新車試乗レポート
更新日:2019.05.30 / 掲載日:2019.05.27

【試乗レポート 三菱 eKワゴン/eKクロス】見た目はやんちゃ、でも中身はしっかり真面目

「eKクロス」(左)、「eKワゴン」(右)

文と写真●ユニット・コンパス

 これはおもしろい。三菱の新しい軽自動車「eKクロス」は、実車を見た瞬間、思わず乗ってみたくなるクルマだ。立ち位置としては新型「eKワゴン」のカスタム系グレードだが、ルックスが与える印象がまるで異なるため、独立したモデルのように感じさせるのが凄い。販売のメインはシンプルでプレーンなデザインに徹した万人向けの「eKワゴン」だが、三菱得意のSUVテイストで攻めた「eKクロス」の存在は、シリーズ全体にいい影響を及ぼすだろう。

6エアバッグの標準装備化など安全装備を充実。後席と荷室が広くなった

eKワゴン G

 「eKワゴン」は、軽自動車のなかでも居住性と走りのバランスに優れる軽トールワゴンと呼ばれるジャンルに属する。言わずと知れたワゴンRやムーヴといった軽自動車のメインストリームだ。両側スライドドアを備える「eKスペース」のモデルチェンジはもう少し後になりそうだが、「eKワゴン」は今後登場するであろう派生モデルのベースになるわけだから、その実力は気になるところだ。

 新型は何が変わったのか。フルモデルチェンジと言いながら、エンジンまたはプラットフォームを引き継ぐケースも少なくないなかで、新型「eKワゴン」はまったくのオールニュー。走りの資質を決めるプラットフォームも新しいし、走りやすさに直結するパワートレインも新規開発、そして電子システムも日産の普通車と同等クラスにアップグレードしたことで、全方位でのレベルアップを目論んだ。メカニズムを刷新したことで、空間設計も新しくすることができた。簡単にまとめると、機械を小さくして人間のスペースを広げた。なかでも恩恵を受けたのは後席で、膝前の空間は高級セダンと同等だという。

三菱初の高速道同一車線運転支援技術「MI-PILOT」を採用

 「eKワゴン」、「eKクロス」個別の紹介に入る前に、一気に充実した装備面についてお伝えしよう。 まず、もっとも注目したいのが、「MI-PILOT(マイパイロット)」と呼ばれる高速道路同一車線運転支援技術。内容は日産「プロパイロット」と同じもので三菱としては初の装備となる。自動運転技術のレベル2に相当する内容で、渋滞では停止状態からの再スタートにも対応。先行車両との車間距離をキープするのに加えて、道路の白線を認識して車線中央を維持してくれるため、ステアリング操作に必要な力が減り、ドライバーの負担は大幅に低減される。まさに共同開発のシナジー効果だ。
 続いて三菱らしさを感じさせる装備が「グリップコントロール」。滑りやすい路面での走破性を高めるテクノロジーで、2WDを含めて全モデルに標準装備。機械式LSDの機能を電子制御で再現したもので、スリップしているタイヤをブレーキ制御しつつ、グリップしているタイヤにより大きな駆動力を加えることでクルマを前に進める。
 そして駐車サポート装備である「マルチアラウンドモニター」と「デジタルルームミラー」(軽自動車初)の採用。デジタルルームミラーのメリットは、人や荷物で視界が遮られている状況や夜間、雨天といった悪天候でも後方確認を可能にしてくれるところ。さらに、衝突被害軽減ブレーキを核とする予防安全技術「e-Assist」や6エアバッグを標準装備することと合わせて、安全装備に関しては小型車と同等以上の内容を誇っている。

ベーシックなeKワゴンでもインテリアの雰囲気は明るく、清潔感がある

 ではおまちかねの試乗インプレッション。まずはベースモデルの「eKワゴン」から。グレードは2種類あるうちの上級グレード「G(2WD)」(137万7000円から)で、メーカーオプションの「先進快適パッケージ」、「先進安全パッケージ」とディーラーオプションであるオリジナル9型ナビゲーションなどを装着しており、車両金額はおよそ180万円といったところ。「先進快適パッケージ」には「MI-PILOT」、電動パーキングブレーキ、ステアリングスイッチが、「先進安全パッケージ」にはデジタルルームミラーとマルチアラウンドモニターが含まれる。
 室内を見てまず感じたのが質感の高さ。上級グレードという側面もあるが、もともとのデザインがすっきりとシンプルにまとめられており、明るい色使いも手伝って好印象。インテリアは日産デイズと基本的に同じで、色使いやファブリックの生地選びが三菱のオリジナル。タッチ操作式のエアコンパネルなどを含め、グループ企業で共同開発したコストメリットが感じられた。

