新車試乗レポート
更新日:2021.03.29 / 掲載日:2021.03.28

MAZDA MX-30 EVモデル 試乗レポート

マツダのスペシャルモデルを意味するMXを冠したMX-30。
先立って2Lガソリンエンジン+マイルドハイブリッドモデルがデビューしたが、より本格的な電動化を見据えて開発が行われただけにEVが本命なのは間違いない。
マツダ量産初EVモデルの試乗レポートをお届けしよう!

MX-30 EV Highest Set(FWD) ●車両本体価格:495万円 ●ボディカラー:ソウルレッドクリスタルメタリック<3トーン>(有料色:11万円高)

■主要諸元 MX-30 EV Highest Set・FWD
全長×全幅×全高(mm):4395×1795×1565 ホイールベース(mm):2655 最低地上高(mm):130 車両重量(kg):1650 最小回転半径(m):5.3 パワーユニット:交流同期モーター(107kW<145PS>/270N・m<27.5kg・m>) トランスミッション:一段固定式 駆動用バッテリー:リチウムイオン電池(総電圧418V、総出力量35.5kWh、容量100Ah WLTCモード交流電力量消費率:145Wh/km WLTCモード一充電走行距離:256km タイヤ:215/55R18

電気になってもマツダらしい爽快な走りは健在!

新しいマツダが始まる! 上質な電動制御が好印象

 MX-30に初めて乗った時、新しいマツダの始まりを感じてしまった。と言っても変革というほど大袈裟なものではない。軸脚あるいは重心の変化という類。その背景には環境意識に基づく永続性があるのだろうが、これまでのマツダ車では前面に打ち出していたクルマ趣味をあまり感じさせないのも新鮮だ。そんなMX-30の新しさをより明確にしたのがこのEVモデル。

 外観はガソリン(マイルドハイブリッド)車とほとんど変わらない。充電リッドは車体右側面に設置されているが、あとはe-スカイアクティブのバッヂくらいの違いだ。EVであることのこれ見よがしの主張はない。先進性をことさらにアピールする気はないようだ。

 EV性能で気になるのは満充電した時の航続距離だ。WLTC総合モードで256km。各モードの電力消費率から計算すると、市街地モードで約307km、郊外モードで約288km、高速モードで約244kmとなる。平均車速が高くなるほど効率が低下するのは現在のEVでは一般的な傾向である。

 なお、試乗時に残蓄電量の変化と走行距離から計算した推定航続距離は約220kmであり、総合モード相当で速度変化も激しい流れに乗せていたことを差し引いても安心して乗っていられる距離は200km。長距離ではルート上の急速充電ポイントを押さえてまめな充電が必須になるだろう。

 タウンユースを中心とした短中距離用途はEVに最も適した用途。そこに焦点を絞った設計とも言えるのだが、長距離用途適性については2022年に追加がアナウンスされているロータリーエンジンを発電機としたレンジエクステンダーとの棲み分けが前提と考えてもいい。

 走りの第一印象は「EVになってもマツダ」である。全開にすれば一気呵成の加速だし、EVにもかかわらず疑似エンジン音で加速感を演出してファントゥドライブへのこだわりもある。ちなみにこの疑音のカット機能はない。というとスポーティに振ったように思われそうだが、基本センはマイルドハイブリッドのMX-30で感じた「新マツダ」なのだ。

 ドライブフィールの要点は滑らかさ。アクセル/ブレーキともにペダルコントロールへの追従感がいい。ガソリン(マイルドハイブリッド)車も踏み増し時の加速応答に優れているが、EVはそれ以上だ。だからといって瞬発力を誇張しているわけではない。ペダル踏み込み速度や量に応じて加速度の立ち上がり特性が変わる。緩やかに操作すれば穏やかに、素早くなら切れ味よく、荒っぽければ適度に鈍す、と言った具合に操作意図を汲み取りつつ綺麗に反応する。

 量的にも時間的にも細密な制御が可能な電動駆動ならではの利点だが、興味深いのは同様の制御がブレーキでも感じられたことだ。

 ブレーキシステムは回生油圧協調型を採用。一般走行レベルでは大半を回生制動で賄い、油圧ブレーキはごく低速域に限定。また、パドルスイッチによりエネルギー回生の強さを空走/弱エンブレからガソリン車の2段シフトダウンくらいまで上下各2段階で選択が可能だ。

 素早い踏み込みでは素早く制動を立ち上げる。アクセル同様にペダル操作への追従感がいい。とくにペダル戻し側のコントロール性に優れる。エンブレの掛かりもアクセルの緩め方に応じた利きで、減速全般の調和が取れている。

 前述したようにこういった加減速のコントロールのしやすさはマツダ車全般に感じられることだが、刺激的な初期加速を作りやすい電動駆動で、そこを抑えて操り心地のよさに注力したところに好感。

 今回の取材では脚の不自由な方むけの自操式車両も試してみたが、ドライバーに優しいクルマがMX-30EVの狙いなんだな、と妙に納得してしまった。

 航続距離の問題からSUVとしては実用性能不足だが、これからマツダが目指す走りを実感させてくれるこのモデル。エコ性能以上に電動の特徴を最大限に活かした運転の質の向上が印象的だった。

EVモデルの走りはマイルドハイブリッドが目指した完成形!

