新車試乗レポート
更新日:2021.12.22 / 掲載日:2021.10.01
【試乗レポート スズキ ワゴンRスマイル】スライドドアだけで終わらないスマイルの挑戦

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
今の軽自動車は凄い。これほど実直に顧客のニーズに応えようする姿勢は、高級車をも超えるかもしれない。その上、明確な予算やサイズの制限を受けながら、ユーザーの望みを見事に叶えてみせている。そんな厳しい市場に、スズキが新提案したのが、「ワゴンRスマイル」だ。
かつて軽自動車は、とにかくコスト重視というユーザーも多かった。しかし、弱点を克服する進化を続けるうちに、ファーストカーニーズを担うまでに成長。スズキによるユーザー調査によれば、購入時の重視するポイントは、「スタイル・外観」「安全性」「運転のし易さ」と続き、「車両価格」や「経済性」は最優先ではなくなっている。それを反映するように、上級軽と呼ばれる質感を重視したモデルも増えてきた。今の主力である軽スーパーハイトワゴンの多くは、そこに属する。そんなスーパーハイトワゴンの大きな武器が、「スライドドア」だ。軽乗用車のスライドア比率は、年々上昇しており、2020年度には、半数を占める52.3%に拡大。さらに軽ワゴン車購入者の約40%がスライドオアを希望しており、特に女性に限定すると50%まで上昇するそうだ。その一方で、軽スーパーハイトワゴンを避けるユーザーもいる。その理由としては、ファミリーカーぽい雰囲気や高い全高による高速安定性の悪さなどを上げるという。そこでスズキは、ハイトワゴンにスライドアを付けながらも、オーナーを主役としたこだわりのある新型車を企画した。これがワゴンRスマイル誕生の背景である。
「ワゴンR=実用車」の固定概念を覆すデザイン
ワゴンRスタイルのデザインは、ボクシーながら、見る角度によって、軽セダン風にも見える敢えてワゴンらしさを薄めたデザインに仕上げられている。そこはワゴン=実用というイメージを打ち破る新しいワゴンの見せ方なのだ。キャラクターを示すフロントマスクも本家ワゴンRとは異なり、丸目ライトとオーソドックスなフロントグリルを組み合わせることで、クラシックテイスト風味の親しみやすいものとした。曲線を多用した柔らかい外装デザインとアクセントとなるメッキ―パーツの組み合わせは、ちょっとした特別感を醸し出している。しかも外装色は、標準色を含め、メタリックとパールに集約しているのも贅沢さを感じる演出だ。
質感の高さについては、より内装で徹底されている。カラーパネルを使ったダッシュボード、液晶表示付きの洒落たアナログスピードメーター、ステッチ付きのファブリックシートなどカラーコーディネートが徹底されており、上級コンパクトカーとも勝負できそうな雰囲気だ。簡素な作りとなりがちなドアトリムには、なんと革張りとステッチ加工が……と思ったら、これは見事なフェイク。ステッチの糸目やドアトリム表皮の強弱まで、樹脂上のデザインで見事に再現。触れてしまうと現実に引き戻されるが、眺めている間は、本物と思い込んでしまう人もいても不思議ではないほど。まさに夢のある工夫だ。インテリアに使われるパーツもじっくり観察してみると、多くは他のスズキ車の流用であることに気が付く。コストに厳しいスズキとしては当然のこと。しかし、その条件下で質感を高めることに挑んだデザイナーと技術者たちの努力には、まさに脱帽だ。
スズキ初ハイトワゴン初となるスライドドアは、主力のハイブリッド車には、ワンタッチの電動開閉機能が全車標準に。駐車時にさっと後席にアクセスできるので、荷物の出し入れや子供の乗降をスムーズに行える。スライドドアの開口高は、軽スーパーハイトワゴンのスペーシアに負けるが、開口幅とステップ地上高は、共通。スペーシアの知見もしっかりと反映されている。実際に乗降性も悪くない。うっかり頭をぶつけるようなこともなかった。リヤシートに収まると、ワゴンRよりも頭上空間は高いので、より広々。前方視界も良く、ワゴンらしい快適さをしっかりと確保する。シートはスライド機構も付くので、後席の活用だけでなく、ひとりやふたりでのドライブ中の休憩スペースにも活用できる。
パワートレインは、自然吸気仕様エンジンのみで、ハイブリッドが主力。エントリーグレードとしてピュアエンジン車が用意される。エンジン性能は全車共通の最高出力49ps、最大トルク58Nmを発揮。ハイブリッドは、モーター機能付き発電機(ISG)によるものマイルドハイブリッド仕様で、減速時のエネルギー回生、停車時直前の早めのアイドリングストップ作動、スムーズなエンジン再始動、発進時のモーターアシストなどを行う。燃費消費率は、マイルドハイブリッド車で、25.1km/L(2WD車・WLTCモード)と公表されている。
「所有することが嬉しい軽自動車」への挑戦

