新車試乗レポート
更新日:2025.05.02 / 掲載日:2025.05.01

【SQ8 スポーツバック e-tron】クワトロは電気で進化する【石井昌道】

文●石井昌道 写真●内藤敬仁、澤田和久

 アウディは欧州プレミアムブランドのなかでも比較的に早くBEVシフトへ積極的な姿勢をみせ、2018年には初の量産BEVとしてアウディe-tronをリリース。エンジン車のMLB Evoプラットフォームを採用したフルサイズBEVで、アウディらしい洗練された乗り味と高いパフォーマンスを誇った。

電気自動車として先行してきたからこその完成度

アウディ SQ8 スポーツバック e-tron

 その後、フォロアーがe-tronを上回る性能で表れたことに対するカウンターとして2022年にはマイナーチェンジで性能を向上させるとともに、名称をQ8 e-tronへと変更。バッテリーは折り重ねるように配置するスタッキング方式へと変更することで隙間をなくしてエネルギー密度を高め、モジュール数やパックの大きさをかえることなく一充電走行距離を伸ばした。また、CHAdeMOの充電受け入れ能力を最大150kWへと大幅に向上させている。日本市場では初期モデルのe-tronおよびe-tronスポーツバックが2021年、Q8 e-tronが2023年に導入されている。

 今回試乗したのはハイパフォーマンスなSQ8スポーツバックe-tron。マイナーチェンジ前のe-tron Sスポーツバックに相当するモデルだ。

 最大の特徴は、フロントに150kW(204馬力)のモーターを1基、リアに132kW(179馬力)のモーターを2基、合計3基のモーターを搭載していること。システム合計では最高出力370kW(503馬力)、最大トルク973Nmとなる。前後2基のモーターを搭載するQ8 50 e-tronは250kW(340馬力)、 664Nm、Q8 55 e-tronは300kW(408馬力)、664Nmで、動力性能に優れるのはもちろんのこと、コーナリング時にリア左右のトルクを独立制御することで高精度な電動トルクベクタリングを実現している。バッテリーの総電力量は118kWh(従来比+19kWh)で一充電走行距離は482km(従来比+67km)となっている。

電動化によってクワトロはさらなる進化を遂げた

アウディ SQ8 スポーツバック e-tron

 一般道を普通に走らせている限りはSQ8スポーツバックe-tronが0-100km/h加速4.5秒を誇るハイパフォーマンスモデルであることをあまり意識させられない。標準モデルのQ8 e-tronと同じく静かで快適、プレミアムなBEVだ。発進から加速、そして巡航速度に達したところでアクセルを戻すと、いかにも機械精度の高さを感じさせるフリクションの少なさによってスーッと滑らかに転がっていくのがアウディらしい。通常時はエネルギー効率を高めるためリア2基のモーターで駆動し、必要とあらばフロントモーターが加わるが、それも一般的な走行ではドライバーに感じさせない。

 だが、ひとたびアクセルを深く踏み込んでいくと鋭いダッシュをみせる。今どきは0-100km/h加速3秒を切るとんでもない加速力を誇るBEVもあるので、驚くほど速いわけではないが、それでも十分。これ以上の速さは楽しいを通り越して気持ちが悪くなることがあるぐらいだから、適度なハイパフォーマンスといえるだろう。加速感は上品で、アクセルを踏み込んでもいきなりドンッと背中を押されるのではなく、スムーズに力が増していくフィーリングだ。素晴らしいのはフル加速時でも安定感が抜群で、誰でもが安心してアクセルを踏み抜けること。クワトロの安定性が、3モーターによってさらに強化されている。

アウディ SQ8 スポーツバック e-tron

 標準モデルよりもホイールアーチを拡大し、オプションの22インチの大径タイヤを履いているため、低速域では路面のゴツゴツを多少は拾うことはあるものの、アダプティブ・エアサスペンション・スポーツが快適性と操縦安定性を幅広い両立を実現しているので不快な思いをすることはない。基本的には引き締まったスポーティな雰囲気だが、無用な突き上げ感は抑えられているのだ。速度が高まっていくとより引き締まっていって見事なフラットライドとなる。アウディは高速走行の安定性に定評があるが、そのなかでも群を抜いていると言っていい。

 コーナリングもハイライトの一つだ。ロールは適度に抑えられているものの突っ張った感じはなくてしなやか。これはBEVの低重心な特性によるメリットで標準モデルでも同様。SQ8スポーツバックe-tronが独特なのは、やはり電動トルクベクタリングによってクルリと回り込むのが得意なことだ。しかも、制御による違和感がほとんどなく、正確なライントレースを実現している。エンジン車のメカニカルのクワトロと同じような安心感がありながら、電動化および3モーターによって性能は大いに向上している。究極のクワトロなのだ。

さらなるプレミアムを求めるユーザーのためのモデル

アウディ SQ8 スポーツバック e-tron

 標準モデルのQ8 e-tronも十分に快適かつスポーティなBEVではあるが、もう1ランク上の走りをみせるSQ8スポーツバックe-tron。電動車の圧倒的なポテンシャルを引き出したモデルなのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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