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新型車比較・ライバル車対決
更新日:2023.05.09 / 掲載日:2021.12.01

【HONDA e】電気自動車の実力を実車でテスト!【グーEVテスト】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス

 欧州や中国では、クルマを取り巻く環境や政府の補助金政策なども追い風となり、EV(電気自動車)のセールスが急進。対する日本も、普及はまだまだこれからという状況ながら、新しいEVが続々と登場している。そうした情報を耳にし、「そろそろかな」とEVが気になり始めている人も案外多いのでは?

 とはいえエンジン車とは異なり、EVの所有はハードルが高いのも事実。航続距離や充電効率、使い勝手などは車種によって大きく異なるため、どんなモデルが自分にとってベターな選択なのか、見分けるのがまだまだ難しい。

 本連載は、EVや自動運転車といったクルマの先進技術に造詣が深い自動車ジャーナリスト・石井昌道氏の監修・解説の下、各社の注目モデルを毎回、同様のルートでテスト。実際の使用状況を想定した走行パターンでチェックすることで各モデルの得手不得手を検証し、皆さんの“EV選びの悩み”を解決することを目的とする。

 今回取り上げるのは「ホンダ e」のベースモデル。上級の「アドバンス」グレードに対して、電費性能などに有利なタイヤを履くこのモデルは、果たしてどんな美点を備えているのだろうか?

ホンダ e ベースモデルのプロフィール

ホンダ e

 2020年に登場した「ホンダ e」は、欧州市場におけるホンダの存亡を左右する重要な使命を担う1台だ。ヨーロッパではCAFE(企業別平均燃費基準)によって二酸化炭素の排出量を制限するレギュレーションが施行され、平均燃費を規定内に収めることのできないメーカーは、莫大な罰金を科せられる状況にある。

 昨今、新しいEVが続々と誕生しているのはこうした背景があるためだが、実際のところ、多くのブランドが苦戦を強いられている。それはホンダも同様だ。当初、ホンダ eの年間目標販売台数をヨーロッパ1万台、日本1000台と見積もっていた同社だが、一部には、依然として7000台程度のセールスにとどまっているとの情報もある。

 そんなホンダ eは都市型EVと割り切っていることもあり、バッテリー容量は35.5kWhと他のEVより少なめだ。そのためカタログに記載される航続可能距離は、WLTCモードで最長283kmにとどまる。ちなみにこれはベースモデルの数値であり、以前紹介した上級グレードのアドバンスでは259kmとさらに短くなる。

 というわけで、今回はホンダ eの中でも“航続可能距離の長い方”=ベースモデルにフォーカスする。ベースモデルとアドバンスは、そもそもモーターの最高出力が異なっているのに注目だ。アドバンスのモーターが最高出力154ps、最大トルク32.1kgmを発生するのに対し、ベースモデルはそれぞれ136ps、32.1kgmとパワーが抑えられているのだ。

 またタイヤも、アドバンスが205/45ZR17のミシュラン「パイロットスポーツ4」というスポーツ指向の強いものであるのに対し、ベースモデルは185 / 60R16とサイズが1インチ小さく、銘柄も(今回の試乗車は)ヨコハマ「ブルーアースA」というエコ志向のものとなる。

 両グレード間における24kmという航続可能距離の違いと、44万円という価格差はこうした作り分けの結果だが、それ以外の違いは思いのほか少ない。

 モダンでアイコニックな雰囲気の内外装デザインや、サイドカメラミラーと5枚の液晶パネルが並んだコックピットによる未来感、そして、RR(リアモーター/リア駆動)という駆動方式などはベースモデル様も同じ。つまり、50:50の前後重量配分によるサイズを感じさせない走り味や、4.3mという軽自動車級の最小回転半径による脅威の小回り性能などはベースモデルでもしっかり味わえる。

 もちろん、全長3895mm、全幅1750mm、全高1510mm、ホイールベース2530mmというコンパクトサイズでありながら、大人4人がしっかり乗れる広いキャビンや、“街中ベスト”と割り切った場合には想像以上に使えるラゲッジスペースなどは両グレードとも共通。つまりホンダeには、スポーティなフットワークを重視するか、少しでも航続距離を稼ぎたいかなど、ユーザーの好みやライフスタイルに合わせた選択肢が用意されているのだ。

 ホンダeが販売で苦戦を強いられている理由のひとつとして考えられるのは、やはり航続距離の短さだろう。他社のEVの多くが大容量バッテリーを搭載し、エンジン車を凌駕するパワフルな走りやエンジン車に迫る航続距離をアピールする一方、“街中ベスト”を標榜するホンダ eは都市型コミューターというEVの本質をあえて問い直してきた。今のところ、そのコンセプトは人々に浸透していないようだが、この先、ホンダがどのような挽回策を打ってくるのか注目したいところだ。

