新車試乗レポート
更新日:2019.07.25 / 掲載日:2019.07.22

【試乗レポート・トヨタ スープラ】復活したスープラは世界のライバルと互角に競える本物のスポ

スープラ RZ走行イメージ

スープラ RZは6気筒ターボエンジンを搭載する本格スポーツモデル

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス

 いまどきのスポーツカービジネスは厳しい。
 大きな理由はふたつあり、ひとつが欧州における規制強化だ。自動車メーカーが販売する全車種の平均燃費(二酸化炭素排出量)が基準を超えると莫大な罰金を払う必要がある燃費規制、そしてタイヤは発生する音までも含める厳しい騒音(通過音)規制によって高性能車は縛りが厳しくなるばかり。フェラーリやランボルギーニですら「これ以上の高出力エンジンを作るのが難しいどころか、(規制が年々強化されるので)現状のパワーを維持するのも厳しい」とコメントするほどだ。スポーツカーの開発においては昨今、規制をクリアするために、これまでと比べ物にならないほど莫大は開発費用が掛かるのである。
 もうひとつの理由は、スポーツカーが売れなくなっているから。スーパーカーやハイパワーカーなどの少量生産車は(販売予定数に対して)一定の需要があるが、より多く販売しないと利益にならない1000万円を下まわるスポーツカーの需要はかつてに比べて激減。開発費用がかさむうえに販売台数が見込めないのであれば、ビジネスとしてかなり難しいという状況だ。
 メルセデス・ベンツがオープンスポーツカーのSLCを廃止し、アウディが「TTの次期型はない」と宣言する裏にはそんな事情がある。乱暴に言ってしまえば、新型にバトンタッチせず幕を下ろすのは商売だから仕方ない。

  • RZ フロント正面イメージ

  • RZ リア正面イメージ

 そんななか、トヨタはスポーツカー「スープラ」を17年ぶりに復活させた。スポーツカー冬の時代に、「スポーツカーはクルマの文化だから」とあえてスポーツカーを復活させたトヨタにまずは強い決意を感じるのは、きっとボクだけではないだろう。
 新型スープラがトヨタ単独ではなくBMWとの協業で生まれたことについて口の悪い人は「そんなのスープラじゃない」と言い、その気持ちはわからなくもない。しかし、かといって新しいスープラが「ない」よりは、他メーカーとのコラボであっても「ある」ほうが絶対にいい。この時代にトヨタがスポーツカー専用プラットフォームのスープラを作り出せたことは、もはや奇跡と言っていいだろう。

商品企画、デザイン、走りの味付けはトヨタ。設計と開発はBMWが担当

RZ 真横イメージ

新型スープラ開発にあたり、トヨタはホイールベースとトレッドの比率にこだわった

 というわけで、新型スープラそのものについて紹介するよりも先に、まずはあの話をしよう。BMWがどう関わって新型スープラが生まれたかである。
 商品企画、デザイン、そして走りの仕立てはトヨタ側がおこなっている。エンジン、トランスミッション、デフ、そしてサスペンションの味付けもトヨタ側に決定権があった。いっぽうBMWは、設計と開発実務を担当。「スープラがBMW製」という言葉は嘘とは言えないが、かといって正確な説明ではない。
 同じ素材を使って違うシェフが違う料理を作った。BMW側の兄弟車である「Z4」とスープラの関係は、料理に例えてそうイメージすればわかりやすい。

 開発の初期段階においてBMWとトヨタは、基本メカニズムを共用してお互いのスポーツカーを開発することで同意し、ホイールベースやトレッドも共通とすることにした。Z4が従来モデルに対して幅が広くなりプロポーションが大幅に変わったのは、トヨタがスポーツカーを作るにあたって理想としたホイールベースとトレッドの値と共通化させたからだ。しかし、基本要素を決めた後にZ4とスープラの開発チームは別れ、お互いにまったく別のクルマを作り上げた。
 スープラに比べると手ごろなスポーツカーのトヨタ「86」もSUBARUとのコラボだったが、86とスバル側の兄弟車「BRZ」ではできるだけ部品を共通化させるという命題があった。しかしスープラの開発に関しては「『共通できる部分があれば共用する』という認識で、おなじ共同開発であっても86とは意味合いがまったく違った」と86に続いてスープラの開発もまとめた開発責任者の多田哲哉氏は説明する。
 そんなスープラの生産を担うのは、トヨタの工場でもなければBMWの工場でもなく、作られるのはマグナシュタイアというオーストラリアにある会社。大手メーカーから生産を請け負う独立系の製造会社で、そこが選ばれた理由は小まわりが利き、少量生産のクルマを効率よく作るノウハウを持っているから。メルセデス・ベンツGクラスやジャガーIペイスなどもここで作られている。
 ちなみに、トヨタ車が自社でも提携先でもない企業の工場で作られるのははじめてのことだ。

