新車試乗レポート
更新日:2020.06.10 / 掲載日:2020.03.19

【試乗レポート ホンダ フィット】新型はシンプルで親しみやすい日常に根ざしたクルマ

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス

 これってなんだか原点回帰。
 新型フィットに乗って、そんなことを思った。なんだか肩の力が抜けていて、だけど居心地がよくて、便利で、日常のパートナーとして理想的な存在に進化している。
 いままでのフィットって、初代に対して2代目、2代目に対して3代目はとても頑張っていた。空間は広く、走りはしっかりと、それでいて燃費もよくする。数値を引き上げることが、進化だったのだ。
 「だけど、それがクルマの進化なのだろうか。オーナーを幸せにするのだろうか?」
 新型フィットの開発責任者を務めた田中健樹さんはまず、そんな数値ありきのクルマ作りを疑うことから開発をスタートしたという。そんななかで、開発のヒントになったのが「ホテルのタオル」だったという。シンプルで、程よい柔らかさで、吸水性が高く、なんといっても心地いい。生活を豊かにしてくれる。そんな“心地よさ”を求めて、新しいフィットは開発されたのだそうだ。
 その心地よさを理解することが、新型フィットを知る近道となるだろう。

柴犬をモチーフにした顔つきが象徴する親しみやすさ

 ……そんな考え方を知っても、エクステリアは方向性が大きく変わったことにはびっくりした。先代のフィットはシャープな面やエッジを使って立派に見えることや高級感を重視していたように思える。しかし、担当デザイナーいわく「柴犬がモチーフ(柴犬をイメージしたデザインというわけではなく、柴犬のような人懐っこさを具現化にした)」という新型は丸っこくて愛嬌(あいきょう)がある。乗員を包み込んでくれるような優しい雰囲気だ。そしてシンプルである。
 好き嫌いは分かれると思うけれど、ボクはアリだと思う。

数値に表れない解放感や運転しやすさを重要視した

 さて、新型フィットの最大の驚きは、多くの人にとって乗り込んだ瞬間に訪れるだろう。前方を見ると、まるで小田急ロマンスカーのような開けた視界が広がっているのだ。その理由はAピラー。驚異的に細く、断面の太さはわずか55mm(先代は116mm)しかないのだ。フィットのようにAピラーの付け根が前へ出ているクルマは、Aピラーが開放感を妨げるだけでなく斜め前方の死角も作って、右折時などにストレスの原因となる。新型フィットはそれを排除し、心地よく運転しようというのだ。
 ちなみにこの細いAピラーは強度を保つ構造にはなっていない。あくまでガラスを支えているだけである。では衝突時の安全性はどうしているかといえば、「Aダッシュピラー」と呼ばれる、視界の邪魔になりにくいフロントドア開口部直前の柱を太くして対応している。「解放感」や「運転しやすさ」といった、数値には表れにくい特徴が新型フィットの神髄なのだ。

 解放感といえば、インパネも解放感に満ちている。インパネが逆L字型にドライバーを囲むようなドライバーオリエンテッドな空間だった先代から一変。上下が薄く、上面をフラットにしたインパネはあえての2本スポークとしたハンドルと合わせてスッキリとしていて開放的。「BASIC」を除き表面にソフトパッドを張っているから触感も質感もいいし、またメーターは7インチのフル液晶だけど速度を大きく表示するなど見やすさを徹底追及する姿勢に好感が持てる。

「心地よさ」を求め新規開発したシートは座り心地良好

 シートの狙いも「心地よさ」だ。フロントシートは、誇張なしにソファーのようにやわらかい座り心地。姿勢保持性を狙って腰椎から骨盤までを樹脂のマットで支える構造としつつ、座面のパッドは厚みを先代比30mmも増やすとともに硬度を下げて柔らかい座り心地を実現しているのだ。
 リヤシートも同様に、パッドを24mm厚くするいっぽうで柔らかくしている。歴代フィットの美点である空間が広さをキープしているのはいうまでもないだろう。

 そんな快適なシートとともに、乗員を幸せにしてくれると感じたのが乗り心地だ。高いボディ剛性を土台に、しなやかに動くサスペンションとフラット感を保つ味付けのおかげで快適。道路の段差を越えた後でも乗員に伝わる衝撃が巧みに抑えられているうえに、車体の上下動も少ないのがいい。

