新車試乗レポート
更新日:2023.08.08 / 掲載日:2023.07.31

【BMW iX M60】電気自動車の実力を実車でテスト!

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急伸。そうした中、近い将来、EV専業へと舵を切ることを決定・発表するブランドも増えている。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、補助金の充実や新しいEVの登場&上陸など、EV関連のニュースが次々とメディアをにぎわせている。そうした状況もあり、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか見分けるのが難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回フォーカスするのはBMWの「iX M60」。BMW製EVのフラッグシップモデルは、果たしてどんな実力の持ち主なのだろうか?

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BMW iX M60のプロフィール

BMW iX M60

 2021年11月に日本での発売がスタートしたBMW「iX」は、BMWが「i3」以来、7年ぶりに日本市場へ投入したピュアEVだ。

 カテゴリー的には、BMWが“SAV(スポーツ・アクティビティ・ビークル)”と呼ぶSUVに属すモデルで、ベースとなるエンジン車は存在しない。コンセプトやデザイン、パワートレーンなど、すべての領域においてEV世代を見据えて開発されている。

 BMWが究極のEVと銘打つ新世代EVらしく、エクステリアとインテリアのデザインは独創的で、運転支援システムや通信システムも最新フェーズのものが搭載されている。

 そんなiXに、BMWの高性能モデルに備わる“BMW M”のエンブレムが掲げられた。それがハイパフォーマンスモデル「iX M60」。現在、3グレードが展開されるiXの最上級モデルであると同時に、電動車ブランドBMW iのフラッグシップでもある。

 iX M60は、ふたつの“BMW M eDriveモーター”によって4輪を駆動する。システム最高出力は最高619ps、同最大トルク112.2kgfを発生。その結果、0~100km/h加速タイムはわずか3.8秒(本国仕様)と驚きの速さを見せつける。

 後輪により大きな駆動力が配分されるよう設定された“エレクトリックxDrive”や、車内のスピーカーから放たれる“アイコニック・サウンド・エレクトリック”による胸高鳴るサウンドとあいまって、加速フィールはものすごく刺激的だ。

 そうした強心臓を受け持つシャシーも秀逸。M専用のチューニングが施された電子制御式ダンパーと4輪アダプティブ・エア・サスペンション、4WSの機能を備えたインテグレイテッド・アクティブ・ステアリング、Mスポーツ・ブレーキなどが相まって、精緻な走行フィールと最適なコントロール性を発揮する。

 気になる走行用バッテリーは111.5kWhと大容量で、1回当たりの充電で615km(WLTCモード)の走行が可能。また、最大195kWの急速充電器に対応しており、およそ35分で最大80%まで充電することが可能と優れた利便性も併せ持つ。

 iX M60のエクステリアは、革新的な“モノリシック・デザイン”とともにMの並外れたダイナミクスを表現。垂直に切り立った大型のキドニーグリル、スリムなヘッドライト、3分割されたフロントエプロンが個性をアピールする。

 一方のインテリアは、スポーツテイストを盛り込みながら、ラグジュアリーかつ未来志向の仕立て。スリムでフラットなインパネ上に浮いているかのように見えるフレームレスの“BMWカーブド・ディスプレイ”がモダンな空間を演出している。

 そんなiX M60は大きなボディサイズを活かし、キャビンの実用性も上々。ラゲッジスペースは標準状態で500L、リアシートの背もたれを倒した状態で最大1750Lまで拡大できる。

  • ■グレード構成&価格
  • ・「M60」(1798万円)
  • ・「xDrive50」(1438万7000円)
  • ・「xDrive40」(1169万円)
  • ■電費データ
  • <M60>
  • ◎交流電力量消費率
  • ・WLTCモード:199Wh/km
  •  >>>市街地モード:215Wh/km
  •  >>>郊外モード:195Wh/km
  •  >>>高速道路モード:199Wh/km
  • ◎一充電走行距離
  • ・WLTCモード:615km

【高速道路】高パフォーマンスと優れた電力効率を両立させている

 iXをEVテストに連れ出すのはこれで3回目。

 初回、2回目はともにiX xDrive50なのだが、初回は冬場で電費に不利なうえにワインディングロードが通行止めとなって走れなかった。それゆえ暖かくなってから再テストを実施。初回は外気温4.5~6.5℃だったが2回目は22~28.5℃とヒーターやクーラーの負荷が少なかった。今回はiX M60でパフォーマンスが高くなるが、iX xDrive50の2回目と電費を対比しながら検証していきたい。

