車の最新技術
更新日:2021.11.26 / 掲載日:2021.09.17

【EV】AUDI e-tron Sportbackの走りを深堀する【石井昌道】

文●石井昌道 写真●ユニット・コンパス フォルクスワーゲン・グループは電動化にもっとも積極的な姿勢をみせているが、そのなかのプレミアムブランドであるアウディは、近い将来の商品力という点で優位に立っているように思える。 いまのところ日本で販売される唯一のEVであるe-tron/e-tronスポーツバックのプラットフォームは、Q5などエンジン車と同様のMLB evo。間もなく発売となるe-tron GTはポルシェ・タイカンと同様のJ1パフォーマンスプラットフォーム。その次に導入が控えているQ4 e-tronはフォルクスワーゲン開発のMEB、そして現在ポルシェと共同開発中のPPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)と4種類ものプラットフォームがあり、様々な商品展開ができるからだ。ライバルのメルセデス・ベンツやBMWと同じく販売台数は200万台程度だが、ポルシェやフォルクスワーゲンといったグループの強みが生かせるのが有利だ。現在のところ、2026年以降に発売する新型車はEVのみとし、2033年までにエンジン搭載車の生産を廃止すると表明。欧州では2035年にエンジン搭載車の販売が実質禁止になる見込みで(e-FUELなど再生可能エネルギー由来の液体燃料によってエンジンが生き残る可能性は残されている)、欧州メーカーはそれにあわせたロードマップを描いているが、矢継ぎ早にEVを増やしていく体制をアウディは整えている。 とはいえ、エンジン廃止までまだ10年以上はあるので、PHEV(プラグインハイブリッド)、エンジン車、EVが造れるMLB evoの役割は大きい。A4以上のエンジン縦置きFWD系はすべて網羅しているプラットフォームだ。 PPEはアッパーミドルサイズからフルサイズまでカバーするEV専用プラットフォーム。MLB evoと同じセグメントとなるが、EV専用とすることでバッテリーの搭載性があがる。基本はRWDベースで、フロントモーターを採用したAWDに対応するMEBと同様の基本構成は、パッケージングで効率的だからだ。 J1パフォーマンスプラットフォームは、スポーツカーとしての性能を考慮している。EVのほとんどはバッテリーを床下に敷き詰めるため、背高になりがち。そこで、後席の足下だけはバッテリーを搭載しない“フットガレージ”と呼ばれる窪みを設けることで、1400mmを切る低全高を実現している。 MEBはすでにフォルクスワーゲンからI.D.3などが発売されているが、ゴルフと同等のボディサイズながらEV専用プラットフォームの強みでホイールベースが長くとれているので室内空間は広い。Q4 e-tronもコンパクトながら2760mmのホイールベースとQ5並となっている。現在のアウディのラインアップでは、A1からQ3までをカバーすることになるのだろう。

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エンジン車に戻れなくなるほどの気持ちよさがe-tronにはある

 e-tronスポーツバックはアウディ初の量産EVだが、すでに高い完成度を見せつけている。アウディは品質の高さや抜群の操縦安定性などに定評があったが、MLB evoを採用してからさらに磨きがかかった。 以前は、安定しているけど、その分なんだか硬さを感じることもあったが、最新世代はあらゆる動きがスムーズかつ円やかで上質になったのだ。例えば、発進から加速して巡航速度に達したところでアクセルペダルから足を離すと、スーッと抵抗感なく転がっていく感覚などに、いかにも機械的な精度の高さを感じ、とても上質なのだ。EVになるとそれがさらに強調され、洗練された雰囲気に心が豊かになる。 e-tronスポーツバックは、Dレンジで普通に走らせているとアクセルオフしても回生はゼロ。デフォルトがコースティングになっているが、あえてそうしたのは持ち前の上質感を見せつけているようにも思える。エフィシェントアシストをONにしておくと、前走車に近づいていくと車間距離を保つために自動的に回生が強まっていくのも未来的な感覚で、EVらしさがある。 自分のEVの記事では、常々EV化するとシャシー性能が良くなると述べているが、それに気付かせてくれた一台がe-tronスポーツバックでもある。 まだ日本上陸を果たしていなかった頃にドイツのアウトバーンで200km/h巡航を試したのだが、その直後にエンジン車で同じMLB evoプラットフォームを採用するA6で同じ場所で同じ速度で巡航したらなんだか走りにくかった。超高速域で真っ直ぐ走らせるのに神経を使わされたのだ。これはゴムなどのエンジンマウントによる重量物の揺動による悪影響であり、EVにはそれがないから直進安定性も抜群に良くなるのだと知った。A6のシャシー性能はかなり優秀なほうであり、しばらく運転していたら感覚がなれて無意識のうちに真っ直ぐ走らせられるようになったものの、一度よくできたEVを体験してしまうとエンジン車に戻りたくなくなるかもしれないと思わされた。 現状のe-tronスポーツバックでもこれだけいいのだからEV専用プラットフォームになったらさらに磨きがかかるだろう。今後のアウディのEVが楽しみで仕方がない。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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