新型スープラは異例づくし。従来のトヨタ基準を超えてスポーツカーとしての本質を磨いた

  • フロントバンパー

  • リアバンパー マフラー

 スープラについてもうひとつ興味深いことは、トヨタ基準を外れている部分があること。自動車メーカーは法律への適合とは別に、社内基準を設けてクルマを使う上で不都合が生じないように配慮している。トヨタにもたくさんの基準があるのだが、新型スープラはそこに目をつぶっている部分が存在するのだ。
 たとえばドア開口部の下にあるサイドシル。乗り降りの際に跨ぐここは、できるだけ楽に乗り降りできるように細く作り、極端に太くすることは許されない。通常ならば。しかしスープラでは信じられないほど太い。BMW側も「本気か?」と驚いたという。これはハイパワーを支える強靭な車体をできるだけ軽い設計で実現するためである。その弊害として乗り降りしづらいが「スポーツカーとして大切なことはどちらかと考えれば、答えは明らか」と多田氏はいう。
 また、最低地上高が120mmにも満たないのは、国産車としては異例である。車体下部の位置が低いのだ。そのため、バンパーの下などは擦りやすく、段差を乗り越える際や駐車場の輪留めなどに接触しないように気を遣うシーンがある。これも実用性を考えれば“不都合”なのだが、多田氏は「低く構えた車体は重心が下がるので運動性能も高まるし、見た目もカッコよくなる。カスタマイズを楽しむ86のユーザーを見て、スポーツカーに乗る人にはそこを理解してもらえることがわかった」という。
 ちなみに新型スープラは、フロントバンパー下の先端よりも少し後方に樹脂の出っ張りがある。スロープなどでは外からは見えないこの部分が最初に路面と接触し、「これ以上はあぶない」ことをドライバーに教えてくれるのだ。これは、これまでのトヨタ車にはなかったアイデア。スーパーカー(たとえばランボルギーニはバンパー下の柔らかいラバー部分が最初に接触して車体への損傷を防ぐ)などで使われている小技である。
 じつは新型スープラの発売前に試作のテスト車両が日本の公道を走っていたが、その目的は走行性能などを確認するというよりも、低い最低地上高が日常生活でどのくらい気になるかをチェックするのがメインだったそうだ。だから通常は試作車での公道テスト中にほぼ立ち寄ることのないコンビニなどにも積極的に出向き、実用性を試したという。

エンジン制御は厳しい環境規制の影響を受けたBMW Z4よりも「快感重視」のスポーティーさを重視したセッティング

インパネイメージ

 さらにいえば、開発中にはあのBMWからも「トヨタはいいなあ」といわれたこともある。それは燃費に関してだ。前出の通り欧州ではメーカー単位で平均燃費を基準内に収める必要があるが、ハイブリッドカーを多く販売しているトヨタは絶対数の少ないスポーツカーで燃費が悪くても問題ない。多田氏は開発の初期段階から「燃費なんか気にするな」と開発チームに伝えていた。しかしBMWはそうはいかず、多少なりとも燃費を重視したパワートレインの制御になっている。エンジンの制御は両車で異なるが、とある海外メディアにおける性能比較テストで「スープラのほうがZ4よりも加速が速い」という結果になった理由は、そのあたりにもある。
 ちなみにスープラの6気筒エンジン搭載車はシフトアップや減速などエンジン回転数が急激に落ちるシーンで、マフラーから「バババッ」と破裂音が聞こえる。まるでレーシングカーやラリーマシンのような迫力溢れるこの音について多田氏は「音のために燃料を拭いているんですよ。もうガソリンの無駄遣い。だけど、楽しいでしょ?」とニヤリと笑う。スープラはエコカーじゃない。だから気持ちよければそれでいいのだ。

