輸入車
更新日:2023.10.20 / 掲載日:2023.10.14
図書館に収蔵されたV8サウンド【九島辰也】

文●九島辰也 写真●ジャガー
日々自動車メディアに目を通している方であればご存じでしょうが、すでにいくつかのカーメーカーが完全なバッテリーEV化を発表しています。早かったのはボルボでしょう。スウェーデンという環境への意識が高い国の産物ですから当然かもしれません。その他では、ベントレーやロータス、そしてジャガーといった英国勢が目立ちます。小規模のエッジの効いたブランドが早々と狼煙を上げました。
ジャガーがそのことをリリースしたのは2021年2月でした。2025年を目標に完全なバッテリーEV化で新たな時代を築きます。と同時に、それは近未来内燃機関を持ったモデルが消滅することを意味します。EタイプやXJシリーズ1,2,3、XJSクーペ&コンバーチブルに積まれていたV12エンジンや、今日のスーパーチャージャー付き5リッターV8エンジンなどの大排気量ユニットをシンボルに掲げてきたブランドの大転換です。XJ-SクーペやX308のXJサルーンなどに乗ってきた身としては、これは大事件です。
そして今年3月、ジャガーは2024年型Fタイプの受注開始のニュースリリースを出しました。そこにはスタンダードモデルの他に、ジャガースポーツカーの誕生から75年を記念したFタイプ75とFタイプR75という2つの追加モデルの設定も書いてあります。「最後の内燃機関モデル」として。

正確に記すと、Fタイプ、XE、XF、XFスポーツブレイクがほぼ同時期に姿を消します。バッテリーパックを床下に並べることを可能としない内燃機関専用プラットフォームのモデルです。ジャガーは基本的にFRプラットフォームですから、エンジンの駆動力をリアアクスルに伝えるセンタートンネルがど真ん中に鎮座します。想像してもバッテリーパックを並べるには非効率ですね。
先日そんなことを思い出したのでジャガーランドローバージャパンに連絡し、およそ二週間広報車をお借りしました。XFスポーツブレイクのRダイナミックで、ボンネットの下には2リッター4気筒のディーゼルユニットが収まるマイルドハイブリッドです。本当はV8エンジンを積んだFタイプが希望でしたが、さすがにこの時期人気が高く長くお借りすることができなかったので、諦めました。また別の機会にお借りします。そんなに呑気なことは言っていられませんが、同じことを考えたメディアは多いようです。



おもしろいのは、あのV8の希少性を重んじたのは我々ジャガー好きだけでなく、メーカー本体もそう思ったということ。なんとあのエンジンサウンドを大英図書館に保存するそうです。
ジャガーが7月にリリースした内容によると、選ばれたのは575psを発揮する5リッターV8スーパーチャージャーで、それを搭載したFタイプR75をゲイドン・エンジニアリングセンターの半無響室に持ち込み、各ギアにおける加速時のエキゾーストノートを録音したとか。そしてその30秒および47秒のサウンドトラックを大英図書館のサウンド・アーカイブに保存するというから驚きます。エキゾースト・システムのバルブが開いて排気経路が変わった時のサウンドはたまりませんよね。まんまレーシングカーというか、クルマ好きにとっては鳥肌モノです。

録音したサウンドは大英図書館のウェブサイトで聴けるようなので興味ある方はトライしてみてください。あのバリバリサウンドが再生されるようです。でも不思議ですよね。あんなにバリバリしているのに耳触りが悪くない。確かにあれは未来に残すべきガソリンエンジンのサウンドです。
でも「未来の人はどう思うのだろう?」という疑念も湧きます。 完全なバッテリーEVしか知らない人にとっては原始的でただうるさいだけのものになってしまうのかもしれません。あの音に郷愁の念を抱くのは、我々“ガソリンエイジ”だけかも。もしくはDNAのどこかに刻まれていて、V8サウンドを耳にした未来人が突如覚醒するなんてこともあったりして……。
なんて妄想はともかく、いずれにせよ冒頭に記した幾つかのカーメーカーでは内燃機関の終焉が近づいています。なので、もしその中に貴兄の推しブランドが入っているのなら、このタイミングで手に入れるのはアリですよね。もちろん、手の届く範囲のハナシですが、夢は膨らみます。