新車試乗レポート
更新日:2022.03.25 / 掲載日:2021.10.30

【試乗レポート ホンダ NSX タイプS】ラストNSXに乗った! 超レア車タイプSの実力

文●石井昌道 写真●ホンダ

 NSXには、ある程度の思い入れがある。

 初代モデルは1990年に発売されたが、自分は当時、学生ながら自動車雑誌の編集部にアルバイトとして潜り込み、初めて現場取材に連れて行かれたのがNSXのメディア向け試乗会だった。クルマ好きでメディアの仕事に魅力を感じていたから、自動車雑誌の編集部員になってゆくはモータージャーナリストになろうと漠然と考えていた自分にとって、あの現場取材は原体験。日本の自動車メーカーが作ったスーパースポーツが、フェラーリやポルシェとも戦えることに大きな希望を抱き、自動車メディアで仕事をしていく決心をしたのだ。

電動化によってスーパースポーツのハンドリングを新たなる次元に高めた第2世代NSX

 2代目NSXが発売されたのは2016年。初代モデルが生産中止となってから10年の時を経ていたが、その間にはV10エンジンのFRがNSX後継として開発されていたが、リーマンショックの影響もあって2008年に中止されるという出来事もあった。その後、2012年には新たにV6エンジンのミドシップでNSXコンセプトを発表。当初はエンジンを横置きしていたが、後に縦置きに改められた。最大の特徴はフロント左右輪にそれぞれモーターを持ち、リアはエンジン+モーターのハイブリッドカーでありSH-AWD(Super Handling All Wheel Drive)であること。2004年発売のレジェンドでは、後輪左右の駆動力を自在に制御し、外側に多く駆動力をかけて曲がる力を生み出す世界初のAWDシステムだった。いわゆるトルクベクタリングの先駆けである。それを、より制御の幅が広く緻密にもなるモーターで行い、NSXは前輪左右の駆動力で制御。新たにSPORT HYBRID SH-AWDと呼ばれることになった。ちなみに2015年に発売されたレジェンドにも同システムが搭載されているが、こちらはNSXと逆でフロントはエンジン+モーター、リア左右輪にモーターを持っている。

 2016年3月にはアメリカ・カリフォルニア州のパームスプリングで2代目NSXのステアリングを握る機会を得た。ワインディングロードを含む一般道とThermal Club(サーキット)での試乗というプログラムだったが、1年のうち300日は晴れているという同地ながらサーキット試乗のときには雨に見舞われた。砂漠もある地域だから、雨の降り始めは路面が滑りやすくスーパースポーツを試乗するには好ましくない状況でも、漠然と「AWDだから大丈夫」と気楽に走り始めたのだが、どうも様子が違った。ハンドリングは素晴らしくクイックで、よく曲がってくれるのだが、どうも自分の感覚よりも曲がりすぎてしまう。さらにタイヤを滑らせてしまったときがヤバかった。コーナー立ち上がりでのアクセルオンでテールが滑ったので、カウンターステアを当てたら、その方向にすっ飛んでいきそうになったのだ。フロントに駆動をかけているから、タイヤが向いている方向に強く引っ張られていく。カウンターを当てるのは瞬間的で、素早く戻さなければならない、という特有の難しい操作を求められるのだった。ドライのワインディングロードでは実力の70〜80%ぐらいならば、とんでもない旋回力を持ったスーパーハンドリングマシンとして賛辞を送ったが、それでも感覚よりもインへ切れ込んでいきすぎるので、普段よりもステア操作をワンテンポ遅らせて走っていた。

 2代目NSXの開発はメインマーケットのアメリカで行われたが、課題を克服するため発売後は日本で開発が継続され、2019年モデルではコントローラブルなモデルとなった。ただし、特徴的なトルクベクタリング感がなりをひそめたという感もあった。

タイプSの実力を「日本のニュル」で解放する

ホンダ NSX タイプS

 そして最終形となるのがNSX typeSだ。グローバルで350台、日本向けは30台しか生産されない貴重なモデルに、北海道の鷹栖PG(プルービンググラウンド=総合テストコース)で試乗してきた。ニュルブルクリンクの過酷な状況を再現した「ワインディングコース」、ヨーロッパの一般道を模した「EU郊外路」の2つのステージで、2019年モデルおよび2020年モデルのホンダNSX、ホンダNSX typeS、アキュラNSX typeSを走らせた。

 本題のハンドリングを試す前に、まずはPG敷地内の移動区間をゆっくりと走行。NSXには「QUIET」「SPORT」「SPORT+」「TRACK」と4種類ドライビングモードをもつインテグレーテッド・ダイナミック・システムがあり、「QUIET」を試した。

 タイプSではEVドライブ領域が拡大されている。フロントのツインモーターユニットを約20%ローギアード化、バッテリーはSOCの使用領域を約20%拡大し出力も約10%向上、駆動力セッティング変更などで、EVスタート時のレスポンスを向上。アクセルの踏み込みに対してもEVでの加速が持続するように変更されている。ホンダのテストによると、一般道想定の走行で2020年モデルはEV走行37%/エンジン走行63%だったものが、タイプSではEV走行91%/エンジン走行9%に拡大したという。

 「QUIET」で一般道を想定したペースで走らせてみると、2020年モデルでは40〜50km/h程度の巡航はEV走行ができるものの、そこからわずかに加速させようとするだけでエンジンが始動する。ところがタイプSでは、一般道で行う程度の緩加速ならEV走行のままだ。

