これはデイズのヨンクと同じ形式です。
バッテリーの出力は、軽自動車の規定に沿うように最高で47kWに抑えられますが、最大トルクは195Nmになります。これはデイズターボの100Nmに対し約2倍の数値です。言ってしまえば、2リッターガソリンエンジン並み。EVのメリットはやはりここで、軽自動車ユーザー不服の上位にある「出だしに力強さがない」を払拭します。信号が青になった時もそうですし、高速道路の合流でも臆することはありません。

それじゃ実際に走った印象ですが、確かにEVならではの力強さを感じました。アクセルの踏み始めから発生する太いトルクは頼もしく、クルマをぐいぐい前へ押し出します。しばらく走っていると軽自動車規格であるのを忘れてしまうくらい。
さらに言えば、ドライブモードを「スポーツ」にするとより機敏になります。街中では「スタンダード」で十分ですが、高速道路の合流あたりでこの辺をうまく使いこなせたらスマートでしょう。もちろん、「エコ」モードもあるので、大半をこちらで走らせるのもアリ。電費も気になりますからね。ただこの切り替えスイッチが不便な場所にあるのは残念。ダッシュボード右端の下部なので、目線を落とさなければなりません。この手のスイッチはシフトレバーの横に設置してほしいです。
そのシフトレバー横にはワンペダル(eペダルステップ)のスイッチがありました。回生を強くしてエンジンブレーキのように車速を落とす役割をします。充電にも役立ちますし、効率よく使えばいいことがありそうです。ただ、慣れないとワンペダルでは回生が強すぎて運転がギクシャクしてしまいます。なので、やはりスタンダードモードでフツーに走るのが快適かと。クルマをつくる側からすれば、市場導入後の意見を先取りして色々用意するのはわかりますが、軽自動車ですからそれほど気にしなくてもいいと思います。それより価格設定を低く抑え、そこに補助金が付いてお得な商品のイメージを植え付ける方が先ではないでしょうか。「EVは高い!」というイメージはもう広がりましたからね。そこ重要です。
コーナーでの走りもスムーズでした。コーナリングスピードが上がってくると、タイヤが負けてしまい音が出ますが、重心が低いせいもあり安心感はあります。また、乗り心地も悪くありません。リアが少し跳ねる場面もありましたが、思いのほかしなやかさも感じました。そこはきっとボディ剛性が高く仕上げられたメリットでしょう。
ということで軽自動車初のEVサクラを楽しみました。総体的に走りにネガティブさはなく、リーフで培ってきた技術がうまい具合に取り入れられている気がします。それにデザインもフロントがアリア風でこれまでの軽自動車よりも高級感を出しています。あとは金額ですね。市区町村によって補助金は異なりますが、それ以前にもう少し低く設定できればより魅力的かと。最近全般的に新車の価格が上がっていますから、そこが少々気になります。