新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.06.30

【第6回 BMW i3】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場している。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回は、EVやプラグインハイブリッド車などを展開するBMWのサブブランド「BMW i」初の市販モデルとなった「i3」をピックアップ。都市型EVの草分け的モデルは、デビューから8年を経た今もアドバンテージを保てているのだろうか?

【第1回 日産 リーフe+】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第2回 日産 リーフNISMO】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第3回 マツダ MX-30】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

【第4回 ホンダ e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

BMW i3のプロフィール

BMW i3

BMW i3

 2013年7月、世界初公開されたi3は、電動パワートレーンを始めとするあらゆる要素を専用設計。加えて、いくつもの新たな試みが導入されたチャレンジングなモデルとして注目を集めた。

 EVは、走行中に限っては二酸化炭素を排出しないクリーンなモビリティだが、製造や廃棄の過程までを俯瞰すれば決してエコとはいいがたい側面もある。そのためBMWは、BMW iブランドの製造工程をゼロから創出。サステナビリティをコンセプトに掲げ、製造工程で使われる電力のすべてを水力や風力発電といった自然エネルギー由来のものとし、i3の誕生から利用時、そして廃棄に至るすべてのシーンで、環境負荷への低減を徹底した。

 そんなi3は、車体に三菱レイヨン製の量産型CFRP(カーボンファイバー強化樹脂)が使われているのも特徴だ。これにより車体全体の剛性アップを図るとともに、軽量化も達成。細く径が大きい新発想エコタイヤの採用もあって、EVを語る上で欠かせない電費性能の向上につなげている。

 短く、背が高い上、前後のオーバーハングが切り詰められたi3のフォルムは、デビューから8年を経た今でも新鮮だ。全面ガラス張りとなるリアゲートやツートーンのボディカラーなど、ディテールにもひと目でそれと分かる個性があふれる。

 一方、北欧の家具を思わせるウッドパネルのあしらい方や、軽量構造によって背もたれが薄く仕上がった特製シートなどにより、インテリアの居住性も上々だ。また、耐クラッシュ性の高いCFRP製の車体によって実現した観音開き式のリアドアは、後席への容易なアプローチを約束。“ストリームフロー”と呼ばれるユニークなサイドウインドウグラフィックと相まって、リアシートも開放的で居心地がいい。

 リアのラゲッジスペース下に搭載され、リアタイヤを駆動するモーターは、最高出力170ps、最大トルク250Nm(25.5kgm)を発生する。この数値はデビュー当初から変わらないものの、度重なるマイナーチェンジによりバッテリー容量をデビュー当初の22kWhから最新モデルでは42.2kWhへと増強。その結果、1回の満充電当たりの走行可能距離は、デビュー当初の最長180km程度から、最新モデルではWLTCモードで360kmへと伸びている。

 またi3には、発電用の650cc 2気筒エンジンを搭載したレンジ・エクステンダー装備車がラインナップされるのも特徴だ。1回の満充電当たりの走行可能距離は、こちらもデビュー当初の300kmから最新モデルでは466kmへと進化。日常使いでも不満のないレベルに進化している。

 これらの進化もあり、持続可能なモビリティとしてエコカーのジャンルを牽引してきたi3は、2020年秋に累計生産台数が20万台を突破。デビューから8年が経過した今も、一定にセールスを記録し続けている。

 なおボディサイズは、全長4020mm、全幅1775mm、全高1550mm、ホイールベース2570mmとコンパクト。そのため都市部での取り回しもラクである。

■グレード構成&価格
・「i3エディションJoy+」(505万円)
・「i3」(566万円)
・「i3エディションJoy+ レンジ・エクステンダー装着車」(555万円)
・「i3 レンジ・エクステンダー装着車」(616万円)

■電費データ
<i3 レンジ・エクステンダー装着車>
◎ハイブリッド燃料消費率平均
・WLTCモード:19.0km/L
 >>>市街地モード:17.5km/L
 >>>郊外モード:22.9km/L
 >>>高速道路モード:17.7km/L

◎EV走行換算距離(等価EVレンジ)
・295km

◎充電電力使用時走行距離(プラグインレンジ)
・295km

※参考
<i3>
◎交流電力量消費率
・WLTCモード:127Wh/km
 >>>市街地モード:000Wh/km   非公表
 >>>郊外モード:000Wh/km   非公表
 >>>高速道路モード:000Wh/km   非公表

