新車試乗レポート
更新日:2018.11.01 / 掲載日:2018.10.31
新型 CX-5 vs CX-8 比較&試乗

最近のマツダ車は、最新=最良をキーワードに毎年のように進化を続けているが、この秋もCX-5とCX-8が新モデルに生まれ変わった。マツダ自身は商品改良とアナウンスするが、その内容はなかなかの変貌ぶり。新型となった両モデルの実力に迫ってみたい。
●文:川島 茂夫 ●写真:奥隅圭之
マツダの最新技術が注がれた出し惜しみ無しの最新仕様
最近のマツダ車は、出し惜しみせずに、商品改良に合わせて、開発した新技術を水平展開している。既存ユーザーにしてみれば購入モデルが旧型になりやすい点は悩ましいが、逆に言えばどのモデルを選んでも、常にマツダの最新仕様を購入できるということ。これから購入する立場からすれば、十分すぎるほど魅力的だ。
この戦略を採用しているのは、ハードウェアの多様化が難しいこともあるが、何よりもメカニズム&機能の共用化による、マツダ車全体の性能向上を狙っていることが大きい。さらにハードウェアの設計変更を行わないで、性能アップを図る「知恵」を活かした改良もマツダ車の特徴になっている。
今回の商品改良では、CX‐5とCX‐8に2・5Lターボ車が追加された。ハードウェアの構成は先に投入されたCX‐9などの北米専売モデルとまったく同じだが、制御に手を加えることで性能向上を狙っている。さらに従来型に搭載されていたGVCも進化型の「GVCプラス」にアップデートされている。
新技術を積極的に用いて、価値を高める。今回のCX‐5とCX‐8にも、最近のマツダらしい開発哲学が注がれているようだ。
MAZDA CX-5 ●発売日:2018年10月11日 ●価格帯:257万400~387万7200円
MAZDA CX-8 ●発売日:2018年10月25日 ●価格帯:289万4400~446万400円
今回の改良ポイントは?
2.5Lターボ車を追加設定、パワートレーンバリエーションを強化
かねてから噂があった2.5L直4ターボユニットを両モデルに設定。より力強い走りを手に入れた。さらにCX-5にはXD・MT車、CX-8には2.5L直4NAユニットが追加されるなど、エンジンバリエーションが大幅に強化された。より巧みな車両制御を実現する「G-ベクタリング コントロール プラス」を採用
コーナー時にエンジン制御を巧みにコントロールすることで、心地よい走りを実現するG-ベクタリングコントロール。今回の改良で従来のエンジン制御システムにブレーキ制御も加わり、より自然な走りを手に入れた。
マツダコネクトがアップデートで「Apple CarPlay」&「Android Auto」に対応
従来のマツダコネクトにもスマートフォン接続による通信機能は備わっていたが、今回の改良で「Apple CarPlay」と「Android Auto」にも対応。スマホ純正マップを純正モニターに表示することができるようになった。内装の素材&意匠を一部変更、より上質なキャビン空間を実現
マツダは年次改良のたびに内装意匠にも細かな改良を加え質感向上に余念がないが、今回も一部仕様変更が施された。さらにCX-5には上級志向を強化した特別仕様車「Exclusive Mode」も投入されている。
試乗インプレッション
ターボ車のライバルは実はディーゼルターボ車
意外というか、ちょっと驚かされた。実用域の動力性能を重視するのは最新のターボ車ならば常套手段だが、車格に見合った2.5Lベースのターボならば、“高性能”を武器にするのではと予想していた。だが、見事に裏切られた。
ディーゼルターボの最大トルクには約3kg・mほど及ばないが、それでも2.5Lターボの最大トルクは42.8kg・mに達し、その発生回転数は2000回転になる。2000回転前後の豊かなトルクを活かした巡航ギヤの維持能力はかなり高い。さらに速度に応じたアップシフトを行うことで巡航回転数は1500~2000回転を維持してくれる。適度な穏やかな加速反応もあり、悠々としたドライブフィールが心地よい。
一方、全開加速ではメーター読みで5300回転ほどでアップシフトを行う。さらに5000回転を超えてしまうとけっこうなトルクダウンを感じる。レブリミットは6300回転とされているが、5300回転以上を使うにはマニュアルシフトかつアクセル踏み込みをキックダウンスイッチ前にしなければならない。この割り切りぶりには少々驚いてしまった。
2.5Lターボの運転感覚はディーゼルターボにかなり近い。エンジンフィールが軽く、音質が異なるのが主だった違いと言ってもいい。エンジニアに尋ねると、エンジン設計の狙いはゆとりある動力性能と、燃費のスウィートスポットの拡大であるという。そんな理由もあって、新型ターボには切れ味や伸びやかさといったスポーツテイストは希薄だ。その手の味わいを求めたいなら、この2.5Lターボは明らかに不向きだ。
CX‐8には2.5L・NA仕様も追加されたが、CX‐5とは異なり気筒休止機構は採用されていない。この選択となったのは、CX‐8の重い車重では気筒休止機構の効果も少ないという理由だ。またCX‐8のエントリーという位置付けを考えれば、価格面でも賢明な選択と言えよう。2.5L・NA車はターボ車と比べるとトルクの余裕のなさは隠しようもなく、同じように加減速させても使用回転域は1000回転くらい高まってしまう。ただ、エンジンフィールは最も滑らか。伸びのいい加速もあり、エントリー仕様の印象はない。駆動方式はFFに限定されるが、回し気味に走らせるのを心地良く感じるならば、むしろNA車の方が好ましいだろう。
ディーゼルのMT仕様は操作の楽しさも大きな見所
また今回の改良では、CX‐5のディーゼルターボ車に6速MTも追加された。最近のディーゼルターボ車は、許容回転数が高いモデルも多いが、高回転域の使いやすさはマツダがトップクラスだ。高回転域が使いやすいとMTのシフトワークはかなり楽になる。ちょっと速い加速をすれば1速/2速はすぐに4000回転を超える。この領域で反応が重いとスムーズにシフトするのが面倒になってしまう。その点、マツダのディーゼルターボのMTはそんな面倒な操作をしなくてもいい。しかも、トルクに余裕があるので余程の回転低下をさせなければダウンシフトなしで済ますこともできる。MTのシフトワークを楽しむには、マツダのディーゼルターボは最良と言ってもいい出来だ。
また、今回の改良の目玉の一つであるGVCプラスは、従来のGVCが持つ回頭反応遅れ解消を目的に、ステアリング戻し操舵時の収束性を高めていることが特徴。ワインディング路を想定したコースや急激なレーンチェンジで試してみたが、従来のGVCでは直線に復帰した瞬間に回頭運動の慣性で巻き込もうとする挙動を抑えるため一瞬の止め舵を入れる必要があったが、GVCプラスでは止め舵不要で穏やかに直進状態に復帰できる。高速の急車線変更での回頭慣性は蛇行の引き金になりやすい。GVCプラスはそういった危険の回避でも効果的と感じた。
豊かなトルクを活かした悠々な走りを楽しめる
CX-5 25T Exclusive Mode