直6エンジンの搭載はBMWとの共同開発がもたらした成果のひとつ

エンジンルーム

 ところで、BMWとの提携の最大の賜物といえるのは、直6エンジンに他ならない。トヨタにはすでに直6エンジンがなく、もし新たにトヨタ単独で作ろうとすれば単に「スープラのデビューが遅くなった」というだけでなく、新型スープラ自体が世に出なかったと思われる。今後さらに厳しくなる環境規制に対応せざるを得ず、数年後のタイミングで発売したとしても「牙を抜かれたスープラ」になる可能性が高いからだ。そんなスープラしか作れないとしたら、トヨタはGOを出さなかっただろう。
 いっぽうで、スープラの共同開発はBMWにとっても渡りに船だった。Z4の開発費を下げることができたからだ。もし共同開発の話がなければ、Z4はメルセデス・ベンツSLCやアウディTTと同じ運命をたどっていたに違いない。
 さらには、スープラと共同開発したことでZ4はこれまでの気軽なオープンカーから本格スポーツカーへと昇格した。多田氏はBMWのスタッフから「はじめてスポーツカーを作ることができてうれしい」と告げられたという。
 「BMWにはたくさんのスポーツカーがあるじゃないか」とその真意を尋ねたら「Mはセダンやクーペをベースにしたスポーツモデルに過ぎない。従来のZ4も本格スポーツカーではなかった。BMWがこれまで作ったスポーツカーは「M1」だけで、それを作ったエンジニアはもう会社に残っていない。だから新型Z4はいまのBMWにとって初めてのスポーツカーなのだ」と返されたという。
 スープラとの共同開発によって新しいZ4が生まれたこと。そしてプロポーションが従来型から大きく変わったことは、BMWにもさまざまなメリットをもたらしているのだ。

 復活したスープラとZ4がベンチマークとしたのは、ポルシェの718ケイマン&ボクスター。「トヨタがポルシェを?」とあざ笑う人もいるかもしれないが、それはハッタリでないことは、世界中の自動車メディアのロードインプレッションが伝えている。「フィーリングも速さも、ケイマンに追い付いている」と多くの記事で語られているし、実際に運転してみても互角以上の実力だ。
 開発責任者の多田氏は公式コメントとしては「もうライバルと数字で争うのはやめた」という。しかしそのいっぽうで「とはいえ、気にならないといえば嘘になりますよね。速さでもハンドリングでも、ライバルを超えたのは開発の終盤でした。苦労しました。やっぱりうれしかったですね」と、こっそり教えてくれた。

 新しいスープラは未来を見据えたスポーツカーとしてモーターを組み合わせた電動車にする方向も選択肢としてはあっただろう。BMWでいえばi8のような方向だ。なぜそうしなかったのだろうか? そんな疑問を多田氏にぶつけてみたところ、答えは「それだと、みんなが欲しがるスープラにならないから」と実に切れ味のいい返答だ。
いっぽうで「ガソリンエンジンだけで走れるスポーツカーはこの世代で最後だろう」ともいう。年々厳しくなるばかりの騒音規制や燃費規制。スープラの燃費を気にしないトヨタといえども、さすがに騒音規制はどうしようもない。数年後にハイパフォーマンスカーがそれらをクリアするには、エンジンだけでは対応できずモーターの助けが不可欠となるのは間違いないのだ。

直6搭載のRZは吹け上がり、レスポンス、サウンドともに官能性抜群!

RZの走行イメージ

 新しいスープラの6気筒エンジン搭載モデル「RZ」で峠道を走ると、誰もがそう感じることだろう。BMW謹製の3.0L 直列6気筒エンジンのフィーリングはどう控えめに表現しても素晴らしくて感動的だ。気持ちのいい拭け上がり。鋭いレスポンス。湧き出すパワー。そして響き渡る快音。もちろん絶対的なパワーも力強いのだが、それよりも五感を刺激する気持ちよさに心を奪われる。気を抜くと快楽におぼれそうになってしまうほどだ。
 それでいて、ハンドリングも素晴らしい。ショートホイールベースかつワイドなトレッドのおかげで、右へ左へと曲がるタイトな峠道もスイスイと曲がっていく。重いエンジンをフロントに積んでいるのが信じられないほどだ。
いっぽうで、優れた電子制御システムの助けもあってスタビリティもしっかりと保たれている。
 ホイールベースやトレッドなどの基本要素で曲がりやすい設計とし、安定性は電子制御でフォローする。それが運動性能を極めるスポーツカーの作り方の昨今の流れだが、スープラもまたその方程式に則り造られたクルマだ。
 そして、そんな運動性能からは信じられないほどに乗り心地がいいことにも驚かされた。サスペンションをしっかりと動かすことができる高剛性ボディのメリットなのだろう。