 今回の高速道路の電費は制限速度100km/h区間のその1が5.1km/kWh、その4が4.9km/kWh、制限速度70km/kWh区間のその2が6.5km/kWh、その3が5.3km/kWhだった。

 iX xDrive50はその1が5.6km/kWh、その4が5.2km/kWh、制限速度70km/kWh区間のその2が6.6km/kWh、その3が6.3km/kWh。

 iX M60はiX xDrive50に対してWLTCモード電費で5%ほど悪化するが、軽い渋滞で電費が落ちiX M60のその3をのぞけば、それに近い数値となっている。

【ワインディング】BMW製EVに共通する優れた電費と回生能力

 約13kmの距離で963mもの標高差がある箱根ターンパイクの往路・登りは重量級にとって電費に厳しいが、今回は1.3km/kWh。iX xDrive50の1.4km/kWhと差はごくわずかだった。

 車両重量はiX M60が2600kg、iX xDrive50が2530kgと70kgの差がある。2500kg前後のモデルはみな1.3~1.5km/kWhほどなので標準的と言えるだろう。

 下りでは電費計の数値から計算すると4.2kWhを回生していることになる。iX xDrive50は4.41kWhでこれも差はわずか。これまでのEVテストのなかでは優秀な部類であり、BMW eDriveは全体的にこの項目で上位にくる。電気系の効率の良さをうかがわせる結果となった。

 ちなみにBMWは珍しく回生量表示があり、それによるとこの5.8kWhで、電費計から計算したものよりも良好だった。ただし、他のモデルでは逆転しているものもある。

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

【一般道】車重の重さが電費に反映された形だが快適さは申し分なし

 一般道での電費は3.6km/kWhでiX xDrive50の4.4km/kWhに対して15%ほど差をつけられた。

 WLTCモード電費でも総合では5%ほどの差だが、市街地モードでは11%ほどの差がある。ストップ&ゴーや加速・減速の多い一般道では、車両重量やパワーの違いの影響が大きくなるのは当然だろう。

 裏を返せば、一定速巡航に近い高速道路などではあまり差がつかないということになる。ちなみに外気温は24.5℃だったので、エアコンの負荷はほとんどかかっていない。EVテスト全体でみると3.0km/kWh台の電費はもっとも悪い部類であり、どれも車両重量2500kg前後でパワフルなモデルばかり。一般道では軽くて、パワーも控えめなシティコミューター・タイプが有利なのは明白だ。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

【充電】充電効率の優秀さは変わらず。高出力急速充電器のさらなる普及が望まれる

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 スタート地点ではバッテリー残量93%、航続可能距離500km。そこから154km走行した復路・海老名サービスエリアでは56%、327kmだった。出力90kWの急速充電器を30分間使用して37.9kWhの電力が充電され、89%、512kmまで回復した。

 出力は充電開始直後は80kWほどで、80%を超えてからは65~70kWほどに絞られた。平均は75.8kW。iX xDrive50も同じ充電器を使用して38.8kWhなのでほとんどかわりない。これまでの最高はアウディRS e-tronGTの39.2kWhであり、iXもほぼトップレベルだ。

 90kWの充電器が高速道路の各サービスエリアにあれば、2時間走行して30分充電というサイクルの繰り返しで電力をキープできそう。それなりに実用的だと言えるだろう。

圧倒的な快適性を誇るリアシート。ただし、足元もフラットで申し分ない

BMW iX M60はどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 BMWのBEVのフラッグシップであり、専用プラットフォームをもつiXは静粛性や乗り心地を含めた動的質感の高さが驚異的なレベルにあるが、M60はパフォーマンスでも驚かされる。

 iX xDrive50でも十二分な速さがあったが、俊敏な走りよりも快適性が強調されているように感じられたが、M60はスポーティネスが高まっている。

 ちなみに0-100km/h加速は3.8秒と驚速。iX xDrive50の 4.6秒を引き離すのはもちろん、M4の4.2秒よりも速いのだ。

 とはいえ、基本的に動的質感は高く、普通に走らせていれば快適で、そんなパフォーマンスの持ち主だとはおくびにも出さない。アンダーステイトメントな一面もあるのだ。

  • iX M60
  • ■全長×全幅×全高:4955×1965×1695mm
  • ■ホイールベース:3000mm
  • ■車両重量:2600kg
  • ■バッテリー総電力量:111.5kWh
  • ■定格出力 前/後:70kW/125kW
  • ■フロントモーター最高出力:258ps(190kW)/8000rpm
  • ■フロントモーター最大トルク:37.2kgf(365Nm)/0~5000rpm
  • ■リアモーター最高出力:490ps(360kW)/1万3000rpm
  • ■リアモーター最大トルク:66.3kgf(650Nm)/0~5000rpm
  • ■システム最高出力:540ps(397kW)
  • ■システム最大トルク:103.5kgf(1015Nm)
  • ■サスペンション前/後:ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
  • ■ブレーキ前後:Vディスク
  • ■タイヤ前後:275/40R22
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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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