2.5L・NAでは車格相応の動力性能ゆえに、ゆとりを求めればディーゼルターボ車の選択しか無かったが、2.5Lターボ車は同等のゆとりを得られる。ただし、実用走行に有効な回転域はディーゼルと大差なく、またターボらしい伸びやかさもない。エンジンフィールの良さを重視するユーザー向けの、上級モデルである。
●主要諸元(25T Exclusive Mode 2WD)
●全長×全幅×全高(mm):4545×1840×1690 ●ホイールベース(mm):2700 ●車両重量(kg):1620 ●パワートレーン:2488cc直4DOHCターボ(230PS/42.8kg・m) ●WLTCモード燃費:12.6km/L ●燃料タンク容量(L):56[レギュラー] ●最小回転半径(m):5.5 ●最低地上高(mm):210

レギュラーガソリン仕様ながらも230PS/4250rpm、42.8kg・m/ 2000rpmを発生。低中速域での出力特性と応答性を重視した仕様に仕上げられている。
車重のハンデの影響はあるがCX-8でも十分楽しめる
CX-8 25T L Package

CX-5に比べて車重が約200kg重いせいもあり、同じように走らせてもダウンシフトタイミングやアップシフト回転数が若干異なり、余力感も多少減少する。ただ、CX-8の車格には相応のゆとりがあり、ディーゼル車に負けず劣らずの悠々たるドライブフィールを示す。ディーゼル車のエンジンフィールに馴染めないユーザーにオススメだ。
●主要諸元(25T L Package 4WD 7人乗り)
●全長×全幅×全高(mm):4900×1840×1730 ●ホイールベース(mm):2930 ●車両重量(kg):1880 ●パワートレーン:2488cc直4DOHCターボ(230PS/42.8kg・m) ●WLTCモード燃費:12.0km/L ●燃料タンク容量(L):74[レギュラー] ●最小回転半径(m):5.8 ●最低地上高(mm):200
CX-8 25S PROACTIVE