 スーパースポーツがエンジン音なしにスルスルと走る姿は、NSXの特徴の一つでクールだが、そこにも磨きをかけているのだ。

 「EU郊外路」は大小様々なコーナーがあり、路面は適度に荒れていてアンジュレーションもある。ここを80〜90km/h上限程度を目安に走らせると、クルマの素性がわかりやすい。2020年モデルと比較すると、タイプSはボディコントロールが上手になっていてフラットライド感が強い。サスペンションは硬くなっているが、乗り心地が良く感じられるのは、路面からの入力を一発で収束させて、無駄な上下動を起こさないからだ。

 タイプSで「SPORT」と「SPORT+」を比べると明確な違いがあった。「SPORT」で走らせていると、一般的なAWDスーパースポーツといった感じで、速さもコントロール性も十二分ではあるのだが、「SPORT+」に切り替えるとフロントのツインモーターユニットが存在感を見せ始め、ステアリングを切り込みながらのアクセルオンでグイグイと曲がっていく。まさにスーパーハンドリングであり、これこそ2代目NSXが狙っていたところ。初期モデルでは曲がりすぎたりコントロール性が良くなかったが、2019年モデル以降は抑えすぎて物足りなかった。そこをタイプSはドンピシャに気持ち良くて、旋回能力も高いところに持ってきたのだ。

 開発責任者の水上聡氏は「コーナーのイン側に巻き付くようなハンドリング」を狙ったという。コーナーに進入し、旋回中から立ち上がりにかけて、アクセルを踏みすぎればリアがブレークする、もしくはプッシュしてアンダーステアに陥るような場面で、タイプSの「スポーツ+」は、フロントがステアリングを切り込んだ方向にスーッと引っ張っていって、コーナーのR通りに綺麗にトレースできる。アンダーステア感がなくて気持ち良く、コントロール性も良好。また、ステアリングからはフロントタイヤが路面をがっしりと掴みながらトラクションを発揮していることがクリアに伝わってくる。「SPORT」よりもステアリングインフォメーションが豊かになって、クルマとの対話がより濃密に感じられるのも「SPORT+」でタイプSを操る歓びだ。

 「ワインディングコース」ではおもに「TRACK」でハイスピードドライブを存分に堪能した。中・高速コーナーが主体でアップダウンが激しいため、ブラインドコーナーも多い。加えてわざと路面を荒れさせているので、コースの隅々まで知っていないとなかなか全開走行までいけないコースだが、開発ドライバーが先導してくれたおかげで、ペースをじょじょにだが上げていけた。ジャンピングスポットなど要注意箇所は無線で知らせてくれながら、ペースも抑えてくれたから安心して走れたのだ。でも、一度だけジャンピングスポットにそれなりの勢いで突入しながらブレーキをかけたら接地が抜けてABSが低ミュー路判定になったようで、減速感も弱まった。やはり相当にヤバいコースであり、だからこそクルマが鍛えられるのだ。

 2019年モデルに比べるとタイプSは走り始めから接地感が濃厚だ。走行モードにかかわらず、ターンインではフロントタイヤがビタリと路面を鷲掴みにしてコーナリングに入っていき、トルクベクタリングうんぬん以前の、基本的なシャシー性能の高さが実感できる。ワイドトレッド化と専用タイヤの効果も大きいのだろう。サスペンションはしなやかで突っ張った感じはまるでないがロールは一際少なく感じられてフラットな姿勢が保たれる。

 速度を高めていったときのボディの上下動も少なく、2019年モデルに比べて安心感の高さがまるで違う。エンジンはターボの過給圧やインジェクターの吐出量、冷却性能などを向上させて22PSアップ、システム出力は610PSとついに600PSオーバーを果たしたタイプSだが、時に200km/hを超えてコーナリングすることもあるステージで、信じられないほど安定感があり、ドライバーに自信を持たせてくれた。ここでは空力性能の効果が高い。速度を上げれば上げるほと路面に吸い付いていくような感覚さえあるのだ。

第2世代NSXがホンダに残したもの

 スーパースポーツも電動化へ向かっていくが、トルクベクタリングが一つのキーワードになるだろう。NSXはそこにいち早くフォーカスを当てて開発され、発売から5年ほどの歳月をかけて見事なまでに熟成した。新時代のスーパースポーツのトップランナーであり、今後は世界の名だたるメーカーがフォロワーになるはずだ。

 日本人として誇らしい気分になり、初代NSXを初めて取材したときを思い出した。このタイプSでNSXが消滅してしまうのはつくづく残念でならない。

 だが、3モーターのSPORT HYBRID SH-AWDで養った知見は決して無駄にはならないはずだ。また、開発ドライバーの走りも見事だった。あの過酷なコースで、後方のドライバーのスキルに合わせて自在にペースを変え、ときには限界ギリギリで走れるなんて、国内メーカーにどれぐらいいるのだろうか? こういった人的リソースが育ったこともまた財産であり、今後にいいカタチで繋げていくことに期待したい。

ホンダ NSX タイプS(9速AT・DCT)

  • ■全長×全幅×全高:4535×1940×1215mm
  • ■ホイールベース:2630mm
  • ■車両重量:1790kg
  • ■エンジン:V6DOHC+モーター
  • ■総排気量:3492cc
  • ■エンジン最高出力:529ps/6500-6850rpm
  • ■エンジン最大トルク:61.2kgm/2300-6000rpm
  • ■モーター最高出力:37ps/4000rpm(1基あたり)、48ps/3000rpm
  • ■モーター最大トルク:7.4kgm/0-2000rpm(1基あたり)、15.1kgm/500-2000epm
  • ■ブレーキ前後:Vディスク
  • ■タイヤ前後:245/35ZR19・305/30ZR20
  • ■新車価格:2794万円(タイプS)
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執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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