 足元空間が大きく広がったという後席にも座ってみたが、たしかに広い。前席に成人男性が座っていても足が組めるほど。これならチャイルドシートを装着しても無理なく子供を乗り降りさせられるだろう。また、後席の背もたれにはスライド機構が備わっており、荷室の空間を広くしたい場合には、荷室側から片手で簡単に動かせる。このスライド機構により、後席を一番前にスライドした状態では、クラスNo.1の荷室長が出現。この時に大きな力が必要ないのもいい。リヤシートをたたむのを面倒に感じる人でも、これならきっと活用するはず。
 エンジンは、「eKワゴン」は自然吸気のみで、2WDと4WDが選択可能。グレードによる走行性能の差はない。 パワートレインを一新したというだけあって、ノンターボでも納得の走り。とくに良かったのがステアリングのフィーリングで、軽さはあるのにスカスカではなく、きちんとタイヤの手応えが感じられた。これは「MI-PILOT」採用の副産物で、車線の中央を正確に走らせるために高価なブラシレスモーターを使った効果なのだとか。
 高速道路では「MI-PILOT」をチェック。試乗を行なった幕張周辺の高速道路であれば十分にコーナーをトレースしたし、先行車両との距離の取り方も上手だった。これも日産とのアライアンスがプラスに働いたところだ。だが、トルクに劣るNAエンジンでは前のクルマが加速してもなかなかついていけず、しばしば置いていかれてかれるケースが見受けられたのは指摘したい。

「eKクロス」はデリカD:5譲りのSUVルックで登場

eKクロス T

 そして「eKクロス」について。ルックスはまさしく「スモールデリカD:5」で、ダイナミックシールドのデザインコンセプトが上手に再現されている。よく見れば専用部品はそれほど多くなく、ブラック仕上げのフェンダーもステッカーなのだが(プラスチック部品では全幅が軽自動車の規格をはみ出すため)、先進的で迫力のあるマスクだけでも十分に所有欲をくすぐってくれる。
 グレードは、ベーシックな「M」(141万4800円から)、上級グレードの「G」(155万5200円から)、そして「eKクロス」専用であるターボエンジン搭載の「T」(163万6200円から)という3タイプで、それぞれに4WDが用意される。また、全モデルにマイルドハイブリッドが採用されているのも「eKワゴン」との違いだ。試乗したのは「T(4WD)」と「G(2WD)」。

 最初に乗ったのはターボ車の「T」。イメージカラーにもなっているサンドイエローメタリックのボディカラーと相まって、駐車場での存在感もなかなかのものだった。さらにインテリアには、メーカーオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」が装着されており、ダッシュボードやシートの一部がレザー調仕上げになっている。これはダッシュボードの一部にステッチ風の装飾が施される凝ったもので、手触りもしっとりとして「eKワゴン」から比べてもワンランク上の雰囲気。それもそのはず、「先進快適パッケージ」、「先進安全パッケージ」などのオプションを盛り込むと、車両金額は230万円近くに達する。それでも、小型車であるデリカD:2(182万1960円から229万9320円)と比べても、「eKクロス」のほうが質感は高く感じられるのだから、軽自動車にこだわりを持つならアリだろう。

ターボ仕様は「これ1台で充分」と思わせる快適さ

 走らせると流石にターボだけあって走りに力強さがある。発進時にはモーターアシストが働くおかげでアクセル操作に対する反応も良好。高速道路にステージを移しても、合流での加速、巡行時のエンジン音も十分に抑えられている。「MI-PILOT」で先行車両に追従する際の追従性もNAエンジン仕様より自然だ。街中での走りもNAより全般的にゆとりがあり、ライバルと比較してもトップクラスの動力性能と言い切れる。やはり乗り比べてしまうと、ターボ仕様の魅力は大きい。
 最後に試乗したのが、NA+マイルドハイブリッドの「G」。これが意外によかった。街中でのストップ&ゴーでは明らかにモーターアシストの恩恵を感じられ、交差点での右折のような瞬発力がほしいシチュエーションでも怖さがない。結果として同じNAでも「eKワゴン」よりも室内は静かに保たれており、アクセルを急に深く踏み込むような運転をしなければ後席とも声を張り上げずに会話ができる。高速道路を頻繁に使うのでなければ、「eKクロス」のNA仕様は大いにアリだ。

「全部盛り」にすると高価格だが、マイルドHV付きNAはなかなかの高コスパ

 日産と三菱のアライアンスによって基本性能と装備を大幅にレベルアップした新型「eKワゴン」。そのなかでも三菱らしいキャラクター性を獲得した「eKクロス」は魅力的な商品に仕上がっていた。軽自動車全体のレベルが高くなり、小型車との線引きが価格的にもクロスオーバーしていくなかで、所有する満足度にこだわった「eKクロス」は新しいジャンルを切り開くのかもしれない。


三菱 eKクロス T(4WD・CVT)

全長×全幅×全高 3395×1475×1640mm
ホイールベース 2495mm
トレッド前/後 1300/1290mm
車両重量 920kg
エンジン 直3DOHCターボ
総排気量 659cc
最高出力 64ps/5600rpm
最大トルク 10.2kgm/2400-4000rpm
サスペンション前/後 ストラット/3リンク
ブレーキ前/後 Vディスク/ドラム
タイヤ前後 165/55R15




この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

グーネットマガジン編集部

ライタープロフィール

グーネットマガジン編集部

1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。

また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
誌面が主の時代から培った、豊富な中古車情報や中古車購入の知識・車そのものの知見を活かして、皆さまの快適なカーライフをサポートさせて頂きます。

この人の記事を読む

1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
グーネットでは軽自動車から高級輸入車まで中古車購入に関する、おすすめの情報を幅広く掲載しておりますので、皆さまの中古車の選び方や購入に関する不安を長年の実績や知見で解消していきたいと考えております。

また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
誌面が主の時代から培った、豊富な中古車情報や中古車購入の知識・車そのものの知見を活かして、皆さまの快適なカーライフをサポートさせて頂きます。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