ターボ車やディーゼル車のような回転を抑えてグイグイ加速する感覚はなく、比較的浅い踏み込みでダウンシフト。必然的にエンジン回転変化や常用回転域も高まるのだが、嫌な感じはしない。洗練された走行感覚も美点だ。
●主要諸元(25S PROACTIVE 7人乗り)
●全長×全幅×全高(mm):4900×1840×1730 ●ホイールベース(mm):2930 ●車両重量(kg):1830 ●パワートレーン:2488cc直4DOHC(190PS/25.7kg・m) ●WLTCモード燃費:12.4km/L ●燃料タンク容量(L):72[レギュラー] ●最小回転半径(m):5.8 ●最低地上高(mm):200

2.5L・NAエンジンは190PS/25.7kg・mを発揮。トルクはターボ車2台には及ばないが、NA特有のリニアな出力特性が魅力。CX-8の2.5L・NAには気筒休止機構は採用されていない。
CX-5 XD L Package(MT)

エンジン音などはディーゼル車を意識するが、レブリミットの5000回転までストレスなく回る高回転特性は、変速のアレンジ範囲と心地よさの両面でMTに適している。効率の面ではATには及ばないが、MTを楽しむには悪くない選択だ。
●主要諸元(XD L Package MT 2WD)
●全長×全幅×全高(mm):4545×1840×1690 ●ホイールベース(mm):2700 ●車両重量(kg):1620 ●パワートレーン:2188cc直4DOHCディーゼルターボ(190PS/45.9kg・m) ●WLTCモード燃費:19.4km/L ●燃料タンク容量(L):56[軽油] ●最小回転半径(m):5.5 ●最低地上高(mm):210

他のモデルにも採用されている「SKYACTIV-MT」の6速MTを搭載。豊かなトルクの美味しいところを取り出すには面白い選択だ。
注目メカニズム&装備
2.5Lターボの制御には次世代技術の考えも注がれる
2.5Lターボで特筆されるのはクールドEGRの使い方。EGRにより燃焼室周りを冷却し、燃料冷却による無駄な燃料消費を抑えるのが主目的である。3000回転以上の広い負荷域においてEGRを導入し、高回転域ほどEGRも多量になる。
もうひとつ興味深いのは空燃比が全域理論空燃比で制御されること。この場合の空燃比は吸気酸素量と燃料の比でEGRは含まれない。つまりEGR量が増えれば燃焼室内空気量と燃料量の比は希薄燃焼と同じことになり、希薄燃焼同様の熱効率向上も見込めるわけだ。少々拡大解釈気味だが、高回転高負荷域での大量EGRはマツダ次世代のスカイアクティブXとも共通し、同技術の部分導入とも考えられる。
高回転高負荷域での大量EGRが示すとおり、実用域の大トルクは狙っても高回転高出力は切り捨てという考え方であり、ダウンサイジングターボの中でも最も実用燃費を追求した設計である。
ターボの導入とCX‐8への2.5L・NA車の追加により、パワートレーンラインナップはCX‐5に2L・NA車が設定される以外は共通となった。ただし、2.5L・NAは、CX‐5では巡航など低負荷で安定している時に外側2気筒の吸排気バルブを全閉とする気筒休止機構が採用されているが、CX‐8には採用されない。なお、バルブ作動休止には油圧ラッシュアジャスターを用いている。
もうひとつの新技術のGVCプラスだが、中立側に戻し操舵を行った時に回頭運動を抑えるために前外輪側にわずかに制動を行い直進への復帰を早めているのが特徴。理屈としては横滑り防止制御やトルクベクタリングと似ているが、ごく僅かな制動で行うのはGVCの回頭性と同様。もちろん、追加機能に用いるハードウェアは横滑り防止装置等のものであり、新たな付加部品はない。また、制御プログラムはGVCと一体なので、GVCプラスの制動もエンジン制御コンピューターから制御される。新プログラムだけの機能向上のため、コストアップもほとんど無しというGVCの美点もそのままだ。
安全装備では低中速型AEBSのSCBSが夜間歩行者対応となり、市街地の夜間走行の安全性向上を図っている。また、従来型では最上級グレードへのOP設定だった360度全周囲モニターが、新型では上級グレードに標準装着となり、さらに全グレードで選べるようになった。その他の安全&運転支援装備は従来型を踏襲しているが、半自動操舵型LKAなど同クラスでは充実した設定を持つ。
SKYACTIV-G 2.5T

