新車試乗レポート
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.10.26

【プジョー e-208】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場している。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回フォーカスするのは、プジョーのコンパクトEV「e-208」。同じ車体にEVとガソリンエンジンというふたつのパワートレーンを設定したプジョー「208」のEVバージョンは、果たしてどんな実力を秘めているのだろうか?

プジョー e-208のプロフィール

 乗り心地やハンドリング、そして、デザイン性や精緻な作り込みなどが高く評価され、2020-2021インポート・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したプジョーのコンパクトカー・208シリーズ。同モデルは日本上陸時から、ガソリンエンジン車に加えてEVバージョンのe-208をラインナップしている。

 現在、市販されているEVの多くはEV専用車で、ネーミングはもちろんのこと、ボディやプラットフォームなどは独自開発のものを採用するモデルが多い。しかし、プジョーの208とコンパクトSUVの「2008」シリーズ、そして、同じグループに属すDSオートモビルのSUV「DS 3クロスバック」は、ひとつの車種に内燃機関モデルとEVバージョンとを同時展開。これは、EVに対する独自コンセプト“パワー・オブ・チョイス”によるもので、クルマを取り巻く環境が目まぐるしく変化する中、好みやライフサイクルに合わせて気軽にパワートレーンを選んで欲しいとの考えから生まれた発想だ。

 プジョーを始め、全14のブランドを傘下に収める世界第4位の自動車グループ・ステランティスのCEOであるカルロス・タバレスは、世の中の急速なEVシフトに対して「クルマを裕福な人々にしか手の届かないものにしてしまいかねない」とかねてから警鐘を鳴らしてきた。まさに“パワー・オブ・チョイス”は、グループトップの意向に則ったコンセプトであることがうかがえる。

 そんなステランティスのビジョンを具現するためのキーテクノロジーが、“CMP (Common Modular Platform)”と名付けられたプラットフォームだ。CMPはB/Cセグメントに属す車種向けに開発されたもので、サイズ設定やパワーユニットのチョイスを柔軟に行えるほか、キャビンやラゲッジスペースの広さはほぼ同じでありながら、EVとエンジン車など複数のパワートレーンを搭載できるよう配慮されている。重量のかさむバッテリーを支える必要があるため、e-208のリアサスペンションは208のそれに対して強化型となっているが、プラットフォーム自体は基本的に2台とも共通だ。

 e-208のエクステリアデザインは、エンジン搭載車である208とほぼ同じ。あえて違いを挙げるなら、ツートーンに塗り分けられたライオンのエンブレムや、ボディ同色のアクセントが入ったフロントグリル、専用デザインのホイール、リアピラーに付く“e”のエンブレム程度であり、まさに“パワー・オブ・チョイス”を地で行く作り分けといえるだろう。

 対するインテリアも、208との識別点はバッテリー充電量やEVコンポーネントの作動状況を示すメーターパネル程度。小径ハンドルを中心に独自のレイアウトとなる“3D iコックピット”や、コックピット中央に横一列にレイアウトされた斬新な意匠の各種スイッチは208と共通だ。

 e-208のバッテリーは50.0kWhと十分以上の容量だが、それによってリアシートの足下スペースがスポイルされるなど、居住性に悪影響は生じていない。フロント、リアともにシートの着座姿勢は208と同じで、コンパクトEVにありがちなバッテリーの張り出しなどはほとんどない。これは、バッテリーをフロア一面に敷き詰めるのではなく、前後のシート下と車両の中心線上に集中配置した賜物だ。

 ボディサイズの大きいEVはバッテリー搭載位置の自由度が高いが、今回の試乗車であるe-208 GTは、全長4095mm、全幅1745mm、全高1465mm、ホイールベース2540mmの Bセグメント車。そのため自ずとスペースには限りがある。そんな中、e-208はリアの乗員の足下を避けるよう、バッテリーをH型にレイアウトするなどの工夫により、痛痒を感じることのない後席スペースを確保しているのである。このパッケージングはお見事だ。

