車の最新技術
更新日:2022.03.17 / 掲載日:2022.01.07

毎日BEVに乗るとどうなるか?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ

 年末年始に掛けて、BEVを生活のアシにすると一体どうなるのかの実験を行っていた。借り出したのはマツダのMX-30 EV MODEL。貸してもらったマツダには悪いが、それは想像以上にしんどいものだった。で、本来であれば年末の記事『ところで水素はどうなった?』の後編を書くつもりだったのだが、こちらを先に割り込ませたくなった。

BEVのある暮らしを正月休みを使って擬似体験した

 まず、これは実験以前から分かっていたことだが、BEVだけで生活するためには、自宅に充電器は必須。無い状態で買うのは絶対に止めた方が良い。

 さて、充電器とはどういうものか? 基本的に(1)車両側の受け入れ最大電力 (2)充電器の最大出力 (3)バッテリーの残量 (4)外気温の4つで能力が決まる。(1)と(2)のどちらか低い方でポテンシャルが決まり、(3)と(4)がそれに影響を与える。

 家庭用の充電器はまあ正直ピンキリだ。よく電気はどこにでもあると言う人がいるが、是非100V15A規格の家庭用コンセントで充電してみると良い。永遠の時を感じられるだろう。まあそういう詭弁みたいな話は置いておいて、まともな充電器、例えば日産の出力別に2種類用意されている中で容量の大きい方、6kW普通充電器を前提とする(在宅時間が長ければ3kWでも充電は可能)。一般にこの充電器を取り付ける際には充電器専用の200Vブレーカー系統を用意し、そのBEV充電使用量を引いた残りで家庭用の電力使用が困らない様に契約アンペアを再検討する必要がある。

 例えば住居が30A契約で、充電器がピークに30A使っていれば、その時家庭で使える分はゼロ、契約が60Aなら同条件で残りは30Aということになる。そしてこのアンペア契約で電気の基本料金はかなり変わる。

 さて、そもそも何故家庭用普通充電器が必須なのかと言えば、そうでないとクルマがほぼ使い物にならないからだ。MX-30 EVはスペック上、WLTCモードでの航続距離が256キロということになっているが、この1月の寒空の下で暖房を使いながらだと、多少工夫した所で、満充電で200キロが限界。BEVのバッテリーを限界まで使うなどと言うチャレンジャーはいないので、実質は170キロ程度と思った方が良い。家で満充電にして、170キロ以内の移動に使うのであれば、これは完全に実用範囲に収まっているし、BEVならではの良いところは沢山ある。あるいは家から170キロ先までの、例えば職場に、もう1台占有して良い充電器があって、そこで勤務時間8時間をフルに充電に当てられるというケースだろう。

出先で充電が必要になったとたんに不便になる

外出先での充電は、利用する設備の状況によって充電できる電力量や時間が大きく左右される

 しかし、こういう理想的条件を外れると、急に融通が利かなくなるのがBEVの困った所なのだ。長時間充電を許容してくれる充電ポイントは、家を除けば、大型のショッピングモールの6kW普通充電器と旅先の宿くらいだろう。いや宿は必ず許容してくれるかどうかはわからない。利用者と充電器の数によって「譲り合って」という話になるだろう。

 長距離移動を前提とした場合によく使うであろう、高速のサービスエリアや、日産と三菱のディーラーなどに設置される高速充電器の場合、30分の充電で強制的に終了だ。次に充電したい人が並んでいなければ「おかわり充電」も可能だが、それで100%にするにはおそらく3時間くらいはかかる。

 ちなみにこの高速充電器は下は20kWから始まり、現状で最高性能は実質的には50kW。ポルシェやテスラ専用だと90kWや120kW、果ては250kWという高出力も存在し、これらならもっと速いし、1充電当たり走行距離も伸びるのだが、現状まだ配備場所が限られ、高速道路の経路充電は出来る状態ではないし、各社の自社銘柄車両にしか充電できない設備である。

 今回は汎用の50kW高速充電器を用いた。年間を通して最も寒冷な季節ではあったが、概ね30%から充電を始めて、30分で55%、おかわりをして80%弱である。何度か試した結果、大体30分で25%くらい入るのだが、それはバッテリーが充電し易い領域での話だ。

 限り無く空になった0〜20%付近と、満充電に近い80〜100%あたりは、バッテリーを保護するために出力を抑えるせいで、そんなに短時間では充電できない。この上下の20%には1時間半から2時間必要だ。仮に30%から100%まで充電したいと思うなら2時間半から3時間を要することになり、流石にそんなに充電を待っていられないだろう。80%を超えて充電効率が落ちた領域で、そこまでの何倍かの時間をかけて100%にする意味はない。そしてこれはどんなに高出力の充電器であっても同じ状態になる。占有できる自宅の普通充電器で「一晩じっくり充電」という状況以外では、バッテリー残量が100%になることは事実上ない。

 では1回の充電30分で、どのくらい走れるのか? 今回は主に正月休みでガラガラの第三京浜と横浜新道を制限速度で走って、概ね30〜40キロ程度だった。トヨタ・ヤリスのハイブリッドなら実走行でリッター30キロは走るので、20分に1度1リッターちょっとのガソリンを30分掛けて給油する様なものである。

 つまり高速道路で長距離を走行中、経路充電が必要になった途端、充電サイクルは20分から30分に1度、30分の充電が必要になってしまう。しかも30分後にクルマに戻らないと、次のBEVオーナーが眉間に深い縦皺を寄せて待っているかもしれない。コインランドリーと同じで、30分経過後に放置して良いわけではなく、その時間に必ず戻らなくてはならない。これでは流石に実用的とは言えまい。