  • ■グレード構成&価格
  • ・「ベースモデル」(451万円)
  • ・「アドバンス」(495万円)
  • ■電費データ

<ベースモデル>

◎交流電力量消費率

・WLTCモード:131Wh/km

 >>>市街地モード:106Wh/km

 >>>郊外モード:121Wh/km

 >>>高速道路モード:141Wh/km

◎一充電走行距離

・WLTCモード:283km

<アドバンス>

◎交流電力量消費率

・WLTCモード:138Wh/km

 >>>市街地モード:116Wh/km

 >>>郊外モード:130Wh/km

 >>>高速道路モード:149Wh/km

◎一充電走行距離

・WLTCモード:259km

条件を考慮すればカタログ値どおりに「アドバンス」より良好な電費といえる

 

 今回は同日テストとなったDS3クロスバックE-TENSEと同じく、東名高速の集中工事期間だった。そのため、コースを少し変更。復路の東名・海老名サービスエリア→横浜青葉の渋滞が予想されたので、そこでの電費計測を避けるため、その3はいつもより短い小田原西→二宮とし、一般道で東名・秦野中井まで移動。その4を秦野中井→海老名サービスエリアとした。その1とその2はいつも通りだ。

 その1に工事区間はなかったが、やはり集中工事の影響はあるのか交通量が多く流れは良くなかった。BEVの電費は速度が低いほうが良くなる。制限速度100km/h区間のその1で交通量の多さから70~80km/h程度で巡航する区間が多いと、電費は良好に出る。しかし、もっと流れが悪くなり、40km/hを下回るような状態が出始めると加速・減速が大きくなってかえって電費が悪化する。今回はその両方の要素がありつつ、その1の電費は5.6km/kWh。100km/h近辺で走り続けられたその4が6.7km/kWhだったのに比べると悪かったのは速度変動によるものだろう。

 制限速度70km/h区間のその2は6.8km/kWh、その3は7.3km/kWh。その2は集中工事の影響か、いつもより交通量が多く、やはり速度変動の多さが電費をやや悪化させた。

 以前にテストしたホンダeアドバンスは速度制限100km/h区間が5.9km/kWh、速度制限70km/h区間が7.2km/kWh。条件などを考慮すると、スペック通りに今回のスタンダードモデルのほうが若干だが実燃費もいいようだ。

高負荷時の電費は他モデルと同等レベル。回生が低いのも「アドバンス」と同じ

自動車専用道路である箱根ターンパイク(アネスト岩田ターンパイク)を小田原本線料金所から大観山展望台まで往復した

 国土の約70%が山地&丘陵地の日本でも、箱根ターンパイクのように片道13.782kmで標高差が963.6mもあるのはめったにない。そのため、自動車メーカーも上りおよび下りが長く続く区間としてテストに使用するステージだ。下りでは回生ブレーキで電力を取り戻せるBEVにとっても興味深いテストとなる。

 上りの電費は2.1km/kWhでホンダeアドバンスと同数値。その他、プジョーe-208などコンパクトなモデルともだいたい似通っている。

 下りでは1.91kWh分が回生され、アドバンスの1.82kWhよりも若干良かった。ただし、他のモデルに比べるとあまり多いほうではないのは、RWDのため強く回生できないから、あるいはバッテリーの内部抵抗が大きいなどが予測できるが、車載電費計からの推測値なのであくまで参考値ということにしておきたい。

 また、この区間でのテストは運転者によるバラツキをなるべく排除するべく、ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)を使用しているのだが、ホンダeは下りで設定速度を上回っていってしまう。たいていのモデルは、設定速度を上回ろうとすると、回生ブレーキやメカニカルブレーキで減速するのだが、ホンダeはアドバンスも含めてそうなっていないようだ。

「街中ベスト」のコンセプトどおり一般道で優秀なデータを示した

 一般道の電費は7.4km/kWhと良好だった。アドバンス7km/kWhを上回り、これまでテストしてきた16台のBEVのなかでも2番目にいい数値。だが、トップは同日テストのDS3クロスバックE-TENSEだったことを考えると、この日の交通状況が有利に働いたのだろう。いずれにしても、コンパクトなBEVは一般道で6~7km/kWhであるのに対して、大きく重いBEVは4km/kWh前後にとどまるというのは、はっきりと傾向として現れている。当然の結果ではあるが、CO2排出量削減がBEVシフトの命題であることを考えれば、コンパクトなモデルに正義がある。とはいえ、コンパクトだとバッテリーをあまり多くは載せられないので航続距離が短く、ユーザーの利便性は低い=あまり普及しない=普及しなければ全体のCO2排出量削減に繋がらない、というジレンマがあるのが現状だ。バッテリーのエネルギー密度が高まるにつれて、それもだんだんと解消されていくのだろう。