2.5L直4ターボのSKYACTIV-G 2.5Tは、マツダ・ガソリンエンジンの最上位にあたる新世代ターボユニット。運転状況に応じて排気経路を切り替えるシステムを採用することで、ターボラグを強力に抑制するなど、低速域からリニアな出力特性と、4LV8NAユニットに匹敵する高トルクを実現している。

EGRクーラーを通した後に発生する低温不活性ガスを再度吸気することで燃焼温度を低減し、出力特性向上を図るクールドEGRを採用している。
G-ベクタリング コントロール プラス(GVC Plus)

旋回中のハンドル戻し操作に合わせて外輪のブレーキ制御を行うことで、直線状態に戻る際により高い安定性を獲得。素早いハンドルに対しての即応性に加えて、高速走行時の車線変更や雪道など滑りやすい路面環境などでも挙動の収束性を高めている。
相応の荷重がかかるタイトなコーナーでもハンドリングは俊敏に応えてくれる。コーナーからの立ち上がり時のブレーキ感覚もかなり薄く、違和感はまったく感じない。
アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート(アドバンストSCBS)

前方方向の障害物を検知するフォワード・センシング・カメラは、従来型にも歩行者検知機能は備わっていたが、今回の改良で夜間の歩行者検知機能も追加。より幅広いシーンで高い安全性を発揮する。
フロントパーキングセンサー

フロント・サイド(左右)・リヤの4方向に4つのカメラを配置することで、360°全周囲の映像をメインモニターに表示することが可能。前後8か所に配置されるパーキングセンターと相まって、ドライバーの視線が届かない死角を巧みにカバーしてくれる。

360°カメラ映像は駐車時に加えて、狭い路地を走行する際にも活用できる。フロント/リヤカメラの画角は約177°と左右25mほどの道路状況まで確認することができる。
CX-8


最新=最良を目指し、細部まで改良を実施

インテリア照明の色味や配光の変更やサードシート周りの遮音性を向上させたほか、Lパッケージ車にもセカンドシート・ベンチタイプ仕様を設定し、7人乗り車を選ぶことができるようになった。
Lパッケージ車のスピードメーターは、3眼メーター中央に7インチカラー液晶を用いた7インチマルチスピードメーターを採用。
Lパッケージ車は鏡面側の縁取りをなくしたフレームレスインナーミラーを採用。ヘッドコンソール部の形状も変更されている。
マツダコネクトのコマンダーダイヤルやアウターミラーコントロールノブの意匠デザインも質感を高めた新デザインに変更。
マツダコネクトも最新型にアップデート。スマホ連携機能が強化され、「Apple CarPlay」と「Android Auto」が利用できるようになった。

Lパッケージ車のデコレーションパネルは、木目をイメージした本杢パネルに変更。縁取り部はサテンクロームメッキ加工が施される。

形状は従来型と同じだが塗装を変更。17インチはダークシルバーからグレーメタリック、19インチはシルバーから高輝度シルバーに変更。
CX-5


外観はホイール塗装の変更やIRカットガラスの採用程度。デザインは従来型とほぼ同じ内容が踏襲されている。

エアコンパネルまわりのデザイン変更など、内装の変更箇所はCX-8とほぼ同様。Lパッケージ車はナッパレザーシートや本杢加飾などで、質感が大幅に向上している。
結論&ベストグレード
ターボ車という選択はアリか?
今回の改良の見所は、新規導入となった2.5Lターボ車。これまでディーゼル車に集約されていた性能面のトップモデルにガソリンターボという選択肢が加わったのは歓迎される。ただ、選び分けが難しい。
「高回転のキレでターボ車はスポーティ派向け」と結論を付けられればいいのだが、ターボ車もまたエコとゆとりに徹底した設計。余裕ある走りを燃費ハンデなしで得るのが目的だ。省燃費性はカタログスペックではディーゼル車が勝り、たぶん実燃費も同様だろう。しかも価格差もほとんどない。
結局、車外へのアイドル騒音や加速時騒音の違いがターボとディーゼルの選び分けの要点となる。燃費も含めた総合評価では、ディーゼル車が優位と感じる部分も多い。
ベストグレードは?
CX-8 25S PROACTIVE
XDプロアクティブが一般的なオススメだが、CX-8の内外装のプレミアム感を求めて選ぶなら、ラグジュアリーな内外装と手頃感のある価格でまとまった2.5L車が買い得だ。CX-5 XD PROACTIVE
高速巡航性能と燃費のよさが決め手。国産クロスオーバー系ではほかのマツダ車を除けば唯一のディーゼル車であり、信頼感のあるフットワークもツーリング用途に最適だ。