新車試乗レポート
更新日:2025.12.09 / 掲載日:2025.12.09

最終コーナーをまわったアルピーヌ A110【石井昌道】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 現行モデルのアルピーヌA110は2026年3月末でオーダーストップとなる。日本ではAEBS(衝突被害軽減ブレーキ・システム)が義務化されているが、継続生産の輸入車にも2025年7月に実施されるからだ。2017年のジュネーブ・モーターショーで発表され、欧州では同年、日本では翌年から発売されたA110は、エンジン車としては一代限りで消滅することになる。

フランスを代表するスポーツカーブランド

アルピーヌ A110

 そもそもアルピーヌは1955年に創始者のジャン・レデレによって設立され、ルノー車をベースにしたチューニングカーやコンプリートカーを販売。レースやラリーでも活躍したが、なかでもA110はアルピーヌの名を世に轟かせた名車だった。1973年にはルノー傘下となって様々なスポーツモデルを販売していたが、1995年にA610の生産が終了するといったんアルピーヌの名が冠されたモデルは途絶えることになる。だが、ルノースポールの開発・生産やモータースポーツ活動などはずっとアルピーヌが手がけている。

 アルピーヌ・ブランドの復活が噂され始めたのは2010年頃。日産からルノーへ戻ったカルロス・タバレスCOOが「F1やラリーで長年活動しているのに、なぜルノーにスポーツカーがないのか?」と問うたことがきっかけでプロジェクトが動き始めた。カルロス・タバレスCOOは本格的なレースに参戦するドライバーでもあり、思い入れが強かったのだ。利益を見込みづらいスポーツカーではあるが、ケータハムと協業することで社内を説得。後にケータハムが降りたため、結局はアルピーヌ単独で新型車を開発することになる。

アルピーヌ A110

 アルピーヌ・ブランド復活の第一弾の車名はかつての名車A110に決まった。軽量コンパクトでハンドリングが楽しめるモデル、それでいてアルピーヌらしいエレガントなデザインもマスト。開発陣は、もしもかつてのA110がモデルチェンジを繰り返して継続していたら、最新モデルはこんな風になっていただろうと想像しながら設計・開発していったという。

 アルミモノコックを採用してエンジンを横置きするミッドシップ・レイアウトとして、車両重量は約1100kg。ハンドリングを追求するためにストロークが長くとれて接地変化の少ない4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションを採用。同クラスのミッドシップ・スポーツにはリアにストラット・サスペンションを採用するモデルもあるが、それよりも容量の大きなダブルウィッシュボーンとしてリアをしっかりとさせることで、ミッドシップらしい俊敏なノーズの動きを最大限に活用することができた。一般的なスポーツカーに比べるとサスペンションはややソフトでストロークを活かすタイプ。かつてのA110がラリーで大活躍したイメージそのままに、荒れていて変化が多い路面でもドライバーが自信をもって走れるように考えられていた。

 ややソフトなサスペンションでワインディングロード・ベストと言えるのが最初に世に送り出された素のA110でエンジンは252PS。その後に追加されたサスペンションを締め上げたのがA110S。これは後に300PSへパワーアップしている。さらに、カーボンパーツを多用するなどしてパフォーマンスを極限まで高めたのがA110R。その他、グランドツアラー性能を高めたA110GTなどが存在する。グレード名はマイナーチェンジのタイミングなどで何度か変更された。

最終モデルの受け付けは2026年3月まで

アルピーヌ A110 ANNIVERSARY

 最終モデルとなるのは、素のモデルに相当するA110 BLEU EDITION、A110SとA110GTを融合させたA110GTS、A110Rの70周年記念車であるA110R 70で2026年3月の受注終了日前に生産予定台数に達した場合はその時点で受注終了となる。

 今回は、改めて3台のA110に試乗した。最初にステアリングを握ったA110 ANNIVERSARYはすでに売り切れている限定車だが素のA110に相当する。

 試乗ステージとなった日本アルプスのワインディングロードは大小様々なコーナーがあり、所々路面が荒れていてややソフトなサスペンションはやはりベストマッチだった。限界に近いハードなコーナリングの最中に大きな凹凸やうねりがあってサスペンションがフルストロークする場面でも、ハイドロリック・コンプレッション・ストップが効果を発揮するのでタイヤが路面を捉え続けて姿勢の乱れが少ない。ラバーやウレタンの一般的なバンプストッパーは入力に対して反発してしまうが、ハイドロリック・コンプレッション・ストップはダンパーになっているので入力を受け止めて衝撃を吸収するからだ。ロールやピッチングはそれなりにあるものの安定感は抜群。むしろ動きがわかりやすくてコーナーを攻めている実感がある。

快適性とスポーツを高次元で両立させたA110GTS

アルピーヌ A110 GTS

 A110 GTSは3台のなかで唯一リクライニングするシートを装着するが、他のバケットタイプと同等かそれ以上にヒップポイントが低いのが好印象。快適性とスポーツ性の両立が果たされている。サスペンションは素のA110に対して50%ほど締め上げられていて、走り出すとその差は顕著だった。比較的に綺麗な路面であればロールやピッチングが抑えられていて、より俊敏にコーナーを駆けぬけていく。S字状のコーナーでの切り返しも素早くて無駄な動きが抑えられている。ただし、凹凸が連続する場面など路面の荒れが大きくなってくると硬さが目立ち、路面への追従性が悪くなってくる。また、限界を超えたときの動きも早い。素のA110に比べると、サーキットでは速くて向いているが、ワインディングロードでの柔軟性は少し譲るというところだろう。

もっとも過激なA110R 70

 A110R 70はさらに硬いサスペンションを装着しているが、不思議とそれがネガになっていない。ZF製のレーシングダンパーは大径で容量が大きく、硬くてもスムーズだからだ。カーボンホイールによってバネ下が軽いということも効いているのだろう。素のA110が持つしなやかで荒れた路面でも扱いやすい特性と、サーキットで武器になる硬いサスペンションが見事に融合している。速度が高まっていくとリアの安定性が強調されるのも特徴。サスペンションも空力もリアをかなり強化しているからで、これもまたサーキットでは心強いはずだ。

 車名のRはレーシングではなくラジカル(=過激)を表していて、フルカーボンモノコックバケットシートやハーネス式のベルト(一般的な3点式シートベルトはなし)、リアウインドー部までカーボンで後方はデジタルミラーで確認することなど、たしかに過激ではあるものの、硬さの中にもしなやかさがあってじつにアルピーヌらしい乗り味。素の倍近い価格になるが、それだけの価値はあるのだ。

消滅してしまうのが惜しい傑作スポーツカー

 改めて試乗してみると、ライトウエイトスポーツのヒラヒラとした感覚や限りなくニュートラルに近いハンドリングなど、他では得られない独自の魅力に溢れていた。このモデルが消滅してしまうのはあまりにも惜しいが、アルピーヌのこれからの展開に期待することにしよう。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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