新車試乗レポート
更新日:2025.09.01 / 掲載日:2025.09.01
ルークス、王座をねらうための技術的進化【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●日産
日本でもっとも人気のあるジャンルは軽自動車のスーパーハイトワゴン。なかでもホンダN-BOXは2024年度の販売台数が21万0768台と登録車も含めて全体のナンバー1となった。これに続くのがスズキ・スペーシアで16万8491台、ダイハツ・タントが12万2358台、日産ルークスが6万8989台、三菱デリカミニ・eKスペースが5万4659台で、その他OEM供給車も含めるとスーパーハイトワゴン市場は64万台を超える。
このなかで今秋に新型が登場するのが日産ルークス、三菱デリカミニ・eKスペースだ。それぞれ販売台数を伸ばしたいところだろうが、一筋の光明は2023年にeKスペースクロスがマイナーチェンジに伴ってデリカミニと名前を変え、親近感のあるデザインへと大幅に変更したところ、スマッシュヒットとなったことだろう。

それを見たからか、ルークスも新型は“かどまる四角のデザイン“へと大胆にチェンジ。まるで日本のカーデザイン史上で名車といわれる2代目・3代目キューブのように癒し系だ。eKスペースクロスも3代目の現行ルークスも、軽自動車やミニバンで人気のある角張った威圧感のあるデザインだったが、そういったトレンドは終わりつつあるのだろう。もう少しセンスを感じさせる癒し系で優しさのあるルックスが支持され始めているのだ。
デザインだけではなく、クルマとしての進化も大きい。そもそも日産と三菱の合弁で軽自動車を開発・生産するNMVKは2011年に設立。当初は三菱が開発を担っていたが、2011年に発売されたN-BOXが軽自動車の常識を超えるクオリティをみせつけるとともに大ヒット。NMVKも次の世代から日産開発となり、GT-Rなども手がけた腕利きが参画してクオリティアップを果たしたのだ。
現行ルークスとN-BOXを比較すると、得意とする速度域が異なる。ルークスは高速域でもしっかりとした操縦安定性を持っているが、その分、低速域ではやや乗り心地が硬め。対するN-BOXはサスペンションやタイヤも含めてソフトタッチで、低速域の街中などの乗り心地が抜群にいい。

そこで新型ルークスは得意を伸ばして不得意を克服するべく、サスペンションの改良に力を入れてきた。ショックアブソーバーは2018年にカローラスポーツで初採用され、定評のあるカヤバのプロスムースを採用。微少な凹凸による車体の振動を抑制するいわゆるカーペットライドと、ステアリングの切り始めから良好な反応によって正確なライントレース性を目指したものだ。そのためには極微少入力から減衰力を発生させることが重要だが、ショックアブソーバーそのものの機能でそれをやろうとすると硬くなってしまいがちなため、あえて摺動部のフリクションを利用することに注力。ベアリングブッシュ、ピストンモールドという摺動部品と作動油を新たに開発して実現したのだ。乗り心地と運動性能の両立に定評がある欧州車のような、高摩擦低減衰特性に仕上がっている。

新型ルークスのプロトタイプに試乗すると、たしかに低速域での乗り心地が大きく改善されて快適になっていた。それでいてこれまで通りに高速域での操縦安定性は高い。また、静粛性にも力が入っている。フロントの遮音ガラスやドア下部のシーリング、遮音材を採用して軽自動車としては異例な静けさだ。動的なクオリティは間違いなくトップクラスだろう。ちなみにeKスペースも基本的なハードウエアは共通。デリカミニは、ルックスだけではなくオフロード走行も高めるべくサスペンションのセッティングが独自のものとなっている。
走りだけではなく、Aピラーの角度を立たせたことによる広々感や視界の広がり、高いヒップポイント、12.3インチ+7インチの大画面ディスプレイ、軽自動車初のGoogle搭載、より充実した運転支援装備などで大きく進化。N-BOXの牙城を崩す準備は整ったと言えるのだ。