 パワーフィールは変速がないから加速の段ツキがない。極低速から安定したコントロール性などの機構的な差もあるが、勘所はEVもマイルドハイブリッドも同じ。MX-30のEVはMX-30のマイルドハイブリッド車が目指した考え方の完成形だ。マツダ車としては緩みを活かした穏やか路線のフットワークだが、一般的に見れば高速ツーリング向け。そこはちょっと尖った印象もあるが、電動制御は秀逸。突き出されるような初期加速等の刺激はうまく抑えられている。他社のEVと比べると温厚派と言える、上品な力強さが見所である。

マイルドハイブリッドのFF車比較で190kg重いEVモデルだが、走り自体は爽快。重量物のバッテリーを床下に配置しているため、走行時の安定感と動きもしっとり。

  • エンジンルームは今どきのクルマとしては珍しいほど空間が空いている。2022年に登場が予定されているレンジエクステンダーはロータリーエンジンを採用。そのためのスペースと考えると納得だ。

icon 新型 MX-30 EV MODEL

●発表(最新改良): 2020年10月8日(2021年1月28日)
●価格帯:451万~495万円
●問い合わせ先: 0120-386919(マツダコールセンター)

●新型MX-30 EV MODEL バリエーション&価格

従来の魂動デザインは躍動感や緊張感がテーマだったが、MX-30シリーズではそれらを昇華して落ち着きを感じさせるものとなっている。シックでノーブルな雰囲気が魅力だ。

  • リヤクォーターガラスにさり気なく“エレクトリック”の文字。品の良さを感じる。

  • リヤのエンブレムがEVモデルの特徴。マイルドハイブリッドモデルはe-SKYACTIV GだがEVモデルはe-SKYACTIVとなる。

●ボディカラー

  • セラミックメタリック (3トーン 有料色:6万6000円高)

  • ソウルレッドクリスタルメタリック (3トーン 有料色:11万円高)

  • ポリメタルグレーメタリック (3トーン 有料色:6万6000円高)

  • アークティックホワイト

  • ジェットブラックマイカ

  • セラミックメタリック

  • ポリメタルグレーメタリック

  • マシーングレー プレミアムメタリック (有料色:5万5000円高)

急速充電にも対応。専用アプリでスマホからのリモートチャージ指示もOK

 MX-30のEVモデルは普通(AC)充電最大6.6kWが可能。加えて急速(DC)充電も国際的なCHAdeMO規格に対応しており、フレキシブルに運用できるのが魅力だ。ちなみに、駆動用バッテリーの残量が20%から80%までの急速充電が40分弱というのも比較的短時間。航続距離の短さはネックではあるが、タウンユースを中心にした利用ならストレスは少ない。

家庭では普通(AC)充電が主流。最大6.6kWまで対応のため約6時間で満充電可能。

  • 専用アプリで充電コネクター挿し忘れや充電場所検索、充電や空調のリモート操作が可能。

新しいのに懐かしい、そんな心地良さを感じさせるインテリア。水平基調でオーソドックスながら質感の高い作り込みが見所。

センターコンソール上のディスプレイは8.8インチのワイドサイズ。EVモデルならではの充電に関する設定機能などを備える。

コックピット正面のメーターは至ってオーソドックス。デジタル三眼メーターの左側がパワーインジケーターになっている。

  • MX-30のマイルドハイブリッド車と共通のシフト回り。パーキングモードに入れるのに若干慣れが要るかもしれないが操作感は良好。

  • 左右のパドルで上下各2段ずつ回生減速度を調整可能。アクセルオン時の加速度も調整可能となっているのが走りにこだわるマツダらしいところ。

後席は6:4分割可倒で格納可能。トノカバーも装備。ラゲッジ床下スペースはパンク修理キットなど最低限のスペースだ。

※写真はマイルドハイブリッド車

  • 実は使いやすいかも!? フリースタイルドアの魅力

     MX-30と言えば特徴的なのが観音開きのフリースタイルドア。これはEVモデルでも継承。前席2名乗車を通常使用とするならば、使い勝手はむしろ良好だ。後述するが発展性も十分ある。

