新車試乗レポート
更新日:2022.11.04 / 掲載日:2022.10.12

【試乗レポート VW T-ROC】売れ線輸入SUVがマイナーチェンジ

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス
 2021年の車種別年間登録台数を振り返ると、輸入SUVの1位がT-CROSS、2位がT-ROCとなった。これは輸入車の全体で見ても、T-CROSSは全体の2位、T-ROCは5位のゴルフに続く6位につけており、今のVWをコンパクトSUVが支えていることが分かる。日本でのT-ROCの歩みを振り返ると、2020年7月より導入を開始。当初は、2.0L直4クリーンディーゼルターボ「2.0 L TDI」搭載車のみの設定であったが、2021年5月に、1.5L直4ガソリンターボ「1.5 TSI」搭載車を追加している。そして、2022年7月に初のマイナーチェンジを実施した。今回の主役は、このマイナーチェンジモデルである。

マイナーチェンジのポイントは内装の品質向上と安全運転支援技術の標準化

T-ROC

 マイナーチェンジのポイントは、「インフォメーションシステムを含む内装の改良」、「エクステリアデザインの変更」、「全車共通の先進の安全運転支援機能の標準化」、そして高性能モデル「R」の追加だ。

 エクステリアは、「アクティブ」と「スタイル」の標準仕様とスポーティな「Rライン」の大きく二つに分けられる。

 従来型はシティクロスオーバーを意識し、敢えてSUVが薄め、標準仕様とRラインの区別も限定的であったが、マイナーチェンジでは、SUV感を強める演出を追加。標準仕様では、前後バンパー下部にアンダーガードなどのプロテクションパーツを彷彿させるアクセントモールが追加している。一方、Rラインは、従来型よりもスポーティな走りを想起させる力強いデザインに変更。こちらは高性能仕様「R」に近いデザインに仕上げられた。全車共通箇所では、ヘッドライトデザインが改められ、全車LEDに。さらにアクティブよりも上位グレードは、より高性能な「IQ.LIGHT」にアップデートされている。

 デイライトのデザインは同じ六角形だが、新デザインに変更。アクティブ以上では、フロントマスクを横断するLEDライトバーも追加されている。ただイメチェン要素は、ボディカラーにまで及ぶ。ブラックを除き、2トーンルーフが継承されるが、ポップなカラーが減り、淡いボディカラーが拡大。これらの変更から、これまでのポップなクロスオーバーというイメージから大人なSUVへとシフトさせたようだ。

インテリアの質感が大幅に向上した

T-ROC

 インテリアも印象を大きく変えた。まずダッシュボードデザインが改められ、インフォメーションシステムはダッシュボード上部に迫り出したオンダッシュ式に。エアコンパネルも静電スイッチ式の最新デザインに改められている。シート表皮もブラックを基調としたことに加え、ダッシュボードやドアトリムにソフト素材やレザレットを取り入れることで質感の向上にも力を入れた。このため、従来型のカジュアルな雰囲気は消え、ドイツ車らしい物の良さも感じられるようになったのは、嬉しいところだ。

 全車標準となる先進機能は、日常からロングドライブまで幅広いサポートを可能とするもの。衝突被害軽減ブレーキなどの基本的な機能に加え、同一車線内全車速運転支援機能「Travel Assist」まで充実の内容を誇る。ただエントリーグレードのアクティブでは、多機能ライト機能とリヤカメラが省かれる。但し、前後パーキングセンサーや駐車支援機能などは備わるので、大きく装備が落ちるともいえない内容だ。また全車標準だったナビゲーションシステムはRを除き省かれ、スマートフォンリンク機能付きのインフォメーションシステムに変更。但し、ETC2.0車載器も標準化は継続されている。