今回の試乗コースは、山間部からも近い起伏の剥げしい郊外路だ。そのため、運転中は強めにアクセルを踏むシーンも多かった。2名乗車時の加速力にも大きな不満はなかったが、アクセルを踏み込む時間が増える分、エンジン音が気になるシーンも多かったのも正直なところ。その一方で、平坦な道を走っていると、走行音や雨音などノイズも抑えられていることにも気が付いた。この静粛性能を活かすためにも、ターボがあればと思ってしまった。しかし、スマイルの走りの方向性は、かなりおっとりで、ハンドリングも大らかな味付けだ。またスライドア化による重量増もあり、クルマの動き方によっては、重心の高さを感じさせるシーンもあった。この素性では、ターボを活かした走りは期待できないだろう。ここはアシストモーターの強化の方が、クルマの方向性としては正しい。足回りは、乗り心地重視のセッティングというが、ワゴンRハイブリッドFZよりも80㎏も重いこともあり、ある程度硬さも感じる。峠道のようなクルマの上下左右に大きく動くシーンでは、ちょっとボディと足回りのバランスが悪くも思え、もう少し改善の余地があるのではとも思った。ただ平坦な道が中心の市街地ならば、直進安定性や路面通銃声も悪くないので、もっと快適性は高く感じたことだろう。
流行りのちょっと良い軽の世界を軽ハイトワゴンでも実現させたワゴンRスマイル。スライドドアを中心とした機能性を高めながら、質感よく映るデザインを実現させた点は大きく評価できる。また機能だけでなく、オーナーの個性を反映できるカスタムパーツを充実させている点もプライベートカーとしての商品力を高めている。ただ1台で全てを済まそうと考えると、走りの面などで少しばかり物足りなさを感じるのも正直なところだ。しかし、スライドドア付きの軽ハイトワゴンは、スズキにとっては第一弾であり、軽市場全体を見ても直接的ライバルは、ムーヴキャンバスのみ。このため、まだまだ発展性のあるカテゴリーなのだ。スズキ自体も、ワゴンRスマイルを今後も成長させたいと考え、市場の声に真摯に応えていく姿勢を見せている。そして何よりもスマイルという名称には、ユーザーに喜んで欲しい、ハッピーになって欲しいクルマというストレートな気持ちが込められている。今後のスズキの軽にとっても大きな影響を与える一台になっていくはずだ。

スズキ ワゴンRスマイル ハイブリッドX(CVT)
■全長×全幅×全高:3395×1475×1695mm
■ホイールベース:2460mm
■車両重量:870kg
■エンジン:直3DOHC
■総排気量:657cc
■エンジン最高出力:49ps/6500rpm
■エンジン最大トルク:5.9kgm/5000rpm
■モーター最高出力:2.6ps/1500rpm
■モーター最大トルク:4.1kgm/100rpm
■サスペンション前/後:ストラット/トーションビーム
■ブレーキ前・後:ディスク/ドラム
■タイヤ前後:155/65R14
■新車価格:129万6900円-171万6000円(全グレード)
執筆者プロフィール:大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。