 バッテリー容量50.0kWhのe-208は、一充電当たりWLTCモードで380km走行できる。シティコミューター的な要素が強いこのクラスのEVとしては、十分なアシの長さといえるだろう。ちなみに、前輪を駆動するモーターの最高出力/最大トルクは走行モードによってそれぞれ異なり、「スポーツ」モードでは100kW/260Nm、「ノーマル」モードでは80kW/220Nm、「エコ」モードでは60kW/180Nmを発生する。

 ここまでEVバージョンの完成度が高いと、208を選ぶか、それともe-208にするか、選択は非常に悩ましい。“パワー・オブ・チョイス”コンセプトは、ユーザーに新たな悩みを投げ掛けてきたようだ。

  • ■グレード構成&価格
  • ・「アリュール」(398万9000円)
  • ・「GT」(435万8000円)
  • ■電費データ
  • <アリュール/GT共通>
  • ◎交流電力量消費率
  • ・WLTCモード:149Wh/km
  •  >>>市街地モード:115Wh/km
  •  >>>郊外モード:126Wh/km
  •  >>>高速道路モード:149Wh/km
  • ◎一充電走行距離
  • ・WLTCモード:380km

小さくて軽いことが電費にもプラスに働いている

 以前にテストしたプジョーe-2008とパワートレーンやバッテリーなどは同一。ボディがクロスオーバーSUVとハッチバックという違いがあり、車両重量は100kg軽い1500kg、タイヤサイズは205/45R17でわずかに細く小さく、前面投影面積も小さくなるのが走りや電費に関わる違いとなる。当然e-208のほうが良好で、WLTCモード燃費は4.7%、市街地モードは(WLTC-L)は5.2%、郊外モード(WLTC-M)は4.8%、高速道路モード(WLTC-H)は6.7%の差がある。ちなみにe-2008をテストしたときにはまだWLTCモードの燃費や航続距離(一充電走行距離)のカタログ記載義務がなく、JC08モードだけだったが9月から義務化されたので、いまは市街地モードなど細かい電費も記載されている。航続距離はe-208がJC08モードで403km、WLTCモードで380km、e-2008が385km、360kmとなっている。

 速度制限100km/h区間のその1とその4はe-2008が5.4km/kWh、6.0km/kWhだったのに対してe-208は6.2km/kWh、6.3km/kWhと良好だった。ただし、e-2008のその1は珍しく道路が空いていて速度制限近辺で走り続けられたのに対して、e-208では交通状況によって70−80km/hまで速度が落ちる区間があって電費が良くなってしまった。その4は両車とも速度が落ちる区間があって同じように電費が良くなっている。

 速度制限70km/h区間のその2とその3はe-2008が7.1km/kWh、7.5km/kWh、e-208が7.6km/kWh、7.1km/kWh。e-208のその3は、工事区間が長く、渋滞によるストップ&ゴーがあったからで、同日テストのアウディe-tron50も同様だった。

 一般公道でのテストであり、とくにその1とその4では速度域が下がることが多い。なるべく交通量の少ない時間帯を狙ってはいるが、電費データ安定しないのはたしか。とはいえこれもまたリアルワールドならではであり、その時の状況によって考察できればよしとしたい。

テスト日は濃霧によりペースが下がり電費データにも若干の影響があった

 ターンパイクは13.782kmでスタート・ゴール地点で標高差が963.6mもある日本でも珍しいステージ。日常生活でここまで上りおよび下りが続くことは滅多にないが、下りでは回生によってエネルギーが取り戻せるという嬉しさがあるので、これを見てみたいという興味からテストを行っている。エンジン車だったら、下りが続けばガソリンが降ってきてタンクに収まってくれるようなものなのだ。

 電費に厳しい上りでのe-208の電費は2.0km/kWhでe-2008とかわらなかった。このステージは交通量が少なく、かなり安定してペースを保てるのだが、今回のテストは標高の高い地点で濃霧が発生して極端にペースを落とさざるをえない状況があり、平均速度は下がったものの速度変動が多くて電費は悪化する傾向だった。それでe-2008と同数値なのだからまずまずだろう。同日テストのアウディe-tron50も、以前にテストしたWLTC電費が低いアウディe-tron55スポーツバックと同電費の1.3km/kWhだったので、ペースによる影響だとみていい。