オススメは2モーター方式に生まれ変わったハイブリッド

 ところで、新型フィットには「ハイブリッド(エンジン+モーター)」と「ガソリン(純粋なエンジン車)」の2タイプがあり、主力が前者なのは先代と一緒だ。しかし、ハイブリッドの仕掛けは刷新。先代まではエンジンが主体でモーターはサポート役に過ぎなかったが、新型では力強いモーターが駆動力を生み出す主役を担い、エンジンは発電機に徹している(モーター駆動の効率が落ちる高速度領域を除く)。そのため走行フィーリングは従来のガソリン車とは大きく異なり、電気自動車に近い感覚だ。
 静粛性も、加速の心地よさも、爽快感も、そして加速性能もガソリン車に勝っている。40~50万円ほどあるハイブリッドとガソリン車の価格差に納得できるのなら、ハイブリッドが断然オススメだ(幅広い免税/減税措置や手放すときの下取り価格まで考えれば実質的な価格さはさらに狭まる)。
 もちろんガソリン車も、制御が巧みなCVTのおかげもあってフィーリングは悪くない。存在を主張するというよりは、縁の下の力持ちに徹して快適性をサポートするような印象だ。質実剛健という観点からみると、ガソリン車を選ぶ意味は十分にある。

全車速に対応するACCなど充実した運転支援装備も採用

左から「HOME」、「NESS」、「CROSSTAR」、「LUXE」

 グレードはシンプルな「BASIC(ベーシック)」から、快適装備が加わった「HOME(ホーム)」、カラフルなスニーカーのようなコーディネートの「NESS(ネス)」、歴代フィット初の本革シートを備える上級装備の「LUXE(リュクス)」、そしてクロスオーバーSUVテイストの「CROSSTAR(クロスター)」をラインアップ。いずれもハイブリッドとガソリン車が選べ、駆動方式もFFと4WDを選択可能だ。スポーティ派にとっては「RS」やMTの追加も期待したいところだが、残念ながら現時点ではそれらの見込みはなさそうだ。
 個人的には今どきのトレンドを反映した「CROSSTAR」が気になるところ。それは単にファッション的な部分だけでなく、車体をリフトアップしたことでわずか(HOMEに比べて30mm)ながら着座位置が高くなり、その分乗り降りが楽になっているからで、それは「心地よさ」にプラス要素なのだから。

 そうそう、ライバルに比べるとパーキングブレーキが電動式になっているのは大きなポイントだ。電動パーキングブレーキは足踏み式やサイドレバー式と違って軽い力で誰でも確実にブレーキを作動させることができ、ごくまれに力の弱い人に発生する「パーキングブレーキが戻せない」というアクシデントも回避できる。
 さらに、そのおかげでACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール=高速道路走行時にクルマ自ら速度を自動調整してくれる仕掛け)も高性能。ライバルのトヨタ「ヤリス」では車速が低くなると自動解除、マツダ「マツダ2」は停止まで面倒を見るけど停止保持はしないが、フィットは渋滞時の停止保持までしてくれるのも大きな違いだ。高速道路の渋滞を移動する機会が多いドライバーにとって、この差はかなり大きい。

 2001年にデビューした初代フィットは、使いやすいサイズながら広い室内が自慢で、高級感とか立派さではなくシンプルで親しみやすいキャラクターだった。日常に根差したクルマだったのだ。
 柴犬のように親しみやすいデザインとなり、インテリアから走りや快適性まで心地よさを徹底追及した新型を知れば知るほど、そんな初代へ原点回帰したように思えるのはやはり気のせいではないだろう。


ホンダ フィット e:HEV LUXE(電気式CVT)

全長×全幅×全高 3995×1695×1540mm
ホイールベース 2530mm
車両重量 1200kg
エンジン 直4DOHC+モーター
総排気量 1496cc
エンジン最高出力 98ps/5600-6400rpm
エンジン最大トルク 13.0kgm/4500-5000rpm
モーター最高出力 109ps/3500-8000rpm
モーター最大トルク 25.8kgm/0-3000rpm
サスペンション前/後 車軸式/トーション・バー式
タイヤ前後 185/55R16





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グーネットマガジン編集部

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