新車試乗レポート
更新日:2022.04.01 / 掲載日:2021.12.27
【試乗レポート アウディ e-tron GT】ガソリン時代の美点を引き継ぐ見事な調律

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
ドイツ車の電動化が進んでいる。どこよりも早くハイブリッドシステムを市場導入したトヨタによりその特許を押さえられたことで、BEV(完全な電気自動車)化の波はドイツで巻き起こっているようだ。
アウディのBEVシリーズを牽引するフラッグシップモデル

アウディe-tron GTはそんな背景から生まれた。SUVからスタートしたアウディのEV戦略の中での登場とともに、VWグループでの技術共有というメリットを持つ。BEV専用のプラットフォームは先にリリースされたポルシェ・タイカンと同じだ。ワイド&ローのプロポーションがそんな雰囲気を醸し出す。ハイパフォーマンスなBEVであることは想像しやすい。
もちろん、こうしたプラットフォームのグループ内での共有はこれまでも行われてきた。VWゴルフとアウディA3が有名だが、ポルシェ・パナメーラとベントレー・コンチネンタルGTもそうである。多くのブランドを有するスケールメリットはとても大きい。
では、e-tron GTはナニモノかといえば、新世代のR8だと考えればわかりやすい。アウディブランドのアイコンとしてイメージを牽引していくモデルだ。そして、技術やデザインが今後のモデルに反映される。その意味でも重要なクルマであることは間違いない。
e-tron GTには2つのモデルが存在する。スタンダードモデルとさらにパフォーマンスを上げたRS e-tron GTだ。タイカンのように4SやGTS、ターボ、ターボSほど分かれてはいないが、2つから選べるようになっている。今回ステアリングを握ったのはスタンダードとなるe-tron GT。最高出力は390kW、最大トルクは640Nmとなる。ちなみにRS e-tron GTは最高出力は475kW、最大トルクは830Nmを発揮する。航続距離はWLTCでともに534km。なので、計算上東京から大阪までノンストップで行けることになる。



タイカンと共有するプラットフォームはJ1パフォーマンスプラットフォームと呼ばれる。前後のアクスル部分に駆動用のモーターをそれぞれ配置した四輪駆動であり、彼らはこれを新世代のクワトロシステムと位置付けている。そしてホイールベースにはリチウムイオンバッテリーを敷き詰める。低重心はそれによって成立していると言っていいだろう。
そしてそこを覆うのが洗練されたエクステリアデザイン。エアロダイナミクスに長けたなだらかなプロポーションが与えられた。4ドアであることを感じさせない雄麗さだ。個人的には低いボンネットが気に入った。内燃機関を積まないメリットはこんなところにもあるようだ。そしてその前方に備わるフロントマスクが、個性を表現する。立体的な六角形のグリルが近未来のアイデンティティになのであろう。コンパクトからフルサイズまでのセダン系とSUV系に採用される気がする。


運転席を重視したスポーティなスタイルを採用

インテリアも次世代アウディモデルに波及するであろう要素が見える。運転席側に向いたセンターモニターがそうで、ドライバーオリエンテッドな世界観を演出する。また、太いセンターコンソールがFRスポーツカー的な走りを想像させる。これがアウディブランドがスポーティであることを主張する。低いアイポイントと共にスポーツマインドがくすぐられる部分だ。







ナチュラルかつスムーズな操作感をガソリン車から受け継いだ

では、実際に走らせるとどんなフィーリングなのか。結論から言うと、e-tronスポーツバックから始まったアウディのEVテイストを継続する。出だしの太いトルクが特徴的なEVだが、アウディはそこをあえて抑え、ガソリン車に近い味付けを施した。アクセルの踏み込みに対するリニアな加速がソレだ。この仕上がりであればガソリン車からの乗り換えも問題ないだろう。操作フィーリングに違和感はない。
ハンドリングもそう。パワステのセッティングは極めてナチュラルでここもガソリン車のフィーリングと変わらない。クイックなハンドルさばきに対してロールを抑えながら向きを変える動作は気持ちがいい。ドライブモードをコンフォートからスポーツモードにすると、各部の反応が良くなるのは言わずもがな。文字通りの走りが体感できる。が、正直加速面でそれほど驚きを与えられることはなかった。どちらかといえば、想定内で扱いやすさを感じる。きっとそこはこの上にRS e-tron GTの存在があるのと関係しているのであろう。よりアグレッシブな走りを求める方にはそちらがおすすめである。
と言うことで、e-tron GTはアウディのEV時代の幕開けを飾るのにふさわしい一台であることがわかった。なんたって2033年には内燃機関の生産をストップすると明言しているのだから、e-tron GTはBEVのイメージリーダーとして重要だ。販売は始まったばかり。今後の動向が見逃せない。
アウディ e-tron GT クワトロ(電子式CVT)
- ■全長×全幅×全高:4990×1965×1415mm
- ■ホイールベース:2900mm
- ■車両重量:2280kg
- ■バッテリー総電力量:93.4kWh
- ■モーター定格出力:200kW
- ■モーター最高出力:390kW(530ps)
- ■モーター最大トルク:640Nm
- ■ブレーキ前/後:Vディスク
- ■タイヤ前・後:225/55R19・275/45R19
- ■新車価格:1399万円から1799万円(e-tron GT全グレード)