新車試乗レポート
更新日:2025.10.06 / 掲載日:2025.10.06
【GRヤリス】進化を続ける走りの技術【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●トヨタ
排気ガス規制などさまざまな規制によってスポーツモデルが生きにくい時代になっている。GT-Rの生産終了などはその象徴だが、そんななかで奮闘し着実に進化を果たしているのがGRヤリスだ。
2020年に発売されたGRヤリスは2024年に8速ATのGR-DATの追加を含む大幅な改良を受けたが、わずか1年でさらなる改良が施されるとともにエアロパフォーマンスパッケージも用意された。

2024年の改良は多岐にわたる。エンジンは最高出力272PSから304PS、最大トルクが370Nmから400Nmへ向上し、スーパー耐久参戦から得られた学びで冷却系を強化。エクステリアデザインはフロントバンパーの開口率向上や整流改善、比較的に軽いクラッシュでの修繕費を抑えるためのバンパー分割化など変更され、リアは性能向上とモータースポーツ・ユースでの利便性などを考慮して灯火類を集約・再配置している。コクピットはレースやラリーで走りながら使いやすいようにすべてのスイッチ配置が見直された。ボディはスポット溶接増しと接着材塗布の延長で剛性を増し、サスペンションのアッパーマウントを1点結合から3点結合へと改めてアライメント変化を抑制。その他、パワーステアリングにスポーツモードを設定、4WDモードセレクト変更、ドライブモードセレクト追加などが行われている。



2025年の改良は、まずクルマとの一体感の進化を狙い締結剛性の高いボルトを採用し、取付ボルトの締結トルクアップをすることでステアリング操作に対する応答性や直進性を向上させた。リアサスペンションメンバーとボディの締結ボルトは頭部のサイズを22→24mmへと拡幅。フロントロアアームとロアボールジョイントのボルトはフランジにリブを追加。リアショックアブソーバーとボディのボルトはフランジの厚みを2.1→3.1mmへとアップしている。
各部の締結剛性を高めることはハンドリングの正確性などを高めるために重要。ホイールの締結が日本ではナット式、欧州はボルト式が一般的で後者のほうが締結剛性は高くて性能的には有利なことはよく知られている。日本ではレクサスがそこに目を付けて2020年のISのビッグマイナーチェンジから採用しているのだ。それがどれほどの効果をもたらすのか体験する機会はなかなかないが、以前にホンダがスタディとしてCR-Vのナット式をボルト式にあらためた実験車に乗ったことがある。ナット式から乗り換えると、その違いは明確でステアリング操作に対する反応が素早く正確になるうえに、アンダーステアが抑制されて曲がる力が強くなり、さらにリアの安定性も増していた。GRヤリスはホイールではなく、シャシーの締結ボルトの強化だが効果は高いはずだ。
この変更に合わせてショックアブソーバーとパワーステアリングのセッティングを最適化している。微低速域は減衰力を高めてグリップ感を改善し、中速以上は逆に低めて接地性を高めたという。パワーステアリングはよりリニアな操舵感を狙ったチューニングとされた。

GR-DATにも改良が加えられている。Dレンジで走行していても強めのブレーキングなどを行えば自動的にシフトダウンしてくれるが、それが可能なエンジン回転領域が拡大され、パドル操作時のシフトチェンジスピードは短縮。また、ビギナーやウエット路面などを考慮してブレーキがそこまで強くなくても積極的にシフトダウンするように制御されている。アクセルからブレーキへの踏み替えが極端に早い場合なども制御変更でシフトダウンが早めらた。
もっとも攻めたMモード×スポーツで走行中ならば、レブリミッターに当てている時間が長くとられるようにもなっている。従来は0.4秒だったが3.0秒まで伸ばされ、ギアをキープできる。すぐにコーナーへ進入するタイミングだからシフトアップしたくないときなどに有効だ。加速時のシフトアップは、登坂時であれば少しタイミングを遅らせることでシフトアップ後の加速力を高め、エンジン回転数の上昇度合いによっても最適なタイミングになるよう変更された。
2024年モデルでもGR-DATは文句の付けようがないぐらいに良く出来ていたが、細やかな制御によって進化しているのだ。6MTに比べてギア数が多く、シフトチェンジスピードも早いため、サーキットでも速く走れそうなものだが、プロドライバーが富士スピードウエイを走らせるとわずかに6MTのほうが速いという。要因はGR-DATのほうが20kg重く、そのほとんどが前方にあるためアンダーステア傾向が強くなるからだ。

エアロパフォーマンスパッケージはダクト付きアルミフード、フロントリップスポイラー、フェンダーダクト、燃料タンクアンダーカバー、可変式リアウイング、リアバンパーダクトで構成される。整流効果や冷却効果を高めながら、安定性や操作感を向上させている。
トピックスとしては、当初はフロントリップスポイラーの設定はなかったそうだが、開発を担当している大嶋和也選手のフィードバックで採用が決まったとのこと。リアウイングで安定性が高まったこととのバランスを図るうえで重要だからだ。一見するだけでは、リアウイングに比べるとフロントリップスポイラーの効果は相対的に低く思えてしまうが、実際に走らせてみると基本的にアンダーステア傾向であるGRヤリスのハンドリングが進化していることがわかる。
レースやラリーの現場で鍛え上げられ、そのフィードバックから市販車が進化していくという好ましい循環をみせているGRヤリス。規制に上手く対処しながら、末永く続いてほしいモデルだ。