 現在この汎用充電器の新規格として、50kWより高出力な70kWと90kW計画があり、ようやく一部で配備が始まったところだ。おそらく最大出力だけでなく、電力マネジメントも向上しているであろうこれらが普及すれば多少の改善は見込めるだろうが、それでも1時間に1度の充電で済むということになるのかどうか。その辺りは車両側の対応と進歩にもよるので一概に否定はできないが、だからと言って、1充電で2時間走れる様になるのは今回の充電器アップデートではまだまだ無理だろう。

 だからテスラ派の人達はテスラのV3スーパーチャージャー(250kW)に期待を寄せるわけだが、これまでの電力網の歴史では、それだけの高出力を求める機器をオンデマンド接続することは想像もされてこなかった。100V60Aのそれなりの豪邸の42軒分のピーク値なのだから当然だ。

 つまり、それだけの高出力機器かつ、オンデマンド接続端末、つまり高出力急速充電器をあっちやこっちに設置しようとすると、インフラのロバスト性が全く足りなくなる。要するにそもそもの送電線網、つまりグリッド電力の電線容量を上げなければならなくなる。「高速道路をアメリカ並みに6車線にしましょう」みたいなことが電線網について起きるわけだ。

 もっともそうしなければBEVの利便性が上がらないのも事実だが、ではその費用は誰が負担するのだろうか? カリフォルニアでは近隣にテスラユーザーが居住している住宅ではテスラを買えない規制があると聞く。つまりエリア毎のピーク許容量を超えないように、接続数に制限を加えているわけだ。

 今後、カーボンニュートラルのためにエネルギーの全面電力化に備えるのだとすれば、何らかの形で資金の手当てをしてインフラとなるグリッド送電容量を全面的にやり直すか、一定地域内への高出力充電器設置台数の規制を設けるかどちらかしかない。普通に考えれば、容量の向上に新しいビジネスチャンスがあるはずだが、テスラが充電の非採算事業化をデファクトスタンダードにしてしまったので、ここは単なるコストセンターにしかならない。泥沼の様な金食い虫である。となると結局出口は台数規制になるのかも知れない。

大容量バッテリーの搭載だけではBEVが抱える課題は解決できない

 大容量バッテリーは全てが良いことばかりではないのだ。例えば最初に挙げた日産の高出力型(というには憚られるが)の6kW普通充電器で一晩に充電できるバッテリーはせいぜい50kWhくらいまで。つまりリーフのバッテリー容量の大きい方、62kWhモデルは、一晩では100%まで充電できない。「満充電にしなくても良い」という意見もあるが、ならばその余剰バッテリーの「コストと重量」も余剰だ。80kWhや100kWh、ましてや200kWhなどと言う容量は、流石に今我々が持っているインフラに対して過剰に過剰だ。

 さて、話は戻って、経路充電についてもう少し述べよう。EV派の人たちは「休憩時間や食事中や宿で充電すれば良い」と簡単に言うが、それはそこら中にテスラのV3充電器が諸々の問題を解決し大量設置され、かつ他銘柄車にも開放されたらの話で、誰でも使える手持ちの武器が50kW高速充電器しかない現状では、20分毎に30分の休憩を余儀なくされ、そして必ず時間通りに休憩を終えなくてはならない。

 例えば紀伊半島一周の旅を考えて、昼飯には南紀白浜でクエ鍋を食おうとか、夜は串本の漁師の宿で朝獲れの美味い魚を食おうみたいなルート設定は自由に出来ない。まず飯屋にも宿にも充電器があることがマストになる。星がいっぱい付いたマリオットとかヒルトン系列のホテルとかなら恐らく充電器はあるだろうが、クルマに宿と飯の主導権を握られてしまうのは、旅としてはなかなか厳しいと筆者は思う。

 それ以前に、今回、深夜帯に第三京浜と横浜新道で2往復ばかりした途中で、都築と保土ケ谷のパーキングや、目黒通りの三菱自動車などで充電をしたが、都築は全ての店が閉まっており、保土ケ谷は新たに開店した松屋だけが開いていたものの流石に牛丼を食うほど腹も減っていない。三菱は向かいにセブンイレブンがあるだけマシだったが、それだって30分、いやおかわりも含めて1時間の時間を潰すには十分とは言えない。散々寒い思いをして体調を崩した。

 さて、最後に誤解無きように書き添えておくが、この記事は何もBEVなんてダメだと言っているわけではない。先に書いた通りBEVには美点はいっぱいあるのだ。

 自宅充電の航続距離で毎日の運用が足りる人、あるいは、もう一台ロングツアーに使うクルマがある人。あるいは旅の制限とかをむしろパズルの様に楽しめる人だったら、それはむしろ高評価ポイントなのかも知れない。

 時刻表トリックくらいの勢いで精密に立てたプランを実行する楽しみも世の中にはあると思う。ただし忘れ物を取りに戻っただけで、そのプランは全て瓦解するし、そこからの立て直しは結構大変だ。

 だから、大変残念ながら、BEVは誰にもと言うレベルで普及するにはまだインフラが間に合っていない。利便性がもっと向上するまでは、選ばれた人達のキラキラなステイタスなのだと思う。

今回のまとめ

  • ・現時点におけるBEVの最適解はシティコミューター的な使い道に限られる
  • ・バッテリー容量を増やしても充電問題の解決にはならない
  • ・現時点でBEVの魅力を享受できる人は限られている
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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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