運転しやすい視界の前席はゆったりとして居心地良し。後席もサイドウインドウが固定式という以外はヘッドクリアランスや見晴らしも十分。

●シートカラー

  • クロス(グレー/ブラック) ※EV、EV Basic Setに設定

  • クロス(グレー)+ 合成皮革(ホワイト) ※EV Highest Setに設定

  • クロス(ブラック)+ 合成皮革(ブラウン) ※EV Highest Setに設定

EVならではの注目メカニズム

 交流同期モーター、リチウムイオン電池、PCU、回生油圧協調式電子制御ブレーキ等の基本構成はEVとしては標準的なもの。制御面ではペダル扱いを反映して自然な過渡特性を生み出すモーターペダルやエンブレ回生の利き具合を上下2、計5段階で選択できるステアリングホイールパドルが特徴。なお、エンブレ回生時の最大減速は0.15Gである。基本プラットフォームはマイルドハイブリッド車と共通するが、バッテリーケースを車体骨格の一部とするなどの改良が加えられている。また、操舵追従性を向上するGVCプラスはターンアウト時にも介入するEV専用制御が採用された。

●ボディ&シャシー関連

  • 基本骨格はマイルドハイブリッドと同じだが、バッテリーケースを環状構造の一部として利用しシャシー剛性を向上。リヤトレーリングアーム取り付け部の強化なども行われている。

●駆動用バッテリー関連

  • リチウムイオン電池の駆動用バッテリーはフロア下に配置。ケース高を抑えるため、薄型バスバー配線や薄型冷媒チューブ式熱交換器を使ったバッテリー冷却システムなどを採用している。

●エレクトリック Gベクタリング コントロール プラス(e-GVC Plus)

マツダ独自の車両運動制御技術もEVに合わせてさらに進化。緻密なトルク制御を行えるモーターの特性を活かして、より幅広い領域で最適な前後荷重移動を実現している。ターンイン時の前方への荷重移動に加え、ターンアウト時の後方への荷重移動も可能になった。

●モーターペダル

アクセルの踏み込みストロークや踏み込む速さも細かに検知することで、ドライバーの意図通りのリニアな加速力を提供。またペダルを戻す方向の動きもセンシングし、ブレーキの減速回生協調制御とも合わせて、減速Gの応答性も適切にコントロールしている。

●ステアリングホイールパドル

ステアリング左右のパドルを操作することで、ドライバーの意図通りの回生減速度を発生。登降坂や渋滞、高速走行時などシチュエーションに合わせて選べるため、予見性をもって車速をスムーズにコントロールできるほか、荷重移動をより積極的に行うことも可能になる。

●回生協調ブレーキ

MX-30はEVもマイルドハイブリッド車も、電気信号でブレーキを制御するバイワイヤ方式を採用。これにより、エネルギーの回生量を大幅に増やすことが可能になった。

icon MX-30 Self-empowerment Driving Vehicle【2021年秋発売予定】

下肢障がい者と健常者が同じクルマを利用できるように、アクセルペダルやブレーキペダルを残しつつ、手だけで運転可能な車両も開発が進んでいる。

手でもアクセル&ブレーキ操作ができる新発想バリアフリーモデル

 MX-30の優しさの象徴となるのがこの自操仕様モデルだ。第一のポイントが観音開きドア。コンパクトドアにセンターピラーレスの大開口。車椅子からのアクセスを容易にする補助具も備えて一人でも乗降可能。コックピットはアクセルがステアリング内周リング、ブレーキはレバー式を採用。しかも、習熟なしにもかかわらず意外なほどスムーズに扱えた。低速域で扱いやすい電動ならではだ。また、ふつうに起動すれば標準ペダル操作系での運転も可能であり、試乗した範囲では違和感もなかった。健常者ドライバーとの共用が簡単なのも大きな長所だ。

ステアリング内周の丸いバーを押すことでアクセルを操作可能。ブレーキもステアリング脇のブレーキバーを手で押し込んで操作する。

乗り込みすいように格納可能なアクセスボードやドア自動開閉ボタンを設置。ハンドブレーキ操作をラクにする専用ひじ置きも設けられていた。

EVか? マイルドハイブリッドか? MX-30選び分けのPOINT

  • MX-30 EV MODEL ●価格帯:451万~495万円

  • 【見た目はソックリ!】MX-30(マイルドハイブリッド) ●価格帯:242万~339万3500円(特別仕様車含む)

 SUVの基本適応用途はファミリー&レジャー。2名乗車基準のMX-30はファミリーには向かないが、レジャー用途は満たす。となればEVの航続距離は問題だ。マイルドハイブリッドの走りのバランスも良好であり、MX-30のコンセプトにも似合っている。しかも価格差はおおよそ200万円。使って元をとるコスパ派はマイルドハイブリッド車だ。EVの走りと実用性の両面にこだわるならさらに高価になる可能性はあるがレンジエクステンダーを待つのが賢明だ。

●文/川島茂夫 ●写真/奥隅圭之

提供元:月刊自家用車

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