東名横浜青葉ICから環八の丸子橋まで約22kmの距離を走行した

高速道路を使った長距離移動は苦手。使い方がはっきりとしたクルマ

海老名SAでの急速充電テスト ※データはテスト時のものです。数値を保証するものではありません

 ホンダeは潔くシティコミューターに徹したモデルでバッテリー容量が少ない。だから、高速道路を使って長距離移動するという用途には向いておらず、今回のトータル200km程度の移動でも充電に気を使う必要がある。

 スタート地点の東名高速・東京ICでのバッテリー残量は86%、航続可能距離は199km。そこから31.5km走った往路・海老名サービスエリアでは66%、126kmとなり、少し不安だったので15分49秒だけ急速充電した。出力40kWの急速充電器を使用して5.2kWh分を充電(急速充電器の表示)。82%、154kmへと回復した。実際の出力は20kW前後しかでていないが、SOCが高めにあるときは充電の受け入れがあまり良くないことがうかがい知れる。

 復路では集中工事の影響を考慮してコース変更。その4の海老名サービスエリア→横浜青葉が渋滞することが予想されたので、その3を従来の小田原西→海老名サービスエリアではなく距離は短くなってしまうが小田原西→二宮として一般道で東名・秦野中井まで走り、その4を秦野中井→海老名サービスエリアとした。だが、秦野中井の標高がやや高く、その4の電費が良く出てしまいそうだったので、本当は厚木JCT→秦野中井、秦野中井→海老名サービスエリアとしたかったところ、ホンダeのバッテリー残量が心配だったので断念したのだ。

 それでも復路・海老名サービスエリアに到着したときのバッテリー残量は5%、航続可能距離11kmで、ちょっとヒヤヒヤした。

 出力90kWの急速充電器を30分間使用して、16.4km/kWh分を充電。70%、150kmまで回復した。充電器の表示を見ていると、繋いだ直後は出力が46kWだったが(クルマ側の受け入れ能力は50kW上限と思われる)、終了直前は20kW程度。SOCが高まるにつれて入りづらくなっていくのは当然なのだが、容量の小さなバッテリーは急速充電器を使っても、大容量バッテリーほどにはドバッと入ってくれないというのもまたジレンマだ。自宅ガレージで夜間に普通充電し、あまり電力を使わない街中などで走らせれば快適なのが、シティコミューター型BEVなのだと改めて認識した。

絶対的なスペースは広くないが、足元に気になる段差もなく、膝前にも空間が確保されている

ホンダ eはどんなEVだった?

テストを監修した自動車ジャーナリストの石井昌道氏

 ホンダeは愛らしいルックスやガジェット感が半端ないインテリアなどで注目を集めたモデル。バッテリー容量が少ないため航続距離が短く、利便性に課題はあるが、多くすれば重くなって電費が悪くなり、環境負荷低減という観点からは本末転倒であることを示唆している。大きなタブレット端末ならば満充電から2~3日はもつが、小さなスマートフォンだと1日、あるいは激しく使うなら継ぎ足し充電が必須となる。ホンダeはスマートフォン的なモデルなのだと初代LPL(開発責任者)は比喩的に語っていた。

 EVテストをやってみてもそれはよくわかり、現状のバッテリー性能ではわりきりが必要ということだ。足元の環境問題を本質で捉えればホンダeは最適解に近いが、利便性から見れば街中ベストで長距離移動は不便になる。もう少しバッテリー性能が進化して欲しいところで、BEVへのシフトはやや時期尚早。でも、2050年に地球温暖化を2.0℃以下、できれば1.5℃に抑えたいという目標に対しては、不便を承知でも今からBEVシフトを始めなければならない、というジレンマの表れだろう。

 良くも悪くも自動車が抱える環境問題・エネルギー問題を、わかりやすく表面化しているのがホンダeなのだ。

ホンダ e(ベースモデル)

■全長×全幅×全高:3895×1750×1510mm

■ホイールベース:2530mm

■車両重量:1510kg

■バッテリー総電力量:35.5kWh

■モーター定格出力:60kW

■モーター最高出力:136ps/3078-11920rpm

■モーター最大トルク:32.1kgm/0-2000rpm

■サスペンション前後:ストラット

■ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク

■タイヤ前後:185/60ZR16

取材車オプション

■ディーラーオプション:ドライブレコーダー、フロアカーペットマット

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