新車試乗レポート
更新日:2025.01.28 / 掲載日:2025.01.27
成長を続けるアウトランダーPHEV【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●三菱
2012年12月に2代目アウトランダーの追加モデルとして発売されたアウトランダーPHEV。後に他のメーカーからPHEVがデビューしても苦戦していたが、アウトランダーだけは順調に成長してきた。
初期の頃はアーリーアダプター層は、出先でふんだんに電力を使う、家庭のソーラーパネルとPHEVの大容量バッテリーを組み合わせて賢くエネルギーマネージメントをするなど、クルマな新たな使い方、楽しみを見出す人が多かったようだが、一通り行き渡っても人気が陰らなかったのは、EV的な走りの良さを持つSUVとして一般層にも認知されていったからだろう。
ちなみに、プラグインハイブリッドは今でこそPHEVと表記することがほとんどだが、以前はPHVのほうが一般的だった。そのなかでアウトランダーがあえてPHEVを名乗っていたのは、基本はEVだという主張があったからだ。システムとしては前後2つのモーターで駆動し、エンジンは発電機として使うシリーズハイブリッドが基本。高速・低負荷域ではエンジンが直接駆動するモードも持つのはホンダe:HEVと共通するところだ。

2021年12月に発売された3代目アウトランダーの日本仕様はエンジン車がラインアップされず、三菱がPHEV販売に自信をもっていることがうかがえる。3代目はルノー・日産・三菱のアライアンスによるモジュラー・プラットフォームでCMF-C/D。日産エクストレイルやルノー・メガーヌなどと共有している。
ボディサイズは先代の全長4695×全幅1800×全高1710mmから全長4720×全幅1860×全高1745mmへと一回り大きくなった。その恩恵はPHEVと3列シートの両立で、とくに日本市場では歓迎されている。それに合わせて静的な質感向上もなされたのだが、輸入SUVも視野に入る車両価格のため競争力を高めるためだという。エンジンは2.4L NAのままだが、モーターはフロント60kW・リア70kWから85kW・100kWへと向上。フロントよりもリアがパワフルなのは4WDとしての性能を最大限に引き出すためのもので、前後バランスは先代と同様。もちろんAYC(アクティブヨーコントロール)も引き継がれる。
そのアウトランダーが2024年10月にマイナーチェンジを受けたのだが、エクステリアやインテリアの改良は一部にとどめ、それよりも中身に大幅に手を入れているのが印象的だ。

まずバッテリーは全面的に刷新され容量は従来の約10%増の22.7kWhへ。EV航続距離は87kmから106kmへと伸長した。
エンジンとモーターのパワーは従来のままだが、バッテリーは内部抵抗が減ってパワーにも効率にも貢献していることから、システムトータルでのパワーは約20%アップ。0−100km/h加速は約2秒も速くなっている。そのうえでハイブリッド燃費も16.2km/Lから17.2km/Lへ改善されている。いかにバッテリーが進化したかがわかるだろう。冷却性能の向上も進化に寄与しているとのことだ。その他、これまで高周波ノイズが大きかったジェネレーターの静粛性向上、アクセル操作に対するモーターの反応をなますことでドライバビリティの改善も図られている。
さらにシャシー性能も向上している。従来でも以前に比べれば大きな進化を遂げており、プラットフォームのポテンシャルの高さを感じていたが、タイヤを新たに開発し直したことで性能をさらに引き上げたのだ。
従来はM+Sのブリヂストン・エコピアだったが、新型はサマータイヤのブリヂストン・アレンザ001。マイナーチェンジでタイヤを変更するのは珍しいが、それだけ性能向上にかけたのだ。サスペンションも合わせてセッティングを最適化している。従来も乗り心地は円やかだったが、新型はタイヤのアタリもサスペンションのストローク感もさらに上質になり、静粛性も高まった。可変ダンパーなどを使わないコンベンショナルでは、もうこれ以上の進化は難しいと思われるほどだ。
タイヤとサスペンションを変更したことでハンドリングはややオーバーステア傾向になったためS-AWCのセッティングもやり直したという。パワーステアリングにも手を入れて低速域では軽く、高速域では安定志向な方向性となった。

2種類のオーディオシステムをヤマハと共同開発したのも新しい。ハイエンドのダイナミック・サウンド・ヤマハ・アルティメットは12個のスピーカーとデュアルアンプを搭載。オーディオの大敵はロードノイズだが、タイヤの変更で大幅に減ったことに加えて、車速に合わせて音量や音質を自動調整して補正することで、常に最高の性能を発揮するという。
想像以上に大幅な改良となった新型アウトランダー。三菱にとってフラッグシップモデルであるだけに気合いが入っているのだ。