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更新日:2025.12.22 / 掲載日:2025.12.22

新型リーフ、進化のメカニズムを解説【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●日産

 登録車としては世界初の量産BEVとして2010年に発売された日産リーフ。トヨタやホンダはハイブリッドカーのラインアップを拡充して販売を伸ばすなか、日産は一足飛びにBEVを投入して巻き返しを図ろうとした。そのためにボリュームが期待できるCセグメントのハッチバックとして投入されたが時期尚早だったこともあり、期待したほど販売台数が伸びなかった。

 2017年には2代目リーフが登場するが、普及には価格を抑える必要があるとしてプラットフォームを始めとする多くのハードウェアをキャリーオーバー。進化の幅が大きいとは言えなかった。この頃から欧州や韓国、中国勢のBEVが登場し始め、結果的にフォロワーのほうが性能が高かったのは、そういった背景もあるのだろう。

 とはいえ、15年間でのグローバルの販売台数は70万台(うち18万台が日本)、累計走行距離は280億kmに達する。そこから得られた膨大な経験値は他社にはない貴重な財産だ。それを活かしたのが2025年10月に発売となった3代目リーフである。

日産 リーフ

 初代と2代目は、エンジン車用のBプラットフォームをベースにバッテリーを搭載する構成だったが、3代目はアリアと同様の “CMF-EVプラットフォーム”を採用。ボディタイプもクロスオーバーとなり、空力を意識したファストバックを採用するなど全面的に刷新された。BEV専用プラットフォームとなったことでバッテリーの搭載の自由度と効率は大幅に向上している。

 従来はエンジン車用がベースのためフロアトンネルなどの制約があり、3タイプ・16モジュールで60kWhとしていたが、3代目は2026年2月に追加されるB5は1タイプ・4モジュールで55kWh、すでに発売されているB7は、B5にタイプの異なるモジュールを一つ追加した2タイプ・5モジュールで78kWhとなっている。セル自体も進化しているが、ビッグモジュールとすることで効率が高まり、エネルギー密度は2代目比で約17%向上。ホイールベースが10mm短くなっているにもかかわらず大容量化を実現できた。

 3代目B7Xの一充電走行距離は702kmに達している。バッテリーが大容量化されているだけではなく電費が改善されているのがその要因であり、最大の技術的なトピックスでもある。60kWhのバッテリーを搭載する2代目e+X(車両重量1670kg)のWLTCモード電費が161Wh/kmであるのに対して3代目B7X(車両重量1880kg)は130Wh/km。車両重量が210kg重くなっているのに約19%もの電費改善を果たしているのだ。効率至上主義の開発思想があらゆる領域で貫かれている。

日産 リーフ

 まずは空力性能では、理想的な空気の流れを生み出すべくルーフからボディエンドまでのアングルを最適化したファストバック形状を採用。加えて、シーリング性を高めたグリルシャッター、フロントバンパー形状およびフード先端の形状最適化、開口部を最小としたフラットなホイール、リアバンパーやデッキ部の形状最適化、ジャッキポイントまで覆うフラットフロアカバー、フラッシュハンドルなどによってCd値は0.26を達成している(欧州仕様は空力ミラーまで採用して0.25)。世界トップとまでは言えないが、2代目の0.28に対して着実に改善され、実用的なCセグメントのクロスオーバーとしては優秀なレベルだ。空力性能は高速域ほど効果が大きく、100km/h走行時には2代目比で約10%の走行エネルギー削減を果たしている。

 さらに大きな効果をもたらしたのが冷熱システムを統合したマネージメントである。2代目リーフは空調システムとバッテリー、パワートレーンが独立していたが、アリアでは空調システムとバッテリーを統合、3代目ではそれらをすべて統合した。従来は冷却のために大気放出していたわずかな熱エネルギーまで回収・再利用することで効率を向上させた。

 開発当初は一充電走行距離の700km超えという目標はなかったもののライバルの動向を鑑みつつ、決まっていったのだという。それも効率に優れるSiC(シリコンカーバイド)半導体を採用せず、リーフの立ち位置を考慮してコストが抑えられるSi(シリコン)半導体のみで達成。将来的にSiC採用すれば、さらなる伸びしろも残されている。

日産 リーフ

 実用面で興味深いのは280億kmにおよぶ膨大なプローブデータを活用した電費予測技術だ。車両情報に加えてGoogle Mapsの最新情報を組み合わせることで、目的地を設定時にバッテリー残量を高精度に予測。急速充電出力が高い充電スポットを選択しながら最適ルートを案内するという。また、ナビと連動してルートを先読みすることで、バッテリーの温度は自動調整される。急速充電前には適切に暖機するが、その後に走行するルートが低負荷だと予測すれば必要以上に冷却しない。逆にぎりぎりまで高温にして充電量をアップさせるなど、賢い制御がなされている。

 その他にも静粛性の高さや自然な運転感覚、充実した装備など3代目リーフはかなり完成度が高い。これならば普及が進むと期待したいところだが、BEV全体に共通する課題としてリセールバリューの低さが今後の焦点となりそうだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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