車の最新技術
更新日:2021.11.22 / 掲載日:2021.08.06

軽自動車の参加で加速する物流改革【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第17回】

文●池田直渡 写真●トヨタ

 7月21日、スズキ株式会社とダイハツ工業株式会社は、トヨタを中核とする商用車アライアンスへの参加を発表した。

 元を正せば、3月にいすゞ自動車と日野自動車とトヨタ自動車の3社が、ジョイントし商用車の協業に乗り出したのが発端である。

 この事業では、いわゆるCASE領域の多くの部分をプラットフォーム化して統合することを目的としている。目指すのは物流の圧倒的な効率化である。

CJPに軽商用車が参画することで、物流のDXはさらに加速する

 流通は多くの零細事業を含む事業者が、リレー形式で業務を繋ぐことで構築されており、大手の物流会社でも下請けの零細事業者がその一部に組み込まれていることもある。それこそトラック1台、社長1人という会社も存在し、そういう事業者を組み込む形でリアルな物流網は形成されているわけだ。

 物流事業者が、貨物のトレーサビリティや、リアルタイムの輸送スケジュール変更などに対応しようとする場合、大手企業が全て社内の機材とスタッフだけで回すならともかく、現実的にはそれだけで物流網を構築するのは不可能である。

 例えば、アマゾンの物流は、ヤマト運輸や佐川急便や日本郵政と言った大手だけでは賄えず、中小零細業者を束ねた、デリバリープロバイダによって補完される形になったが、そのサービスクオリティには否定的な声も挙がっているのが現状である。もちろん仕事へのモチベーションなどの問題もあるかもしれないが、少なくとも、アマゾン本体のトレーサビリティレポートと十分に整合するシステム端末が無いという問題も影響を与えていると思われる。

 GAFAの一翼を担うアマゾンにしてこういう状況であることを考えると、物流業界において、昨今叫ばれているデジタルトランスフォーメーション(DX)化をどうやって端々まで普及させるかという課題は中々に難しい。

 3月の3社連合は、この問題を積極的に解決するべく、車載の通信システムを事業用基幹システムと連動させて、リアルタイムな情報交換を行うと共に、基幹システム側からも、労務管理や車両管理、給与計算などにいたる営業実務や総務実務をワンストップ化させてしまおうという大胆な取り組みである。

 それは取りも直さず、物流OSのドミナント構築ということになり、そこに流入するデータは膨大なもので、まず間違い無く世界最大のビッグデータとなるだろう。

 膨大なビッグデータを上手く分析し統合して使えば、無駄な走行距離の削減によるCO2の低減や、車両の故障やドライバーの体調不良に起因する事故の防止、交通集中による渋滞の緩和、さらに、もちろん顧客の希望配達時間の精度向上や再配達のリアルタイム受付など、利便性の向上など、物流が抱える数々の問題を解決する糸口になるはずだ。

 そうして問題を解決するために、「Commercial Japan Partnership(CJP)」という事業体を新たに発足させて、物流現場のニーズを聞き取り、より使い易いOSを構築するための取り組みが始まっているのだ。

 人体に大動脈から毛細血管まで多様な太さの血管が存在するように、物流にも大型トラックから軽トラまで様々な輸送機材が存在するのだが、本格的にOSを完成させ、事業者の利便性を構築して行くつもりならば、当然軽自動車領域のデジタルトランスフォーメーションを組み込まなければ、絵柄が完成しない。物流のラストワンマイルを担うのは軽トラの役割だからだ。

 どこからどこまでが大型トラックで、どこからが中型か、それを軽トラにどうバトンタッチしていくかも、ビッグデータとAIが緻密に割り出せば、輸送効率は大幅に向上するはずである。

 CJPが取り組む物流のデジタルトランスフォーメーションに取って、欠くべからざるパートが本格的に組み込まれた。それこそが今回のスズキとダイハツのアライアンスへの加盟の真の意味である。

スズキ、ダイハツ、トヨタ共同記者会見

スズキ、ダイハツ、トヨタ共同記者会見の模様。トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 : 豊田 章男/ ダイハツ工業株式会社 代表取締役社長 : 奥平 総一郎/ スズキ株式会社 代表取締役社長 : 鈴木 俊宏/ Commercial Japan Partnership Technologies株式会社 代表取締役社長 : 中嶋 裕樹

今回のまとめ

・CASE時代の商用車を支えるプラットフォーム作りが行われている
・CJPは言わば日本のメーカー連合で、新たに軽商用車メーカーが加入
・「ラストワンマイル」を支える軽自動車の参加によってCJPは本来の姿に

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

この人の記事を読む

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