4気筒モデルはフロントの重い直6モデルに比べてトータルバランスのよさが魅力

RZ後ろからの走行イメージ

 そして、新しいスープラでのトピックのひとつは、4気筒エンジンを積んでいることである。歴代の市販モデルとしてははじめてのことで、現時点では日本専用の仕立てだ。
 4気筒モデルにはハイパワー版とローパワー版が存在。「SZ-R」と呼ぶ前者は258ps、「SZ」と名付けられた後者は197psを発生する。実は、4気筒には4気筒の良さもある。それは重量バランスがいいこと。エンジンが軽いことで車両単体での前後重量配分はグッドハンドリングカーの黄金比ともいえる50:50(「RZ」はドライバーが乗った状態で50:50)を実現し、6気筒よりクイックに曲がり始めるのだ。日本の峠道なら、こちらのほうが楽しく走れる。
 パワーは十分。フィーリングや音など官能性において6気筒ほどの感動はないが、峠道を楽しく走れる。

 ハイパワー版とローパワー版を乗り比べると、絶対的な力だけでなく高回転の盛り上がりが違う。ハイパワー版のほうが最後のひと盛り上がりがある。音も豪快だ。だから4気筒を選ぶなら「SZ-R」にしたほうが後悔は少ないだろう。それでも「RZ」に比べると100万円も安い。

「SZ-R」と「SZ」の違いは装備の充実度にあり

SZの走行

スープラ SZ

 ところで、4気筒同士でも「SZ-R」と「SZ」で100万円も違うのはどうしてだろうか。それはパワーだけでなく装備の充実度が異なるからだ。ホイールやタイヤサイズも違うし、電動調整式のシートも「SZ」には非採用。さらには電子制御のデフギヤや電子制御サスペンションといった走りのメカニズムもハイパワー版だけの採用となる。
 だから、標準状態で走りを楽しむなら「SZ-R」がいい。しかし、購入後にサーキット走行向けなどにチューニングするというのなら「SZ」も悪くない。市販のサスペンションや機械式LSDといった高度な走りのパーツへ交換すればいいからだ。出力は制御コンピューターを書き換えることで「SZ-R」と同等かそれ以上へ引き上げられるのだから心配はいらない。

新型スープラにMTモデルは登場するのか!?

RZ リアイメージ

 声を大にして言いたいのは、世界最高峰のライバルと互角に戦えるスポーツカーだということである。走行性能は素晴らしいし、特に6気筒モデルは官能性も突き抜けている。
 たしかに値段(「RZ」で680万円)は高いけれど、それに見合う価値はある。むしろ、兄弟車のZ4より155万円も安く、さらに同門であるレクサス「RC」のトップスポーツグレードよりも価格設定が低いことを考えれば、バーゲンプライスと言っても差し支えない価格設定だ。

 ところで、MTは登場するのか? 開発責任者の多田氏は「する」とも「しない」とも断言しないが、「テストをした」というコメントはしている。同じパワートレインを積むZ4(の4気筒モデル)にはMTが用意されているので、メカニズム的には何の問題もないはずだ。トヨタは現在、「本当に需要があるのか?」という精査をおこなっている真っ最中と思われ、おそらく1年後の年次改良などそう遠くないうちに追加されるに違いない。


トヨタ スープラ RZ(8速AT)

全長×全幅×全高 4380×1865×1290mm
ホイールベース 2470mm
トレッド前・後 1595/1590mm
車両重量 1520kg
エンジン 直6DOHCターボ
総排気量 2997cc
最高出力 340ps/5000rpm
最大トルク 51.0kgm/1600-4500rpm
サスペンション前/後 ストラット/マルチリンク
ブレーキ前後 Vディスク
タイヤ前後 255/35ZR19・275/35ZR19





 
  • RZ フロントイメージ

  • RZ テールランプ

  • フロントタイヤとホイール 車高イメージ

  • サイドミラー

  • シート

  • 液晶メーター

  • ナビゲーションシステム

  • スープラのラゲッジルーム

  • SZのフロントイメージ

  • SZのリアイメージ

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