 下りでは2.6kWhが回生された。e-2008の3.1kWhに届かなかったが、下りではペースは安定していたので、どうして届かなかったかの根拠は説明できないが、過去のテストデータをみても、車載電費計から計算した推定値であり、データは多少ばらつく傾向にあるのであくまで参考値としておきたい。それでも下り始める直前にメーターに80kmと表示されていた航続可能距離が約13kmの距離を下って150kmにまで伸長しているのは嬉しいことにかわりはない。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

優れたシティコミューターの資質を感じさせるデータ

 一般道の電費はe-2008の6.0km/kWhに対して6.2km/kWhと3.3%良好だった。WLTCの市街地モード8.7km/kWhなので達成率71%にとどまったのはちょっと残念。EVはカタログ電費との乖離が小さい傾向にあるのは、このEVテストでも見てとれるのだが、今回は一般的なエンジン車程度ということになった。一般道は信号や周囲の交通の影響をもっとも受けやすいので、電費がバラつくのは仕方ないところだろう。それでもこれまでテストした全14台のEVのうち、e-208の一般道電費を上回ったのは日産リーフNISMO、ホンダe、BMW i3REXの3台にすぎず、比較的に軽量コンパクトなe-208は優れたシティコミューターでもある。それでいて50kWhのバッテリー容量と380kmの航続距離は、コンパクト系では最大級だ。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約23kmの距離を走行した

200km程度の旅程なら充電いらず、十分に実用的な電池容量

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 今回のテストでは事前に満充電にはできなかったが、スタート地点での航続可能距離は326km。e-208はバッテリー残量の%表示がないが、80%強というところだったのだろう。復路の海老名SAまで154km走行して航続可能距離は110kmとなったところで充電した。出力40kWの急速充電器で30分充電し、充電器上の表示で14.4kWh、31%のプラスとなった。実質的な出力は32kW程度だった。高速道路での電費は概ね6.5km/kWhといったところなので93.6km分、時間にして1時間強といったところ。片道500kmなどの超ロングドライブに使うとなると、まだ物足りず30分で倍ぐらいの電力が充電されるのが理想的。海老名SAにある出力90kWの急速充電器で、クルマ側の受け入れ能力も相応ならば十分に実用的となるだろう。ただし、現状でも往復200km程度ならば無充電でいけるので、一般的な日帰りレジャーならば問題なし。往復300kmでも1度急速充電すればオッケーだ。

絶対的なスペースは広くないが、足元に気になる段差もなく、膝前にも空間が確保されている

プジョー e-208はどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 EVは軽量コンパクトなシティコミューター系と重量級で速さもあるハイパフォーマンス系に大別できる。前者は電費がいいものの、バッテリー容量は少なめなので航続距離は短い。後者は大容量バッテリーのおかげで航続距離は長いものの、電費は良くなく、価格も高い。また、現在の急速充電器ではバッテリー容量が大きいほど物足りない。シティコミューター系とハイパフォーマンス系の間に、美味しいところがありそうなのだが、e-208はシティコミューター系のなかでは比較的にバッテリー容量が大きく、好ましい実用性を備えているといえる。

 またBセグメントでは、日本車やドイツ車以上にシャシー性能が高く、プジョーならではの洒落た雰囲気、輸入車としてはリーズナブルな価格も魅力。初めてのEVとしてもオススメできるモデルだ。

プジョー e-208 GT(50kWh)

  • ■全長×全幅×全高:4095×1745×1465mm
  • ■ホイールベース:2540mm
  • ■車両重量:1500kg
  • ■バッテリー総電力量:50.0kWh
  • ■モーター定格出力:57kW
  • ■モーター最高出力:100kW(136ps)/5500rpm
  • ■モーター最大トルク:260Nm/300-3674rpm
  • ■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
  • ■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
  • ■タイヤ前後:205/45R17
  • 取材車オプション ■パールペイント、パノラミックサンルーフ、ナビゲーションシステム、ETC
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