◎一充電走行距離
・WLTCモード:360km

高速道路での電費をチェック! 軽量ボディと専用タイヤによって低燃費を記録

高速道路での電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

高速道路での電費テストデータ 天候:晴れ 「高速その1」時間:6:25-6:54、気温16.5度、「高速その2」時間:7:00-7:34、気温18度、「高速その3」時間:10:30-11:11、気温20度、「高速その4」時間:11:50-12:02、気温30度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 同時テストのプジョーe-2008と同じく、高速道路はその1-その4まで細分化して電費計測を行った。

 その1とその4は制限時速100km/h、その2とその3は70km/hであり、経験的に前者のほうが電費は悪くでるはずで、たしかにi3でもそうなっているものの、全体的に良好な値であるのに加えて、その1がかなり良く、e-2008に対しての差も大きくなっている。今回のその1は渋滞こそなかったものの、一部で流れが停滞して60km/h程度まで速度が落ちることもあったのだが、i3はそこで上手く稼いだのだろう。全体的にいいのは、車両重量が軽く、タイヤもスペシャルだからだ。

 EVテストに用いた車両は、ピュアEVのi3ではなく、発電用に小さなエンジンを搭載したREX(レンジエクステンダー)。EVとPHV(REXを含むプラグイン・ハイブリッド)の電費や一充電走行距離の表示は、違うものが定められていて、少々わかりづらい。

 i3はピュアEVでもREXでもバッテリー容量は同様の42.2kWhだが、電費は前者がWLTCモードで127Wh/km(約7.9km/kWh)、後者はWLTCモードの基準がなく国土交通省審査値の7.52km/kWhという表示となる。航続距離は、前者が一充電走行距離(1回の充電で走行可能な距離)として360km、後者は充電電力使用時走行距離およびEV走行換算距離ともに295kmで、これにハイブリッド燃料消費率の19.0km/リッター×9リッター(ガソリンタンク容量)=171kmが加わってトータルで466kmとなる。

 なんだかややこしいが、次期基準ではユーザーにとってのわかりやすさ、走行環境ごとの電費や燃費、Tank to WheelだけではなくWell to Wheelまで含めたより本質的な環境対応性能、ICEと比較したときなど相対的な性能やコストなどが検討されているようだ。

  • 往路の高速テストコース。

    往路の高速テストコース。東名高速道路 東京ICからスタート。海老名SAまでを「高速その1」、海老名SAから厚木ICから小田原厚木道路を通り小田原西ICまでを「高速その2」とした

  • 復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

    復路の高速テストコース。小田原厚木道路の小田原西ICから東名厚木ICを経由し横浜青葉ICまで走行。途中海老名SAで充電を行った

ターンパイクでの電費をチェック! カーボンとアルミの軽量車体が低燃費に大きく貢献

ターンパイクでの電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

ターンパイクでの電費テストデータ 天候:晴れ「ターンパイク上り」時間:7:56-8:15、気温21度、「ターンパイク下り」時間:9:56-10:10、気温18度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 ターンパイクの上り区間はどのEVでも電費は良くないが、i3 REXは史上最高(当社比)を記録した。

 まだ6台しかテストしていないので断言はできないが、車両重量が軽いほうが有利という傾向はありそうだ。日産リーフe+は車両重量1955kgで1.6km/kWh、リーフNISMOは1520kgで1.8km/kWh、マツダMX-30は1650kgで1.9km/kWh、ホンダeは1540kgで2.1km/kWh、プジョーe-2008は1600kgで2.0km/kWhとなっているのに対して、i3 REXは1440kgで2.2km/kWh。これよりも120kg軽い1320kgのピュアEVならさらに上まわることが期待できる。

 下りでの回生量は2.52kWh(参考値)で、回生を多くとるのは不利だと予想しているRWDのわりにはまずまずなのか、といったところ。同じくRWDのホンダeの1.0kWhは大きく上まわっている。ただ、回生量はあくまで推定値なので、ほんの参考程度にしていてもらいたい。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

一般道での電費をチェック! これまでの計測でトップとなる7.5km/kWhの優れた燃費を発揮

一般道での電費テストデータ ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

一般道での電費テストデータ 天候:晴れ 「一般道」時間:12:02-14:41、気温31度 ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 一般道での電費は7.5km/kWhでこれまた史上最高だった。もともとの電費性能が高いのだから当然といえば当然だが、電気モーター特有の頼もしい加速感がひときわ高いうえに電費だって良好なのは嬉しい。カーボンやアルミを多用して得られた軽量ボディの勝利と言っていいだろう。