 パワートレインは、標準車の場合、150ps/250Nmの1.5L直4ガソリンターボ「1.5L TSI」と150ps/340Nmの2.0L直4クリーンディーゼルターボ「TDI」の2本立てに。エンジンスペックには変更はないが、大きく印象を変えたのは、ディーゼルのTDIだ。アイドル時のエンジン音が静かになり、振動も減少。さらに回転フィールも良くなったようで、積極的に選びたくなる心地よさがあった。一方、ガソリンのTSIは、意外なことにTDIよりもエンジン音が気になる。このことから、TDIは振動を含めた大幅な静粛性対策が施されたことが想像される。乗り味は、サスペンションが少し硬めになら、ステアリングも少し手応えが増しているが、不快さや扱いにくさはなく、ドイツSUVらしさが増しており、好印象であった。新車の従来型とマイナーチェンジのどちらかを選ぶかといえば、間違いなくマイナーチェンジモデルだ。特にTDIは、一押しで、従来型のネガの全てが消されていると思って良い。

VWのハイパフォーマンスモデル「R」が登場

T-ROC R

 最後は初登場となる高性能モデル「R」だ。ゴルフより歴史をスタートさせたVWのハイパフォーマンスモデルシリーズだが、現在はハッチの「ゴルフ」、ステーションワゴンの「ゴルフヴァリアント」、コンパクトSUV「ティグアン」に設定されており、価格面では、T-ROC Rがシリーズエントリーの役目も担う。ゴルフ系はGTIの存在もあり、ガチなスポーツ路線だが、ティグアンを含め、SUVのRは、運転も楽しめる機能的なクルマを目指したオールラウンダーに仕上げられている。T-ROCの優位点は、ゴルフRのハッチバックよりも積載性に優れ、後席にもゆとりがあること。4WDの4MOTIONに、路面状況に合わせたモードセレクターが備わるのもSUVの強みとなる。エンジンスペックは、300ps/400Nmとなり、ゴルフやティグアンよりも少しスペックが落ち着いているが、より刺激的なゴルフと同等のサイズと車重なので、不足は全くない。エンジンサウンドは刺激的で、電制ダンパーを組み合わせたドライブモードにより、乗り心地重視からスポーツ走行まで乗り味の変更も可能。ただ走り重視の「レース」モードにしても、足はしっかりとストロークするので、19インチタイヤながら不快な衝撃もなかった。T-ROC唯一の4WDでもあるので、ウィンタースポーツの相棒にも良さそうだ。装備面は、シートがレザーとなり、ナビゲーションシステムも標準化。メーカーオプションは、サンルーフのみというフル装備仕様となる。

まとめ

T-ROC

 ベストバイは、ディーゼルの「 TDIスタイル」だ。ディーゼルエンジンのネガが抑えられ、トルクの太さによる力強い走りには、上質さが感じられる。ゴルフクラスのSUVが欲しい人には十分おススメできる。Rラインを選ぶと、21.6万円高だがとなるが、その差はビジュアルとスポーツサスなど限定的。スポーティなビジュアルを求めるならば、その価格差が許容できるならばRラインを選んでも良いだろう。

 一方、ガソリン車ならば、エントリーのアクティブだ。装備面では、電動テールゲートや高機能LEDヘッドライト、バックモニターなどが追加される「スタイル」を選びたくなるが、それならば「TDI」までアップデートさせた方が満足度は高い。SUVらしくガンガン使うことにガソリン車のアクティブの価値がある。TDIスタイルとTSIアクティブならば、45万円の差にもなるからだ。オールマイティ使える「R」だが、価格と性能は別格。何しろ、TDI Rラインと比べても、165.7万円もの差がある。もしスポーツ性能を重視するならば、少し価格は高くなるが、ゴルフRの方が得るものは大きいだろう。逆に高性能なSUVが欲しいという人には、存在の意義は大きい。何しろティグアンRは733.7万円と、さらに高価だからだ。最大のライバルは、同じく600万円台のMINIクロスオーバーJCWやアウディSQ2だ。それぞれサイズやキャラクターが異なるが、この価格帯の高性能SUV自体が貴重なため、新たな選択肢が得られたことは歓迎したいが、その恩恵を得る人は限定されるだろう。

 大人路線となったT-ROCの印象は良く、太鼓判を押せるVWに成長した。ただエントリーのアクティブさえ、400万円。再び輸入車に手が届きにくくなっている現実に直面し、思わずため息が零れてしまったのも本音だ。

自動車ジャーナリストの大音安弘氏
この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