 さらに、ストップ&ゴーの多い一般道では、ワンペダルドライブによって回生の取りこぼしがないのも有利に働いたとみていい。アクセルとブレーキのペダル踏み替え回数が激減する快適性と電費向上が同時になされているわけだ。

 ただし、リーフのように一般的なエンジンブレーキ程度のアクセルオフ回生のノーマルモードが選択できず、ワンペダルドライブモード一択なのは、ユーザーを狭めているようにも思える。個人的にはワンペダルドライブ好きではあるが、モードを選ぶ権利を与えてくれてもいいだろう。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

急速充電器テスト! 優れた電費のため航続距離が長い。またレンジエクステンダーはいざという時の安心感がある

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 スタート地点での走行可能距離は242kmで、そこから165km走った海老名SA(復路)では100kmとなっていた。142km分しか使わなかったということになる。e-2008でも述べているが走行可能距離の表示はあくまで目安であり、状況によって増えたり減ったりするものだ。バッテリー残量が31.5%のところから充電を開始し、30分で23.2km/kWhが充電されて85.5%まで回復した。

 i3の充電には90kWの急速充電器を使用したのだが、表示をみると50kWほどの出力で充電されており、40kW急速充電器を使ったe-2008よりもずいぶんと多く充電できた(表示による実際の出力は30kW前後)。車体側の充電器の性能が50kW程度だとしても、90kWの急速充電器を使えばやはり多く充電できるのだ。

後席足元チェック! 観音扉のためアクセス性に難があるが、入ってしまえば開放感があり、膝前、足下ともにきちんとしたスペースが用意されている

後席足元チェック! 観音扉のためアクセス性に難があるが、入ってしまえば開放感があり、膝前、足下ともにきちんとしたスペースが用意されている

BMW i3はどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 世界一の大都市である東京。BMWはそう遠くない将来に、アジアを始め様々な地域で東京並のメガシティが誕生するという予想のもと、そこに適したモビリティを計画。それが2010年に提唱されたメガシティ・ビークルであり、2013年の量産化時には、都市部における持続可能モビリティを追求する“プロジェクトi”の一環として“i”がサブブランドとなり、車名はi3になった。

 2020-2021年にかけて多くのメーカーからEVが発売されたが、それは欧州のCO2排出量規制に対応するタイミングを計ったからで、BMWはそれよりも遙か手前から独自に普及型EVを投入していたのだから、先見性が違う。

 さらに、Tank to Wheel、Well to Wheelよりも本質的な環境対応と言えるLCA(ライフサイクルアセスメント)の考えをも採り入れ、製造時のCO2排出量削減にまでi3は取り組んだ。パッセンジャーセルと呼ばれる車体上部に使われるCFRP(カーボンファイバー強化プラスティック)カーボンは、原材料が日本の三菱レーヨン広島工場製、アメリカのSGLでカーボンファイバーとなり、ドイツで最終生産。いずれの工程でもCO2ニュートラルに挑んでいて、本質を追究している。

 EVの課題およびウィークポイントの一つが重量にあるが、BMWはそこを克服するべくドライブモジュール(シャシー)はアルミニウム・ダイキャスト、ライフモジュール(キャビン)はCFRPとして軽量に仕上げた。今回のEVテストでわかった通り、実際の電費性能も優れているが、加速やハンドリングといったBMW特有の駆け抜ける歓びをも同時に実現している。誕生からすでに8年が経過しているi3だが、コンセプトや乗り味が素晴らしく、説得力のあるモデルだと再認識した。

BMW i3(レンジ・エクステンダー装備車)(42.2kWh)

■全長×全幅×全高:4020×1775×1550mm
■ホイールベース:2570mm
■車両重量:1440kg
■バッテリー総電力量:42.2kWh
■モーター定格出力:75kW
■モーター最高出力:125kW(170ps)/5200rpm
■モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)/100-4800rpm
■発電用エンジン:直列2気筒DOHC
■発電用エンジン最高出力:28kW(38ps)/5000rpm
■発電用エンジン最大トルク:56Nm(5.7kgm)/4500rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前後:Vディスク
■タイヤ前後:155/70R19・175/60R19

取材車オプション
■ボディカラー(メルボルン・レッド)、ヴァーネスカ・レザー(ダーク・トリュフ/カーボン・ブラック)、SUITE(19インチライトアロイホイール428/ユーカリ・ウッド・インテリア・トリム)、ワイヤレス・チャージング、Haman/Kardon Hi-Fiスピーカー・システム

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